第二章 アプリ・筋肉・デビュー 3
伊達エリカ。
人気アイドルグループ○○の去年の総選挙で一位になり、今年からはアイドルグループを卒業し、ソロ活動を始めている。ここ四年から五年は全く売れていなかったが、去年の総選挙で一位になった。
「そういえば,ネットニュースで流れていたんですけど、伊達エリカって黒い噂ありますよね。アイドルグループ○○が初期メンバーからの世代交代って流れになったけど、次世代のセンター候補が次々と謎の失踪をして、結局、残った伊達エリカが総選挙で一位になったって。実は、その失踪事件の黒幕は伊達エリカじゃないかって、先輩も知りません?」
「当然、その噂は知ってる」
――その夢、叶えたくはないか
夢見銀行でジョブスが言った言葉が頭をよぎる。
《夢を叶えるもの》になり《欲望を育てるもの》アワーリティアを倒すことで、夢が叶えられる。おそらく、伊達エリカは――
「じゃあ、先輩約束してください。伊達エリカ本人にあの黒幕説が真実かどうか確認してくださいね」
「あのなぁ」
僕はスマホに移った伊達エリカを見つめていた。
「もし黒幕説が本当だったとしても、本人から本当だったって言うわけもないだろうし、もし黒幕説が本当だったら、どうやってアイドル二人も失踪させられるんだよ。誘拐か。コロシか」
「本人がやらなくても、多額の報酬を支払って、黒服の男を雇ったとか――」
鳴海がハッとする。
「思いついちゃいましたよ,先輩。アイドルがヤクザってどうですかね。怪しすぎる。これは、これは、怪しすぎる」
鳴海がくぐもった笑い声をあげると、ジョッキを手にし、ビールを一気飲みし始めた。
「店員さん、おかわり!」
鳴海は再び大きな声で叫んだ。
「で、先輩は、最近何を書いているんすか。あんまりWeb小説の投稿もしてないみたいですし」
「スランプなんだよな。コンビニでバイトして、自宅で悩んで、ベッドでゴロゴロして寝るの繰り返しだ」
なんともまあ,寂しい生活か。
「今、書いているのは核戦争により大混乱に陥った世界で,一人の科学者が地球に接近する巨大な隕石を発見してしまう。そんな中で、隕石を発見した仲間の科学者が殺されていく。おそらく隕石が地球に落下し、核戦争以上のダメージを与えることを隠蔽しようとした組織的犯行だと気づいた主人公は仲間の科学者を殺した犯人を見つけるという推理小説を書いているんだけど、すでに滅亡寸前の世界に追い打ちをかける隕石の到来が間近なのに、刑事でも何でもない科学者が殺人事件を解決しようとするかどうか――ってね」
鳴海は目を閉じ、うんうんっとうなずいている。
「いいじゃないですか。読んでみたいな」
とそのとき、
ピコン――
アプリの通知だ。
ロック画面上に、
〔《欲望を育てるもの》により《欲望を育てるもの》が産み出されました〕
とアワーリティアの出現が表示された。
「鳴海、悪い。急用が入った」




