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第一章 小説家・アイドル・王様 2

「あなたは――」

 夢見銀行のロビーで銀行強盗が銃器を銀行員に突き付け、金を要求するという混乱の中、彼のあまりに非現実的な登場に、僕はただそれしか発することができなかった。


「キミはその夢、小説家になるという夢、叶えたくはないか」

 車椅子に乗った赤いスーツの男は再び口を開き、同じことを喋った。


 髪の毛の色はミドルグレーで、七三に分け、四角い形のメガネをかけている。年齢は同世代か。痩せ形で、赤いスーツの下に白い無地のシャツ、黒いネクタイだ。


「さて、今ここで、キミが考えることができる時間は、あまりにも少ない。今すぐ、答えを出さなければならない。しかし、今、キミが、小説家になるという夢を叶えることを選択するのであれば、この危機的状況から逃げること、いや、立ち向かうことができる。キミはヒーローになるのだ」

 熱い口調だ。


「銀行強盗をしている彼らは、《欲望を育てるもの》アワーリティアに憑りつかれている!」

 《欲望を育てるもの》アワーリティア――謎の単語を飲み込めない。


「おそらく灰色のアワーリティア・グリゾスで間違いない! 銀行強盗はアワーリティア・グリゾスに憑りつかれ、自らの欲望――金持ちになりたい!という欲望を満たすため、突き動かされている」

 赤いスーツの男はしゃべり続ける。


「キミはすでに彼らにその存在を気づかれ、狙われている。だが、今ならまだ、選択が可能だ。《欲望を育てるもの》アワーリティアを倒し、その欲望を希望に変え、君自身の夢を叶えたくはないかね」

 一呼吸置く。


「夢を実現したいのであれば、《夢を叶えるもの》になるのだ!」

 熱く激しい口調だ。


「それとも、ここで死を選択するのかな。命が大切であれば、ヒーローになることも悪くない条件だと思うのだが」




 バキーンッ

 スナイパーライフルの弾丸がシェフレラの鉢を破壊する。シェフレラが倒れ、身を隠す場所がなくなる。


 車椅子の男は平然と僕の前にいた。


「でも、あんな武器を持った強盗と戦うことなんて――」

 左肩を負傷し、武器を何も持っていない僕が、拳銃・サブマシンガン・スナイパーライフルと対面するなんて、生きて帰られるわけがない。


「それはまったく問題ない。人類ははるか昔から脳内で物語を描き、それを紙につづり、小説という別世界を創造してきた。我々人類には想像力があり、想像力は――無限大だ!」


「我々は、私も、キミもすでにその力を持っている。特に小説家を目指すキミには、私の期待に添えるだけの想像力を必ず持っているはずだ。そして、その想像力で《欲望を育てるもの》アワーリティアと戦えばいい」

「でも、どうやって」

 僕の疑問に赤いスーツの男がニヤリとする。


「キミは一匹の猫と契約することで、想像力を戦う力に変えることが可能となる。キミは持つことができるのだ。想像力により《欲望を育てるもの》アワーリティアと戦うことができる奇跡の力を」

 男の言っていることを全く理解できない。


「私の提案は、キミの小説家としての能力にピッタリの力だと思うのだが、どうかね。私の見立てでは、契約が成立すれば、キミは彼らを圧倒する力を、凌駕する力を手にすることが可能だ!」


 想像力を戦う力に変える――

 何を言っている――何を言っているんだ、この人は。

 こんなことはありえない――非現実的だ。


 バキーンッ

 スナイパーライフルから弾丸が射出される。


 だけど、僕は、今、このまま何も成し遂げることができずに朽ち果てるのか。


 それは――

 それは―――断る!


 僕はまだ夢を見ている。小説家デビューも、百万部のベストセラー達成も、数々の文学賞も、もちろん本屋大賞も。そして、映画化されて、キャスティングされた有名女優やアイドルに出会わなければならない。


「よろしい。キミの気持ちは固まったようだ。契約は成立だ」

 そう言うと、車椅子の男は一瞬で消失した。

 銀行強盗の放った弾丸が僕を貫く。




――ハッピーバースデー! 

――さあ、新たな《夢を叶えるもの》の誕生を祝おうではないか!

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