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[20]リラックスタイム(自宅でもランちゃんといっしょ)

「あらぁ、可愛いわねー。このままウチの子になっちゃわないー?」


 幼女を連れ込んだりしてどうなることかと心配してたが、母さんはノリノリだった。スキンシップしたりスマホで写真撮ったり、ランちゃんの方が嫌がらないかと心配するレベルだったが、彼女の方もまんざらでもない様子だ。


「ミヤコの小さい頃を思い出すわぁ」

「あ、言っとくけどこの子、女の子だからね。ボクは男の子」

「何言ってるのぉ、小さい頃のミヤコは本当に天使だったわぁ……あ、もちろん今もお母さんにとっては可愛い天使よ」

「止めてください母上」

「あらぁ、拗ねてるのミヤコ? もちろん、封印をかけて男の子の姿にしていた時も、ずっと可愛かったわよ」

「むしろ今の状態が一種の呪いではないかと」

「王妃殿下! 姫様! お風呂が沸きました!」

「お先にどうぞぉ、私は後でいいから」

「母さんがそう言うなら……って、ランちゃんどうする?」

「みゃーこといっしょー!」

「えー、そりゃ不味いよ。かと言ってランちゃん一人じゃ……ねえ母さん?」

「いいんじゃないのミヤコ? お風呂に入れてあげなさい」

「ええっ」

「あやもいっしょー!」

「うん、アヤメ頼む! ランちゃんもそう言ってるし」

「さんにんで、おっふろー、おっふろー」

「そうですね姫様! それでは3人でお風呂に入りましょう」

「そうじゃなくて」

「はいランちゃん。おねーさん達と一緒にお風呂、入りましょうねー」

「おっふろー! きれいなおねーさんと、おっふろー!」

「…………」


 気の弱いボクは、さすがにヤバイと思いつつもアヤメとランちゃんに手を引っ張られ浴室へ。後はそのまま、流されるまま。


「はい、ランちゃん。ざばー」

「ざばー!」

「はーい、よく出来ましたー。それでは姫様と一緒にお湯に浸かってくださいねぇ」

「ちょ、ちょ……」


 いくら何でも我が家の風呂場に3人は多すぎで、ランちゃんの背中を流したアヤメが自分の体を洗う間、ランちゃんは湯船のボクに抱き付いてきた。


「ヤバい、ヤバいってこれ」

「みゃーこ、おはだすべすべー」

「ランちゃんの言う通りですねぇ。さすが王女殿下、お肌もきめ細かくって最高です」

「ねぇねぇ、あやとみゃーこ、いつもおふろ、いっしょなのー?」

「そうですよ」

「わー、エッチだー」

「おいこら」

「エッチエッチ~、ねぇねぇ、いつもどんなことやってるのー」


 子供ってやつは何でこうなんだ。


「そうですねぇ……二人で洗いっこしたり、お胸の成長具合を確かめ合ったり、ペロペロしたり」

「わぁ~い!」

「しれっとウソを混ぜるなよ」


 アヤメもアヤメだ……はしゃぎ過ぎ。子供に向かってそんなこと言っちゃダメだろ。


「ですが密着率が高いのは事実ですよねぇ。ここのお風呂、何分(なにぶん)狭いですから……王宮の浴場と比べると100分の1の大きさも無いのではないでしょうかねぇ」

「ホント狭いって。あぁ……今も密着したまま……マズいよきっと」

「まぁでも……姫様も、この程度の想定外のアクシデントを笑って受け流すくらいの余裕を持たないと……」

「うーん、みゃーこのせいちょうぐあい、まだまだかなー」

「止めろ、揉むな、頬ずりするな! やだ、くすぐったい!!」


 てんでバラバラ会話も噛み合っていない中、どさくさに紛れてランちゃんはアヤメの嘘八百を自分の手で実践し始めた。


「そういえばランちゃん、平気なのですねぇ」


 と、アヤメは唐突に妙なことを言い出した。


「どういうこと?」

「転生前は男の方だったのでしょ? 裸のお姉さん二人に囲まれて平気なのでしょうか」

「!?」

「姫様なんてちょっとの間、男の子として過ごされたってだけで、未だにギャーギャー騒ぎますし……やっぱり姫様、気にし過ぎです!」


 転生前? 男の子?


 アヤメの言うことが一瞬、理解できなかった。しかし記憶の糸を探っているうちに、ランちゃんと初めて出会った時のことを思い出し――そうだ。そうだった。津島さんに召喚された時のことだ。ランちゃん、どうして幼女になっちゃったの? って大騒ぎしてたっけ。


 そう。ランちゃん、転生前の記憶はおぼろおぼろで断片的にしか無いけれど、確か前世では男で、モテモテだったって言ってたような気がする。


 自分に置き換えて考えると羨ましいシチュエーションだ。だけど今の立場で考えるとちょっと嫌かも。


「ちょっとランちゃん、あまりじろじろ見ないで!」

「どーしてー?」

「だって……」

「そうですねぇ……姫様とランちゃん、似たような境遇の者同士、きっと気が合いますよ」

「みゃーこ、おとこのこなの?」

「ううう……」


 まさか見られて恥ずかしい体験をするなんて、男時代には考えられなかったと思う。それにしても、元男に浴場で欲情なんてされてたらシャレにならない……あ。


「……あ、ごめん」

「どうされました姫様? いきなり謝り出して」

「自分の脳内で精製したオヤジギャグに自分でツッコミを入れただけ」

「????」

「ところで……ランちゃん、聞くけどさ? 大丈夫なの?」

「だいじょうぶって? なにが?」

「その……裸で女の人に囲まれて。ボクだったらビビって逃げ出したと思う」


 しかしその答えはすこぶる奮っていた。


「うん! だってみなれてるもん! ぜんぜんへーき」

「見慣れてる?」

「うん」


 どういうことだよ!?


「なんたってロックスターだもん!」


 立ち上がったランちゃんは胸を張り、何を思ったか腰をくねくねさせ始めた。どうやら、ロックスターの生き様を体現しているらしい。


「ツアーにいくと、ライブのあとファンのおんなのこが、いれかわりたちかわり! もう、すごかったんだから!」

「はぁ……グルーピーって呼ばれる方々ですかぁ。やはりこちらの世界は、ちょっとタガが外れてますねぇ」

「解説しないでイイよアヤメ!」

「みんなで、らんちきさわぎだったよ! もうね、ずっこんばっこん! ま、ぼくのばあい、そうでなくても、いつもモテモテだったけどね!」

「ず……すっこんばっこんって、あーた……」

「そんなこと……されていたのですか?」


 さすがにアヤメも引いたらしい。ちょっとひきつった顔で尋ねる。


「うーん。ぼくにはフィアンセがいたからね! まじめだったんだよ。ちょこっとだけさ!」

「ちょこっとだけやったってこと!?」


 いや、聞かないでおこう。だけどランちゃんの口は止まらなかった。


「ずっとロックスターにあこがれててさ。うん、ロックスターはすごいよー。ふつうとは、ぜんぜん、べつのせかい! ファンのこがおしかけてきてさー。あとはね? けんかと、パーティーと、それと……なんだっけ……」


 ボクの脳内には、以前見た、とあるロックバンドを描いた大ヒット映画、その数々のシーンが蘇っていた。ランちゃんの言う通り、喧嘩と音楽に明け暮れる日々。ハッタリと裏切り。そして連日開催される狂ったようなパーティ。


 目の前で仁王立ちする幼女も、ボクら普通の人間とは全然別の人生、そんな人生を歩いてきたってこと? そう考えると、急にランちゃんが遠い存在のように感じられて。ところが。


「でもね」


 ランちゃんは表情を少し曇らせ。そして元気なさげに言葉を続けた。


「ちょっと、つかれちゃった」


 横を向いて、彼女――いや、彼だろうか――は言う。


「ぼくにはむいてなかったのかもね」

「え?」

「たから、いまがたのしい! ロックスターじゃなくても、みおや、みゃーこや、あやといっしょに、すきなようにロックできるのが、とてもしあわせ!」


 その後のランちゃんはやけにハイテンションだった。


 ボクの部屋でゲームをしたりネットを見たり。そうでなくてもこの部屋にアヤメと一緒でいつも狭苦しいのに、今日はランちゃんも加わり、ちょっとしたお泊り会気分で盛り上がりながら、宿題と、ベースギターの練習。


「ねぇ、みゃーこー?」

「ん?」

「みゃーこと、あやは、こいびとなの?」

「!?!?」


 返事の代わりに思わず吹き出しかけたジュースが、ボクの焦りを代弁していた。


「ちょ、何をいきなり」

「だってふたり、いつもいっしょだし」

「ま……まぁ。一緒というか、アヤメがボクのプライベートをさっぱり尊重していないのは確かだけど」


 また調子に乗ってあることないことべらべら喋り出すんじゃないかと、アヤメの方を覗うが、どうした訳か彼女は顔を真っ赤にしながら、挙動不審な顔芸を披露していた。


「あ、きにしないで! おんなどうしでもへいきだよ! そういうひと、いっぱいいたから。へいきだよ」


 変な慰め方をされてしまった。


「おとこどうしも、いっぱいいたけどさ!」

「止めてくれ!」


 想像させないでくれ。とゆーかランちゃんもそうだったなんて言わないでよね。そこまで考えた時、さっきの映画のシーンが再び浮かんできた。


「まさかランちゃん……」

「なにー?」

「前世がフレディ・マーキュリーだったなんて言わないでよ?」


 一瞬の沈黙がボクの焦りを増大させた。だけどその直後、底抜けに明るい笑い声が焦燥を打ち砕く。


「あははは。まさかー」

「違うの?」

「もちろん! でもクィーンはだいすきだよ! たぶん、いちばんすきなバンド!」

「良かった……」


 でも……クィーンを知ってる、しかもリスペクトしてるってことは、ランちゃんの前世って思ったより遥かに最近だってことになる。この言葉に、少しだけ彼女の正体に近づいたような錯覚を覚えた。


「みおにはね? クィーンのようなおんがくをめざそうって、いつもいってるんだ!」

「そうなんだ」

「うん。ポップでメロディアスなの、とーってもよくない?」

「確かに。クィーンったらいまだに世界中で人気があるからね。その方向性はアリだね」

「でも、みおはもっとヘヴィではげしいのがイイっていうんだ……そういうのは、あまりすきじゃないって……」


 よく言うよ、いつもあんなヘヴィで激しいギタープレイをしているくせに。


 津島さんの話題が出た時、彼女もこんな風にランちゃんとお風呂に入ってるのだろうかと、少し欲情の入った想像が頭を過った。ちょっとスケベ心が出できたのだろうか、津島さんのプライベートを知りたくなってきた。


「そうだ、ランちゃん。津島さんって自宅だとどんな感じなの?」

「うん。みお、いいこだよね!」

「いい子って?」

「みおさ、とてもどりょくしている」

「努力?」

「うん! みお、みんなにかんぺきだって、いわれてる」

「そうだね。完璧美少女、ヒメサユリの君……」

「でもさ、ほんとうは、ちょっとどじで、おもいこみがはげしくて、こまったちゃん、だよね」

「否定できない」

「だけど、それをみせないように、いっしょうけんめい、がんばっている」

「そっか」


 よく観察している。


 そしてランちゃんは、こう付け加えた。


「そんなみおのこと、たすけたい!」


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