[03]魔法少女VSガラケー獣
巨大なガラケーの怪物が街を襲っていた。
『がははっ! どうだ魔法少女、手も足も出まい。この軽快にパチンと閉まる画面の感触! これぞ我らが拘りッ! スマートフォン如きには絶対に真似のできぬ奥義!!』
そんな意味不明なことを口走りながら暴れ回る〈折り畳みガラケー獣〉。狙いは魔法少女に変身した津島さん。彼女は軽快に身を翻し、間一髪のところでその挟み込み攻撃を退けた。
「ふっ……他愛の無い。その奥義、見切ったわ! c・t!」
振り向きざまに火球攻撃の魔法を放つ津島さん。クリティカルヒット。爆炎とプラスチックの焼ける臭い。よろめくガラケー獣。
そう。津島さんは魔法少女。そして浅見さんや香純ちゃんもその仲間だ。見ての通り、何の脈略も無くボクらは戦っている。
しかもいきなり戦いは終盤を迎えていた。ガラケー獣は哀愁漂う声で叫んだ。
『ウガァァァッ……な、ナゼだァッ 何故我が力が及ばぬ!』
「さあ、プリンセス! 今がチャンス。必殺技でとどめを刺すのよ!」
しかも津島さん、賽をボクに投げつけてきた。そもそもボクは魔法少女でも何でもない。ただ何となく巻き込まれているだけなのに。勘違いも甚だしい。
「だから何でボクが魔法の国のプリンセスなの? まあ、いいけど……じゃあ行きます! h・e・l・d・u ――ケシ飛べっ!」
放った攻撃で引き起こされた旋風にはためく、魔法のプリンセス風コスチューム。繊細な風合いの、幾重にもレイヤードされた純白の衣。たぶんこのヒラヒラとした格好が誤解の元なのだろうけど。正式名称は〈機動歩兵用強化装甲服〉と言うらしい。
質量を持った光の攻撃に呑まれるガラケー獣。はらはらと崩れ落ちながら、その破片が七色の光を反射しキラキラと輝く。
『おおおっ! プリンセス渾身の一撃ィィィ! しかーしッ……頭スッキリこれで目覚めたぞ! 老兵は静かに去るのみ、我が人生に一辺の悔い無しィィィッ!!』
何故かあっさりとやられるガラケー獣。おまけに、この理不尽なやられ方に納得しちゃってる。したり顔の津島さん。
「ふっ。さすがはプリンセスの必殺技、〈清らかなる善き魂よ再び〉……。〈邪心の結晶〉に魅入られた偽りの魂も浄化されたようねっ!」
え? そうなの。これって浄化する効果があるの? そんな設定初めて聞くんだけど。そもそも魔法じゃないよ今の?
というか〈邪心の結晶〉とか言う設定も初めて聞きました。それもたぶん、たった今、津島さんが思い付いた設定。
そんなボクの戸惑いをよそに津島さんは続ける。
「――さあ、魂を抜かれ使われなくなったガラケー達よ! 持ち主の家の押し入れの奥に帰りなさい! あ、そうだったわ……貴方達の体内には希少な金属が使われているの。できればリサイクルしてもらってね?」
『おおお、我が魂を救いし魔法少女、救いの光よ! さあ、一つだけ望みを言うが良い……我らは人の望みを叶えるべく生まれた存在。その力、最後に行使しようぞ!』
「ヘヴィメタルが支配する世界! 軟弱な音楽は聞きあきたわ!」
(――え?)
間髪入れず答える津島さん。見ると津島さん、眼をギラギラと輝かせ拳を握りしめていた。やがて消え入る〈折り畳みガラケー獣〉。消えゆく結界の中、声だけが木霊する。
『その望み、確と承った……歓喜せよ! お主が天下を取るその時まで、その言霊は力を持ち続ける――』
あーあ、聞きいれちゃったみたいだよ。どうするの?