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錬金術師と道具と小話  作者: エルリア
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ポーション(後編)

薄暗い洞窟を一組の男女が進んでいく。


女は飛び掛かる魔物を剣でいなし、男は不意打ちをかける魔物を拳で殴り倒す。


二人が通った後には倒された魔物がゴミのようにポイ捨てされていた。


通常であれば綺麗に解体されるはずの魔物が残されているのは、二人が追われているからである。


そう、時間という魔物に。


「おい、今どの辺だ?」


「地図によれば8階層の中盤ってところかな。」


「ここまで来てやっと中盤かよ。ここまで来て拾えた薬草が3つ、それに対してこの魔物の量、ちょっとおかしいんじゃねぇか?」


「確かにちょっとおかしい気はするけど、誰も掃除していないだけかもしれないし・・・。」


そう話している間にも休む事なく魔物は二人に襲いかかり、剣の錆にされていく。


いや、一人は拳か。


彼らが9階層を目指し出してどれだけ時間が経っただろうか。


陽の光が入らない場所はいとも簡単に人の感覚を狂わせる。


それが1分なのか1時間なのか半日なのか1日なのか。


ダンジョンの中にいる限り、それはわからない。


「晩飯の時間には

間に合わないか。」


はずだ。


はずなんだが、男にはどうやらそれがわかるらしい。


「え、もうそんなに経つの?本当に?」


「嘘言ってどうする。」


「でもでも、陽も当たらないのにどうやって時間がわかるのよ。」


「俺の腹時計がそう言っている。お前も犬なら感覚でわかるだろ?」


「犬じゃないわよ!じゃなくて犬でもわからないわよ普通は。」


規則正しい生活を長年続けると体内時計でわかるようになるらしい。


なるらしいが、それを狂わせる場所で本当にそれが正しいのかを見極める術はない。


信じるか信じないかは自分自身だ。


「とりあえず次に安全そうな場所を見つけたら休憩だ。今から急いだってどうせ間に合わん。」


「・・・そんなにサーラと寝たかったの?」


「当たり前だ、あんな良い女と寝れるのが嬉しくない男なんていないだろ?」


「知らないわよ私女だもん。」


「女でも寝たいと思うやつはいると思うがな。」


「嫌よ女性同士なんて男の人じゃないと。」


世の中にはいろんな人がいる。


同性が良いという人もいれば異性じゃないとダメな人もいる。


みんな違ってみんな良い。


ちなみに男も異性じゃないとダメなタイプだ。


「あそこの角を曲がれば行き止まりだけど小さな部屋に出るわ、そこで休憩しましょ。」


「魔物はいるんだろ?」


「中のやつを倒せばしばらくは沸いてこない筈よ。」


「どちらにせよ掃除は必要ということか。」


「仕方ないじゃない、ダンジョンの中だもの」


ダンジョンは魔物を産み出す。


各階層によって魔力の濃さが違い、深ければ深いほど魔力の密度は濃くなり出て来る魔物も変わってくる。


濃い魔力では強い魔物は生きられるが、薄くなると死んでしまう。


駆逐すれば魔力が溜まるまで魔物は現れないという寸法だ。


「休憩するためにも最後の一踏ん張りといくか。」


「結構戦ってきたけど、拳痛くならないの?」


「こいつが衝撃を吸収しているから痛いほどではないな。」


そう言って男が突き出した拳には指ぬきグローブのようなものが装着されていた。


掌から指の第二関節まで覆われたそれは、黒い革のように艶のある光沢がある。


「見たこともない素材ね。」


「俺の師匠が昔どこかの遺跡からひっぺがして来たやつらしいが、詳しいことはしらん。子供の頃に気まぐれで渡され以後俺の一部になっている。」


「脱げないの?」


「引っ張っても無理だな。」


「呪われているんじゃない?」


「例えそうだとしてもはずす気はないさ。こいつのお陰で俺はここまでやってこれたんだ。」


「ふーん・・・。」


ジーナは恐る恐るグローブに触れてみる。


冷たいが肌触りがよくすべすべしている。


あれだけの戦闘を行ってきたにも関わらず傷やへこみは見当たらなかった。


「満足か?」


「あ、うん、ごめんなさいありがとう。」


「お前の剣もそろそろ整備すべきだろう、さっさと終わらせるぞ。」


「こんなことなら研ぎ石も持ってきたらよかった。」


「終われば貸してやる。」


「何で持ってるの!?」


「錬金術師だからな、大抵のものは持ち歩いている。」


「いや、普通は持ってないでしょ。」


普通は持っていない。


なぜなら不必要な道具は重しになり行動の邪魔になってしまう。


冒険者は最小の荷物で最大効率を指さなければならず、不必要なものが入る場所などないはずだ。


「要らないのなら別に構わんが?」


「いる、要ります!貸してください!」


「じゃあしっかり働けよ、肉壁。」


「もっと別の言い方があるでしょ。」


「そうだったな、駄犬。」


「犬じゃないわよ!っていうか駄犬って何よ!」


「仕事しない犬は駄犬だろ?」


「働くわよ!」


男に挑発され仕事を果たすべく先行するジーナ。


男はその後ろをニヤニヤしながらついていくのだった。


通路を曲がり目的の部屋の前。


そこでジーナは立ち止まった。


「あれ、ない。」


「行き止まりだな。」


そこには地図にあるはずの部屋がなかった。


「おい、この地図は間違いないのか?」


「今週出たばかりの最新版よ、間違ってるはずなんてないのに。」


「だが実際部屋はない。」


「隠し部屋でもないみたい、音が固いもの。」


剣の柄で壁を叩いてみるが左右の壁と同じ音が帰ってくるだけだ。


通路はそこで切り取られたように止まっていた。


「なんだ、地図も読めないのか駄犬は。」


「読めるわよ!ここまで来たじゃない!」


「だが実際問題ここは行き止まりだ。」


「魔物の量といい地図といい、なにか変なのよね。」


「一度戻るか?」


「戻っても地上に戻るには10階層まで行かなきゃいけないもの。このまま9階層を抜けた方が早いわ。」


確かにそうだ。


ここまでかなりの時間をかけてきている。


それを逆送するぐらいならば先に進んだ方が効率は良い。


「俺はお前についていくだけだ、道案内頼むぞ。」


「念のためここで少しやすんでから行きましょ、ちょうどはじっこだし。」


「それもそうだな。」


二人は左右の壁に向かい合うように座り込み、ジーナは男から借りた研ぎ石で武器を整備し、鎧に付いた返り血を拭う。


男は鞄の中を漁ると、何故か小さなコンロとヤカンを取り出した。


明らかに鞄よりサイズがでかいのだが、どうやって出てきたのだろうか。


「えっと、なにしてるの?」


「何って茶を入れてるんだよ、お前も飲むか?」


「飲むかってここダンジョンよ?」


「ダンジョンだろうが休憩するんなら茶ぐらい飲むだろ、いらないなら別に俺だけで飲むだけだ。」


誤解のないように先に言っておこう。


普通は飲まない。


このような、いつ何時魔物に襲われるかわからないような場所でお茶を沸かして飲もうとするのは世界広しといえどこの男ぐらいだろう。


「飲む。」


「なんだって?」


「飲むから下さい!」


「そんな大声出したらまた魔物が来るだろうがこの駄犬。」


「駄犬じゃないわよ!」


「わかった、わかったから少し静かにしろ。準備できたら呼んでやるから。」


男は怒るジーナをなだめながらヤカンを火にかける。


ちなみに簡単に茶を作るとは言うが、ダンジョンで新鮮な水を準備するということ自体がそもそも難しい。


それをさも当たり前のようにやってしまうこの男は一体何者なのか。


「ただの錬金術師だ。」


「え、もうできたの?」


「独り言だ。」


ただの錬金術師であるらしい。


男が茶を沸かす傍らジーナは整備の手を休めない。


剣の整備が終われば今度は鎧を外し金具の確認をする。


返り血は拭けば取れるが、金具の中に入ったものを放置すれば錆びて破損の原因になる。


ダンジョン内のため完全にばらす事はしないが出来る範囲で手をかけてやる。


女性の身でありながら金属製の鎧を着こなし、長剣を振るジーナはただの冒険者という感じでは無さそうだ。


「ベテラン冒険者よ。」


「なんだって?」


「別に、なんでもない。」


自称ベテランであるらしい。


整備も終盤、一度外した鎧を再度着用する事に爽やか香りが辺りに満ち始めた。


「いい匂い。」


「辛気臭い場所だからな、せめて気分ぐらいは上げておきたいだろ。」


そういってこれまたどこから出したのかわからないサイズのコップにお茶を注ぎ、ジーナに渡す。


「これ、高い香茶じゃないの?」


「どうだったかな、師匠の荷物棚からかっぱらってきたからわからん。」


「毒じゃないのよね?」


「ここに来るまでに何度か飲んでいる、これで最後だ。」


「ならいっか、いただきます。」


「火傷するなよ。」


「しないわよ・・・アチ!」


舌を出し、息を吹きかけながら香茶を冷ましていく。


「ん、美味しい。」


「これを飲んだらすぐ出発だ。こんな場所さっさとおさらばして上手い飯を食って一発やるに限る。」


「あのさ、そういえば名前聞いてなかったんだけど。」


「俺のか?」


「貴方以外に誰が居るのよ。」


「別にすぐ別れる奴に名乗る必要ないだろ?」


「私が困るの。いつまでも貴方って言うのも面倒だし、それとも名前を知られたら駄目な理由があるの?」


そういわれて男は考えた。


男からすれば行きずりの女に名前を名乗るのはめんどくさい。


だが、仮にもダンジョンという危険な閉鎖空間である以上ここでジーナとの関係がこじれるのはもっとめんどくさい。


今の所は1人でも対処できる魔物だが、この先数が多くなればジーナの存在は必要不可欠だ。


地上であれば1人で逃げ出すのは容易いが、ダンジョンの性質上すぐに逃げ出せない場所で孤立するのは非常に危険だ。


その他諸々の事情を踏まえても名前を名乗らないという選択肢は得策ではないと男は結論付けた。


「レンジだ。」


「レンジ・・・。」


「なんだ変な顔して。」


「もっとごつい名前を想像してたから、ちょっと驚いただけ。」


「なんだそのごつい名前ってのは。」


「ほら錬金術師って偉そうな人多いし、そんな人ほどすごい家名とか長ったらしい名前付いてたりするから。」


この世界において錬金術師というのは一般の職業ではない。


文字の読み書き算術が出来、素材の判別から調合にいたるまで多種多様な知識が要求される。


ただの農民や一般市民ではそのような教育を受ける事は非常に難しかった。


よって、錬金術師になれるのは貴族や商人もしくは代々錬金術師を生業としていた人々ぐらいである。


そういった人は総じて名前が長くなるのだった。


「師匠は長い名前でもないし、俺だってそうだ。他にも短い名前の奴は居るだろ。」


「うん。でもいい名前だね。」


「お褒めに預かり光栄だよ。」


「レンジ、ふふふレンジか。」


「何だ気持ち悪い。」


「別になんでもない。ご馳走様さぁいきましょ!」


香茶を一気に流し込みコップを男へ返すとジーナは一気に立ち上がった。


「次は道を間違えるなよ。」


「間違えないわよ、っていうかここも間違えてないし。」


「だが部屋はなかった。」


「うん、だからこの先はちょっと慎重に進む。魔物の数といい、いつものダンジョンじゃないみたい。」


「俺は薬草があって外に出れればなんでもいい。」


「もう、緊張感ないなぁ。」


やれやれとため息をつくジーナを横目に男は荷物を全てカバンに放り込むとゆっくりと立ち上がった。


埃を払いグローブを確認する。


手を開閉し強く握ると大きく息を吐いた。


「行くか。」


「ほら、置いていくわよ!」


「一人で進んで死ぬなよ駄犬。」


「だーかーらー!」


抗議の声を上げるジーナをなだめつつレンジは先を急ぐ。


全てはサーラとの夜の為に。



それから程なく二人は8階層の階段を降り9階層へ降り立つ。


そこは今まで以上に濃い湿気と草の臭いに満たされた空間だった。


足元はコケで覆われ、一歩進めばコケが崩れ重心をずらしてしまう。


呼吸をすればむせるほどの湿気が肺を満たし、心なしかじっとりと汗ばんでくる。


不快指数120%の空間だ。


「おい、階層が違うだけでこんなに環境が変わっていいのか?」


「そんな前来たときはここまで緑に覆われていなかったのに。」


「それはいつの話だよ。」


「一節前ぐらいだと思うけど・・・。」


「それでこんなに変わるのか?」


思わず口元を覆ってしまうほどの湿気、そして濃すぎる草の匂い。


出来るならば長時間滞在したくない場所だ。


「わからない。でも、いつもと違うのは間違いないと思う。」


「何が違うんだよ。」


「それがわかれば苦労しないわよ。」


「これだから駄犬は。」


「もういいわよ・・・。」


ジーナはとうとう言い直すのを辞めた。


いくら抵抗してもレンジは気にも留めないことを悟ったようだ。


「ここも長居は無用だ、さっさと集めるもん集めて上に戻るぞ。」


「草の匂いが濃すぎて探せないわよ?」


「探す必要なんざねぇ、手当たり次第に魔物を倒せばいずれ落ちる。」


そもそも9階層を目指した理由はそれだ。


植物系の魔物を倒せばいつかは落ちる。


まさに脳筋的発想だった。


「とりあえず出口に向かって進めばいいのよね。」


「あぁ、道中に出る魔物を倒してそれでも出なければ出口を基点に魔物を探せばいい。」


「わかった、こっちよ。」


ジーナは地図をみながら先を進む。


いまのところは地図通りの道が続いていた。


違うのは異常なほどの湿気と植物の量。


そして魔物の強さだ。


「あきらかに強くなってるよなこいつら。」


植物の魔物と同時に先程まで戦っていた普通の魔物も襲ってくる。


その魔物が明らかに強くなっていた。


攻撃の速さだけではない。


身のこなしや強さが明らかに違った。


「やっぱりそう思う?」


「あぁ、歯応えが違いすぎる。ここの魔物は下に降りるほど強くなるのか?」


「下の方が魔力が濃くなるから強い魔物が出るようにはなるけど、個体が強くなるか何て聞いたことがないわよ。」


「だが実際強くなってんぞっと、終わりだ!」


レンジの拳が猪の魔物の眉間を突く。


寸胴のような巨体がズンっと地に伏した。


「剥ぎ取ってお肉にしたら美味しいけど、ちょっと元気ないな。」


「お前は大人しく薬草の匂いを嗅ぎ付けろ。」


「犬じゃないんだからね!」


「わかったから探せ。」


「もー!」


ジーナは怒りつつも周りの匂いをかぎはじめる。


血と獣の匂いの中にかぎ慣れた匂いをみつけた。


「あったよレンジ!」


「でかした!」


獲物を見つけた子犬のように誇らしげな顔をするジーナのアタマをくしゃくしゃとなでてやる。


少し気持ち良いのかジーナは目を細めてそれを受け入れた。


「二個か、こいつはついてるな。」


「これでポーションが作れるの?」


「あぁ、5個集まったからな。」


「ねぇねぇ作るところみて良い?」


おねだりをするようにおずおずとジーナが尋ねる。


「別にすごいもんじゃないぞ?」


「私錬成ってみたことないの。」


「見るだけならな。」


「わかった!」


レンジは鞄から空のフラスコと薬草を取り出し、フラスコの中に薬草を千切りながら積めていく。


五つ分ともなるとフラスコはぎっしり薬草でいっぱいになった。


「結構雑なのね。」


「普通は乳鉢なんかですりつぶすんだがな、今回は緊急用だ。」


「これでおしまい?」


「よく見てろよ。」


男はフラスコをもつ手にもう片方の手を重ねて、集中するように目を閉じた。


ポーション錬成(クリエイトポーション)


レンジがそう呟くとフラスコが白い光につつまれ、光が収まると緑色の液体でフラスコは満たされていた。


「すごい!ポーションが出来た!」


「あたりまえだろ、これでエーテルが出来る方が困る。」


「本当にレンジは錬金術師『様』だったんだね。」


「なんだその『様』ってのは。」


「ここでは大切なポーションを作ってくれる錬金術師を錬金術師『様』ってよんでるのよ。」


「俺は別に偉くともなんともない。」


レンジはぶっきらぼうに呟いた。


「それにお前、さっきまで『様』付けしてなかったじゃねぇか。」


ついでに先程までのジーナの発言にも突っ込みを入れる。


「あまりにも街の人と違うからつい・・・。」


「まぁいい、作るもん作ったしさっさとこんな場所からおさらばするぞ。」


「帰ってこの異常な状況も報告しないとね!」


この異常な状況は何かしらの理由で魔力が濃くなったせいだろう。


それがわかっただけで二人にはどうすることも出来ない。


二人は地上に帰るべくダンジョンの奥へと急いだ。


だが、強化された魔物が二人の行く手を阻む。


特に今までの魔物と違い植物系の魔物はわかりにくい。


結局今までよりもゆっくり進むことを余儀なくされるのだ。


そしてもうすぐ10階層というときだった。


「左に一匹いや二匹いるな。」


「あ、本当だ壁に埋もれてるけどマンドラゴラね。」


マンドラゴラ。


有名なのは土から引っこ抜くときに叫び声を上げそれを聞いたものは死んでしまうという植物。


だがダンジョンに自生するそれは蔓を触手のように動かし、獲物を捕獲しては実の部分に付いた口で捕食してしまう食人植物だ。


「燃やせば早いが魔法が使えないんだよな、俺たちは。」


「捕まらずに斬れば問題ないでしょ?」


「斬ってもすぐ生えるが時間稼ぎにはなるな。」


「じゃあ私がひきつけるからその間に本体をお願いね。」


「この場合仕方ないだろう。」


マンドラゴラの弱点は本体部分だ。


斬るか潰すかすれば活動を停止する。


だが、蔓だけは何度斬っても再生する厄介な魔物だ。


ジーナは剣を構えゆっくりと魔物との間合いをつめていく。


間合いに入れば一瞬で片が付くがそう簡単に行くはずもなく、剣が届くよりもだいぶ手前で蔓がジーナを狙い始めた。


「ちょっとぐらい気付かなくてもいいじゃない!」


すばやく延びる蔓を切り刻みながらジーナが応戦をする。


一匹だったらそれで仕舞いだが、二匹はお互いの再生時間を補い合うように時間差でジーナを攻め立てた。


斬れども斬れども終わりがない。


近づけば絡め取られ、即座に魔物の口に入れられてしまう。


決して強い魔物ではないが二人には少々部が悪かった。


「まだ届かないの!?」


「残念ながら距離がありすぎる。もう少し近づかなければ届かないぞ。」


「だから武器が要るって言ったのに!」


「うるさい、肉壁は黙ってひきつけとけ。」


ジーナの背後からレンジが本体を狙うも連携の取れた二匹にタイミングがつかめないでいた。


早ければ絡め取られ、遅ければ手が届く前に迎撃される。


にらみ合いがしばらく続いた。


「おかしい、ただのマンドラゴラがこんなに強いはずがない。」


「それは俺も同感だ。ただの植物がこんなに速く動けんなら今ごろ地上はこいつらの天下だ。」


「これも魔力の濃さが原因かな?」


「しらねぇよ、こいつらに聞いてくれ。」


ただのマンドラゴラであれば二人の敵ではなかった。


だが濃い魔力の影響で強化されたそいつらは通常よりも遥かに強い個体へとかわっていたのだ。


そのために膠着状態となってしまう。


終わらない攻撃の応酬だ。


だが、その時間も永遠ではなく時間の経過は体力の消耗を意味する。


次第にジーナの動きに疲れが見られ、蔓を捌くタイミングにずれが出てきた。


「しまった!」


タイミングがずれれば一匹ずつだった攻撃にもう一匹の再生が追いつくことになる。


それは二匹同時に攻撃される事を意味していた。


一匹を対処している間にもう一匹の蔓がジーナの足に絡みつき、足捌きを封じ込める。


上手くよける事の出来なくなったジーナは瞬く間に二匹の魔物によって縛り上げられてしまった。


「ちょっと、やだ、やめて!」


マンドラゴラの蔓はただの蔓ではない。


絡め取った魔物をしびれさせる毒が樹液に含まれており、ジワジワと魔物の動きを奪っていく。


普通のマンドラゴラに捕まっても少ししびれる程度だ。


だが、この強化された個体はそれだけで済む筈がなく身動きを取れなくするほどに強い毒で相手を苦しめるのだった。


抵抗もむなしくジーナもマンドラゴラの毒に少しずつ犯されていく。


「この、離しなさいよ・・・。」


握ったままの剣を振り回すも蔓に届くはずがなく、ジンワリと体を犯す毒に次第に力が抜けてしまう。


蔓は手足を拘束した後、鎧の上からでは毒がしみこまない為鎧の内側に蔓を這わせはじめた。


見た目はまさに触手に犯されようとする女剣士そのものだ。


服がめくれ、あらわになった素肌に蔓が絡みつく。


サーラほどではないが一般女性よりも立派な胸が鎧越しに圧迫されて形を変える。


「この変態、どこ、さわってんのよ・・・。」


蔓は胸から下に標的を移し、腹部そして陰部の方へと蔓を伸ばす。


マンドラゴラは植生である為卵を産む事はない。


もしこれが卵生の魔物であったならばすぐさま子宮を狙われていただろう。


18禁ゲームさながらの触手プレイいや蔓プレイをレンジは黙ってみているわけではなかった。


魔物の標的が完全にジーナへと向いたその時をただひたすらに待ち続けていたのだ。


「もう、だ、め。」


剣士の魂である長剣を握る力すら奪われ、ジーナの手から剣が滑り落ちる。


魔物は獲物を手に入れた喜びに震えるように、体を揺らした。


「レン、ジ。た、す、けて・・・。」


「いい加減にしろよ、エロ植物が!」


植物に喜ぶという感情があるかはわからない。


だが、間違いなくその瞬間だけ魔物の意識はジーナだけに向けられていた。


そのタイミングをレンジが逃すはずがなく、滑り落ちた剣を受け取ると一番遠いマンドラゴラに向かって投げつける。


剣はまっすぐに飛び、マンドラゴラの眉間らしき部分に突き刺さった。


「キィィィィィィ!!」


悲鳴とも呻きともわからぬ声があたり一面に響き渡り、突き刺さった方の蔓がジーナの拘束を解く。


レンジがそれで終わるはずがなかった。


ジーナの背後から飛び出し剣を投げつけた後、即座に近い方のマンドラゴラへと接敵した。


蔦はジーナに絡み付いており本体は無防備にその体を晒している。


「くたばりやがれ!」


怒りのこもった叫びと共にマンドラゴラの中心めがけて渾身の拳を叩き込んだ。


拳はマンドラゴラの体をつきぬけ声を出させぬまま絶命させる。


命を失いただの植物になったもう一匹の蔓が緩み、ジーナの体は地面に放りだされた。


「ったく面倒な奴らだ。」


樹液だらけの手を強く払い、毒が回らないうちに布でキレイにふき取る。


奥に居た魔物に近づき剣を回収するとレンジは動けないままのジーナのところへ戻った。


「おい駄犬大丈夫か?」


絡んだ蔓を剣で切り取り、ジーナを蔓から開放する。


だが二匹分の毒を吸収したジーナは声を出す事もできずその場で痙攣するのだった。


「こりゃちょっとまずいな。」


胸元と腹部に入り込んだ蔓を引っぺがし、ジーナを仰向けに寝かせる。


痺れを誘発する毒は筋肉だけでなく内部の臓器にまで達するとその臓器自体にも痺れを起こさせる。


つまりは肺や心臓まで達するとその活動を鈍らせるのだ。


そのためジーナは呼吸も浅く声を出す事もできないでいた。


「おい、ジーナおい聞こえているか?聞こえていたら返事しろ、返事が出来ないなら瞬きを二回だ。わかるか?」


ジーナの目を見つめながらレンジは問いかける。


声を出せないものの声は聞こえているのか、ジーナが二回瞬きをした。


「今楽にしてやるからな、ちょっとまて。」


レンジはカバンの中に手を突っ込みガサゴソと漁り出す。


そして真っ黒い丸薬を取り出した。


「麻痺毒用の丸薬だ、飲めばすぐに効く。」


レンジは一粒つまむと痺れて半開きになったジーナの口に丸薬を突っ込む。


だが、口の中も痺れてしまっている為に喉の奥に飲む込む事ができないでいた。


「おい、飲まないと死ぬぞ。聞こえているのか?」


聞こえてはいる。


だが飲み込む事ができなのだ。


そして口の横から丸薬が零れ落ちる。


毒がゆっくりと心臓を犯し、意識も朦朧としてくる。


あぁここで死ぬんだ。


ジーナはそう理解した。


ベッドの上で死ねない職業だということはわかっていた。


他の冒険者のように大きな怪我をして死んでしまうんだ。


そう思いながら日々戦っていた。


だがまさかこんな所でこんな弱い魔物に殺されるとは思っても居なかった。


『体を食われるとか魔物に犯されるとかじゃないからいいか。』


そんな諦めの気持ちのまま意識を手放そうとしていた。


「おい、俺の前で死ぬとかふざけんなよ駄犬!」


『誰が駄犬よ・・・』


声にならない声でそこだけは反抗する。


意識が一瞬もどったその瞬間、ジーナの唇にレンジの唇が重ねられた。


突然の事に何をされたのかわからないジーナだったが、重ねられた後今度は液体が口の中に流れ込んできた。


直接注ぎ込まれた液体は重力に逆らわず喉の奥へと流れ込み、むせる事ができないまま胃の中へと注がれていく。


胃の中に入ったのは液体だけではなかった。


先程飲み込めなかった丸薬も一緒に口の中に押し込まれていたのだ。


胃の中に入った薬は液体の効果で即座にその効能を発する。


注がれた液体、それはさっき作ったポーションだった。


ポーションの効果と共に一瞬にして体中に薬が回り、痺れかけていた筋肉臓器全てが元の状態へと戻っていった。


「がは、ゴホゴホ!」


痺れた筋肉が元に戻り、気管に入ってきた液体を押し出そうと思いっきりむせる。


多少の胃液とポーションを吐き出しながらジーナは起き上がった。


「お、効いたようだな。」


「ちょっと、何したのよ・・・。」


まだ本調子ではないのか弱弱しい声でジーナはたずねる。


「状況がまずかったからな、自力で飲めなかったし口移しでポーションと丸薬を流し込んだ。」


「流し込んだって、それ、さっき作った、ポーションじゃない。」


「あぁ、丸薬を即座に体に届けるにはポーションで飲むのが一番だ。」


「そうじゃなくて、せっかく作った、ポーションなのに。」


「ポーション1つでお前の命が助かるなら安いもんだろ。」


さも当たり前のようにレンジは答える。


もう何も言わないとばかりに、ジーナは聞くのを辞めた。


「痺れは半刻もしないうちに全てなくなるだろ、辺りを見張っているからお前はそこで休んでろ。」


「でも、依頼、は?」


「何とかなるだろ、俺を誰だと思ってる錬金術師『様』だぞ。」


何の根拠があって何とかなるのかはわからない。


だが、男は何とかできると言い切った。


「そっか、レンジ、だもん、ね。」


レンジだから。


それだけで納得したジーナは意識を手放し、気絶するように眠ってしまった。


「まったく苦労かけさせやがって」


レンジは無防備眠るジーナの頭を子供のように優しく撫でるのだった



それからしばらくして、二人が地上に戻った頃にはもう夜は明けようとしていた。


ジーナの毒は薬の効力でほぼ無力化できたものの、まだ痺れが残るようだ。


二人とも見た目にボロボロの状態で商店に戻ると寝ずに待っていたであろうサーラが物凄い形相でとんできたのにはおもわずわらってしまったが。


「・・・という事でダンジョン内、特に9階層付近が理由はわからないんだけど異常な状態になっているわ。」


「情報ありがとう、初心者冒険者の通う場所でその状況はちょっとまずいわね。至急冒険者ギルドに連絡して調査員を派遣してもらいましょう。大変だったわね、ご苦労様。」


「ううん、サーラも待たせてごめんね。私がへまをしたばっかりにポーションも間に合わなくなっちゃったし。」


「ジーナの命があるのなら違約金なんて安いものよ。」


事情を聞いたサーラが一番最初に発した言葉は『無事でよかった』だった。


サーラにとってジーナはかけがえのない友人であり、冒険者という職業上覚悟はしているものの無くてはならない存在なのだ。


「貴方もありがとうございました、ジーナを助けてくださって。」


「なに、駄犬を助けるのが近くに居る人間の役目だからな。」


「駄犬?」


「仕事の出来ない犬は駄犬だろ?」


「だから、私は犬じゃないってば!」


「うるさい駄犬お前ちょっとこれ持って少しはだまってろ。」


そう言うとレンジは先ほどジーナに使ったポーションの空フラスコを無理やり持たせる。


「サーラ、俺が渡したポーションを持って来てくれるか?」


「わかりました。依頼は不成立ですのでお預かりしていた分はお返しいたします。」


サーラは一旦奥に引っ込むとすぐにポーションを持って戻ってきた。


「依頼は不成立ですがジーナを救っていただきましたし迷惑料としていくらかお支払いしようと思うのですが・・・。」


「失敗?一体何の話だ?」


ジーナの発言に首をかしげるレンジ。


それを聞いた二人も首をかしげてしまう。


「だって、私が飲んじゃったから今からポーション1個準備するなんて絶対ムリよ。」


「その通りです。魔法でも使わなければ今から作るだなんて・・・。」


「残念ながら俺はただの錬金術師だから魔法は使えん、だがポーション10個を準備できるぞ。」


「一体何を言ってるの?」


「良いから持ってろ駄犬。」


「わかったわよ、もう何も言わない!」


「ポーションのフタを開けて、9個並べてくれるか?」


サーラはレンジの指示通り固定具を使ってポーションを9個並べる。


「確認だが依頼はポーション10個の納品だったな?」


「その通りです。」


「その他の条件は付いていないよな?」


「特にありません、ポーションを10個準備していただくだけです。」


「なら、こうやっても問題ないわけだろ?」


そういうとジーナに持たせた空のフラスコにポーションを少しずつ均等に注ぎ込んでいく。


9個のポーションから少しずつ中身を注がれ、サーラのフラスコには9個と同じだけのポーションが満たされていた。


レンジは既存のポーションから10%ぐらいの中身を移し変え、通常の9割量のポーションを作り出したのだ。


「これで10個ポーションになる。」


それを見た二人は開いた口が塞がらないようで、目の前にならんだ10個のポーションを不思議そうな目で見ていた。


「確かに10個あります。」


「そうだろう。」


「でもでも、中身少し足りないんだよ大丈夫なの?」


「特に条件はないんだ、多少中身の少ないポーションでも見た目が揃っていたら問題ないだろ。」


「でも効力が低かったりしたらどうするの?」


「俺を誰だと思っているんだ?そこいらの錬金術師『様』と一緒なわけないだろうが、俺が作った奴なら9割でそいつらの2割増しの効果が出るぞ。」


どこからその自信は来るのだろうか。


だがそれを聞いたサーラは納得したように頷いた。


「そうだよね、錬金術師だもんね。」


「これで依頼は完了だ。」


「確かにポーション10個の納品を確認いたしました。今依頼料を御準備しますのでお待ち下さい。」


どうやらサーラも納得したようだ。


棚の下から予定金額よりも多い銀貨を机の上に積みあげる。


「少し多いようだが?」


「これはジーナを救ってくれたお礼です。」


「そうかありがたく頂いておこう。それはそうと朝までダンジョンにいたからすごい空腹なんだ、どこかいい店を知らないか?」


レンジは銀貨を無造作に掴みながらサーラの目を見つめた。


その誘いに一瞬驚いたような顔をするも、すぐにレンジに向かって微笑みかけた。


「美味しい朝食を出すお店を知っています、良かったらご一緒しませんか?」


「それはありがたい、紹介してもらったお礼に御馳走させてもらおう。」


「それと、今日1日お休みなんです。」


「そうか。ならしっかりと食べないといけないな。」


カウンター越しに手を握り合う二人。


二人の意識はもうこの先起こるであろう事しか考えていなかった。


そんな二人を呆れた顔で見るジーナ。


だが、今日のジーナは昨日までとは違った。


意を決したようにレンジの腕を強く抱き寄せる。


「レンジ、私もお腹空いちゃったサーラだけじゃなくて私も行ってもいいでしょ?」


「何で俺が犬の分まで支払わなきゃいけないんだ。自腹にかまってるだろ。」


「いいじゃない、ケチ!」


「レンジ・・・?」


「あぁ、言ってなかったな俺の名前だ。」


「私のほうが先に名前聞いたんだから順番は私が先でしょ?」


「どんな条件だよ。そんな話聞いたこと無いぞ。」


「今決めたの!」


サーラは信じられなかった。


あの奥手で男性になんて全く興味の無かったジーナがあんなにも大胆に男性に抱きついている事を。


そしてなにより、自分より先にレンジの名前を聞き出していたことに。


だがそこで負けるサーラではない。


後れを取ったのであれば今から挽回すれば言いだけの話だ。


それにレンジは今日私と食事をして、私を抱くといってくれているんだ。


それをジーナに取られるのはプライドが許さなかった。


「だめよジーナ、レンジ様は私と約束があるんだから。」


「いいじゃない私とサーラの仲でしょ?」


「それとこれとは話が別です。それと、私と一緒にレンジさんに抱かれる覚悟があるの?」


「え、いっ一緒に?」


「これから私達が何するかはわかっているでしょ?それについて来るんだからそれぐらいの覚悟はあるのよね?」


サーラは知っていた。


ジーナが処女である事を。


そして若い街娘よりも男性への憧れが強く、セックスへの興味よりも底に至るまでの手順を大切にしている事を。


そんなジーナが二人一緒になんて許すはずが無い。


そう、確信していた。


「・・・いいもん。」


「え?」


「レンジがいいなら私も一緒に、その、抱いてほしい・・・。」


「ウソ!」


「だから私も一緒に行って良いでしょ?」


「俺は別に1人だろうが2人だろうがやることは一緒だ。」


「じゃあ決まりね!ほら、サーラは訳しないとおいていくよ!」


ジーナはレンジの手をしっかりと抱きしめるとグイグイと店外へ引っ張り出す。


衝撃の事態に放心状態のサーラ。


だがここで引き下がるサーラではない。


「そんな血なまぐさい格好で食事に行くの?着替えてからのほうが良いんじゃない?」


反対の腕を胸を押し付けるような形で抱きしめるサーラ。


二人の視線がレンジの前で火花をちらす。


二人の美女に抱きしめられているにもかかわらず盛大なため息を付くレンジ。


レンジからしてみれば早く食欲を満たし、その後の性欲と睡眠欲を貪りたいだけだった。


「風呂に入れば皆一緒だろ?さっさと行くぞ。」


「あ、まってよレンジ!」


「お待ち下さいレンジ様!」


二人の手を振り切ると大股で歩き始めた。


振り払われた二人が慌ててその後を追いかける。


その後三人がどうなったのか。


それはまた別のお話ということで。


このお話はひとまず完了です。

お読みいただき楽しんでいただけたら嬉しいです。


いき抜きに書き進めております。

1章たまりましたら投稿していきたいと思います。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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