第一章 小説家・アイドル・王様 4
赤く染まった満月――
僕はいつの間にか広大な大地に立っていた。
空に赤い満月が浮かんでいる。そして、あたりは何もない大地で、乾燥してゴツゴツとした褐色の岩場で、そう、火星の地面に似ている。あたりは夕方のように薄暗いが、何も見えないわけではない。
薄闇の中、僕は目の前に何かがいるのが分かった。
その赤い月光に、三人の、いや、三体の生命体が照らされている。
一人の顔はサイ、手には拳銃を持っている。
一人の顔はゴリラ、手にはサブマシンガンを持っている。
一人の顔はゾウ、手にはスナイパーライフルを持っている。
瞬時に、その生命体が銀行強盗だと分かる。
しかし、あまりにも異形だ。
人間の体と同じく二本足で立ち、片手には銃器を持ち,もう一方の手はだらりと下げている。人間サイズに調整されたサイ・ゴリラ・ゾウの頭がその体の上に乗っている。全身は灰色の迷彩服を着ていて、顔から下だけ見れば、三人の特殊部隊の隊員が立っているように見える。
しかし、頭は三匹の動物の顔、そして、目が赤く、血走っている。
「さて、真木英司」
黄色い猫はずっと僕の肩の上に乗っている。
「ここが決戦の地マールスなのであります。我々、《夢を叶えるもの》が《欲望を育てるもの》アワーリティア達と戦う場所なのであります」
黄色い猫による初心者向けの説明が続く。
「アワーリティアは全部で六体いると言われているのであります。彼らは、現実の世界には姿を滅多に現さず、このマールスに生息し、目の前にいる三匹の魔物はアワーリティアに欲望のスイッチを押され、欲望を満たすことを繰り返す魔物と化した人間なのであります。おそらく灰色のグリゾスというアワーリティアによって生み出された魔物なのであります!」
――灰色のアワーリティア・グリゾス。そして、他にも五体のアワーリティアがいる。
「アワーリティアは自身の欲望を源泉としてマールス側に誕生したのであります。彼らが生きるために必要な食料は欲望であり、彼らはマールスからおまえらの世界で欲望に満ちた生物を探し、欲望を満たしたいというスイッチを入れ、行動させているのであります」
「それじゃ、あの銀行強盗たちは灰色のグリゾスってやつに操られているってことか」
「そうじゃないのであります。あくまでもアワーリティアはお前らの世界の生物の欲望を掻き立てるだけで、決して彼らが操っているわけではないのであります。銀行強盗自身が自分の欲望により自分自身の欲望を満たすために行動しているのであります」
彼らが僕たちに気づく。
「そして、銀行強盗の欲望を具現化したものが今見えている三匹なのであります。つまり、この世界マールスで彼らを倒すことができれば、銀行強盗の欲望は消え去り、君たちの世界は救われるということになるのであります。おまえに与えられた任務はあの三匹の魔物を倒すことなのであります!」
――できるわけがない。
「理解できたか」
それにしても、初戦で一対三か。
〔《夢を叶えるもの》と《欲望を育てるもの》とのバトルを開始します〕
――Ready
――Go
僕の初戦が始まる。