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淡的アンバランス。  作者: 三ツ目くりっく
一章 一学期。
3/3

3 少女ヒアー。



 (あたし)が十四歳の時、もう生き方は決まっていたのだと思う。

 年に一度、自分の欲しいものがもらえる日、一年で一番、融通が利く日に、私は『今の家』と、『自律』を願った。そう、十四歳の誕生日に、ひとり暮らしを望んだ。

 不幸に生きてきたつもりはない。ただ距離を置きたかっただけで。嫌いじゃない、嫌になっただけで。

 どんなに私が『かわいそう』でも、受け取りたくないものがあっただけだ。


 

 

 この街には『怪物』がいる。

 誰が言い出したのかまことしやかに、お伽話のように語られるものが人の居る場所には必ずある。お姫様が出て来て王子様が出て来て、割と子どもに見せられないようなああいう系統しかり、夜道で跡をつけて来る生気の無いなんたら、どうしてそんなんで存在出来るんだといった不条理から生まれたようなかんたら、理不尽に掻っ攫っていく絶対的な負・場所の名前。

 ファンタジックでヒステリック。

 感情的で抽象的。

 有象無象に森羅万象。出所なんて探るだけ時間の無駄。だって真実らしきものしか人は語れない。どんな噂話も評判も『あの人がこう言ってた気がする』で全てが曖昧に、不安定不確定に成り下がるのだから。

 だから、そうだ。これは一つの想像上の話なのかもしれない。

 不思議な力に魅入られて、道を踏み外した親友を苦心を経て倒すような話なのかもしれない。殺してでも倒して英雄になる話なのかもしれない。

 『怪物』はその、悪役なのかもしれない。人が人から『怪物』になったものの総称なのかもしれない。

 

 或いは、どこからともなく。


 人があまりにも愚かだから、代わりの存在を創ったのかもしれない。数を増やし森を切り倒し、自ら故郷を殺していく愚かさへの、罰なのかも。

 だって自滅だろう。新聞で騒がれる『殺人事件』『交通事故』『遺産問題』『政治家汚職』『薬中毒』etc…。考える脳、理解する力、自覚する感情……明らかに分かっていても暴走暴発を繰り返して、同意を得られなければ強行して、言語で解せよと言われてもぶつかって拗れて疲弊して……ほら、やっぱり自滅している。だから、

 だから、何か変な、自滅に追いやってしまうもの、おかしなものを意図せず創り出す、創り出されるような原因を、何処かで作ってしまったんじゃなかろうか。欠片とも自覚せず、砂時計がちまちま落ちるように、埃が、塵が溜まるように、ほんの少しずつが。ほら、人って数が多いから、ほんの少しでも身から出たのなら、『塵も積もれば』、知っているだろう?山のように積み重なって、『誰だこんなに汚したのは!!』って、エラいヒトが思ったりするんじゃないだろうか。

 そんな意図で創られたのだとしたら、人の『害』になるのは当然なんじゃなかろうか。


 あれ?おかしい?何がおかしい?

 ああ、アレは『悪』なんだって話じゃなかったかって?人の成れの果て、可哀想な、運のない人『だったモノたち』何じゃないかって?

 『怪物』は、悪いモノだって話だろって?

 違う違う。ちょっと落ち着いてくれって。入れ込みすぎて盲目的になっているよ。そんな話じゃなかったって。君が『そう』信じたいのはよく分かるけどさ。誰だって君のような人がまず『普通』なんだろうね、その方が罪悪感もないし楽で、救われる。そんな陰謀論的な話はまるでお伽話みたいなのに、あるかもしれないってだけで怖くて、恐ろしいもんね。え?どっちなんだって?サぁ?どっちだろうネ。

 ともかく、話を最初の方に戻してみようか、悪だ何だの、その前の方だよ。

 この『街』には、そう話し出したよね?ワッ、怒らないでよ。


 『怪物』は何処かに居るらしい。

 どういう定義があるのか分からない。どんな姿をしているかも分からない。子どもなのかもしれないし老いているのかもしれない。数はどう?人より多い?人より少ない?大きさは?学校より大きかったら?蟻より小さかったら?

 誰も答えられないだろう。

 知らないから。根も葉もないから。公式に何も出ていないから、「いる」「いない」すら決められない。

 だからあえて、ここでは「いる」ってな前提で話そうと誰かは言った。「いない」なら「いない」で終わるだけ。ならば「いる」にしておこうと。

 さて、どうなるだろうか。

 何がどうとも言えない『怪物』がこの街に存在するとして、どうだろう。

 怪物が、この街に。人の(ことわり)とどれくらい同じで、どれくらい違うのか分からないが常識的に、想定できる範囲にいる程で語るならば、奴らはどこに居るのだろうか。怪物と判る造形をしているのかは置いておいて、“存在”であるならばどこかには居るだろう。

 では、どこに?


 ああ、そうそう。そうなのさ。居るってなると、居るための場所が必要な訳で。

 質量という概念がとっついているなら隠れなきゃあいけない。え?だって『怪物』だよ?隠れない訳にはいかない、そうは思わない?『怪物』は意外と慎み深いんだ。生活圏を最低限守るくらいには領分をわきまえているのさ。

 え?お前こそ随分?ふんふん。それにやけに知った風じゃなって?ヤだなあ勘ぐって。そこまで確信持てる?もしかしたら又聞きかもしれないのに。疑い過ぎる点も人の汚点だと、少しは慎んだらどうかな。そう、『怪物』のように…。ワッ…。

 …また怒らせたね。申し訳ない。


 『怪物』の生活圏を探ろうとした、それを広めたパイオニアらしい人間がいた。パイオニアは散々非道だ不完全体だ意地汚いだと言った後、───やつらは、“どこにもいない”気がすると訳の分からない事を言った。非難囂々だったという。鼻で笑われるくらいならまだマシだったとか。

 そうなのか…?そうなのかと広まった中で、誰かが「実はそいつらははな…」と言い出したらどうだろうか。


  ん?

  そうだよ。読めたかい?流石に判るか、ごめんねぇ長々と。

  こんなのを垂れ流すこの行為こそ、人の浅ましさだと思う?思うよねぇそう思うよねぇ右に同じだよ。笑ってしまうね?

 前置きは長い方が好きなんだ。だってより一層話が引き立つ気がしないかい?前置きから始まるものが好きなんだよ。物事は順序を持って起こるとよく分かるからね。

 順序無しには起こらないんだよぉ何事も。

 まぁ兎に角とにかく、「実は…」とこれだけ、これだけが話の本筋。いやぁこれだけ喋ると壮観だよね。八十%の自己満足を得られて気分が良い。そう、言いたいことはこれだけなんだよ。風情がね、欲しかったんだ。


 こんな事を言っていたんだって話。面白がるようにああではないかこうではないかと漠然たる噂が流れた。騒然としたそこらの、ちょっと離れた店の店主が言っていたのを聴いたんだ。


 「関わらないのが一番だよ」と。

 

  巫山戯るな!何だそれは!って思った正しい感性を持ったまっとうな『普通』の人へ。それこそ尊ばれるべきだと思う。

 そう思ったのならそれが、尤もな『普通』なんだから。  






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 茅色の緩く伸びる短髪、肩に当たるか当たらないかの長さ。焦げ茶の瞳の、印象が薄く感じられる顔をしている。ピンクのワンピースに、くすんだ緑のコートをよく着ていた。

 人目を引く常時身に付けたものを持った少女は、人にキャロと呼ばれていた。




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