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第一章 小説家・アイドル・王様 3

 ハッピーバースデー トゥー ユー♪♪♪

 ハッピーバースデー トゥー ユー♪♪♪

 ハッピーバースデー ディア 真木英司♪♪♪

 ハッピーバースデー トゥー ユー♪♪♪


――すばらしい! 

――さあ、新たな《夢を叶えるもの》の誕生を祝おうではないか!



 突如、世界は真っ黒になり、車椅子の男の声が薄れていく。

 僕は契約が間に合わず、銀行強盗の弾丸に命を奪われてしまったのだろうか。

 いや、そもそも、車椅子の男なんて、僕がまだ生きていたいという願望が作り出した幻想だったのだ。


 暗闇に包まれた静寂の中、一分程度が過ぎただろうか。


「無事に契約は成立したなのであります! 間一髪のところだったのであります!」

 暗闇の中、声だけが響く。


「おい!」


「おい!」


「おーい!」


 声を掛けられるものの、あたりは暗闇一色で何も見当たらない。


「おーい! 下を見るのであります!」

 いつの間にか僕の足元に一匹の黄色い猫が座っている。全身が単一の淡い黄色、金色にも近い色の毛で覆われ、鼻が茶色で、目はコバルトブルーだ。


「いつの間に!?」

「最初からずっとお前の足元に座っていたのであります」

 黄色い猫が喋っている。


「ジョブスが説明した通り、吾が輩とおまえとの契約は成立したのであります」

 ジョブス――あの車椅子の男の名前だろう。


「これでおまえは新たな《夢を叶えるもの》の一員となったのであります。我々《夢を叶えるもの》は想像を力に変えることができ、その力をお前は手にしたのであります」


 黄色い猫は重力に逆らい、ふわりと浮き上がると、僕の目の前の高さまで浮上して止まる。

 お腹の毛まで淡い黄色だ。


 僕はこの状況を把握できずにいた。

 夢見銀行での銀行強盗との遭遇。車椅子の男の出現。アワなんとか。灰色のなんとか。《夢を叶えるもの》に,想像を力できること。そして、極め付けがこの目の前に浮遊している淡い黄色い猫ってわけであります!


「猫――君は――しゃべれるの――」

「そんな無駄な質問しないで、まずはこれを受け取るのであります」

 僕の話を遮り、猫が話を続ける。


 一瞬の閃光とともに、猫の隣にスマートフォンが出現する。


 SONYのXperiaで、茶色の革製のケースに収納されている。

 そのスマホは先ほど銀行強盗に撃ち抜かれ、壊れたはずの僕のスマホだった。一年ほど使い込んだ革の色合いは僕のスマホケースの色合いと全く同じだ。

 ただ、弾丸に撃ち抜かれたはずのスマホは何もなかったかのように元通りになっている。


 僕はふわふわと宙に浮いたスマホを手に取る。

 天然革が手になじむ。大きさも同じで、違和感もない。

 確かに僕のスマホだ。


「さあ、真木英司」

 この猫、なぜ僕の名前を――


「《夢を叶えるもの》になった契約の証として、お前のスマートフォンに、DDSというアプリケーションをインストールしたのであります。さあ、確認してみるのであります」


 猫のチュートリアルに従って、スマホのロックを解除すると、ホーム画面に新しいアプリが追加されている。

 アイコンは、赤い背景にデフォルメされた男の顔。髪の毛の色はミドルグレーで,七三に髪がわけられ、メガネをかけている。


 車椅子の男の顔だ。

 そのアイコンの下には、アルファベットで三文字――DDSとアプリケーションの名称が書かれている。


 そのアプリのアイコンは激しく明滅を繰り返している。


「現実の世界で夢見銀行を襲った銀行強盗――やつらは《欲望を育てるもの》アワーリティアの一人で、灰色のグリゾスが生み出した欲望の産物であります。アワーリティアが銀行強盗の欲望のスイッチを入れ、欲望に取りつかれた生物が誕生した瞬間から、すでに《夢を叶えるもの》と《欲望を育てるもの》は臨戦状態に突入し、バトルフィールドが誕生しているのであります。だから、参戦資格のある《夢を叶えるもの》が持つスマホのDDSのアイコンはそれに反応しているのであります」

 黄色い猫はスマホの画面を見つめる。


「さあ、真木英司」

 黄色い猫はもう一度僕の名前を呼んだ。


「お前がそのDDSのアプリのアイコンをタップすれば、《夢を叶えるもの》と《欲望を育てるもの》とが対峙する決戦の地マールスでの闘いにステージを移行するのであります」


 黄色い猫が僕の右肩に座る。

「決戦の地マールスへ行くのであります!」


 僕はアイコンをタップした。


 アプリの起動とともに、一瞬画面が真っ黒になり、うっすらとDDSという文字が浮かび上がり、数秒で消失する。そして、


―――Are You Ready?

とスマホの画面の上部に表示され,その下に「Yes」と「No」のボタンが表示される。


 僕は「Yes」のボタンを押す。


「レッツゴー!であります!」

 黄色い猫は楽しそうだ。


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