[00]それは唐突に始まった
それはある夏の日、学校帰りに立ち寄った駅前広場での出来事だった。
遠巻きにこっちを見ているのは、ボクらと同じ帰宅途中の学生、外回り中の営業マンとおぼしき背広姿のサラリーマン、子連れのお母さんにオバちゃんにオッサンにお爺ちゃんお婆ちゃん。なにしろここは地方都市のターミナル駅、しかも暇人の行き交う午後の中途半端な時間帯。このシチュエーションで目立たつなという方が無理な相談だ。
この時間になってもまだジリジリとした日差しが降り注ぐ中、不敵な笑みを浮かべているのは半袖のセーラー服と薄手のブラウス。そんなお嬢様立ちの二人は、お揃いの仕草で『さあっ』と髪を掻き上げる。
「スクールアイドルで対決ね」
「望むところよ」
睨みあい火花を散らしていた二人はそう言うと、満足気な様子で頷き合った。何の脈略も無いままこうなったことの何処がそんなに嬉しいのだろう? 付き合わされているボク達は、さっきからずっと置き去りにされたまま。固唾をのんでこっちを見守るギャラリー。
「聞いた通りよ。ま、勝負は決まったようなものだけど」
事の始まりは街中でたまたま出会っただけ、しかし理由としてはそれで十分だったようだ。歓喜の声色を滲ませるのは誰あろう、ボクら白梅女学院の中で〈ヒメサユリの君〉などという大層な二つ名を恣にする津島深央さん。
その立ち居姿も清楚で可憐な彼女は文句無しの美少女。地元の名士として名を馳せる旧家の御息女だ。
彼女と対峙するもう一人のお嬢様の名は白井巳緒さん。旧華族という由緒正しい家柄のご令嬢。津島家と白井家は、どちらも地元の名門かつ超お金持ちということで有名だった。津島さんの一方的な宣言に白井さんも負けじと言い返す。
「その通りですわ。ただし勝つのは私達ですけど。精々、大舞台で赤っ恥をかかないように気を付けてくださいな、津島さん?」
彼女の取り巻きは、お揃いの小洒落た制服の少女達。
その大きなリボンのついたブラウスタイプの制服は、全国的に有名なミッション系名門お嬢様学校『聖リリス学園』高等部のもの。彼女達もボクらと同じ高校一年生なのだけど、そりゃ嘘だろうって位、揃いも揃ってきらびやかなで大人びた印象だった。街を歩いていれば確実にモデルとかのスカウトが来るよねきっと? ってな感じの、いわゆる超イケテル系。
ボクらの学校――白梅女学院なんてリリス学園と比べたら月とすっぽん。いやいや、こちらだって世間様からは『県下一、二を争う嬢様学校』なんて呼ばれているのだけど。彼女達と一緒にいると、まるで垢抜けて無くてどこか芋っぽい感じがするのは気のせいか。
急転直下の展開に面食らいお互い見つめ合うばかりのボクらは、もう一度津島さんと白井さんに視線を戻した。
二人は焦げ付くような視線をひとしきり絡め、瞳の中に宿るお互いの意志の揺るぎないことを確認したのか、満足気に微笑むとこちらに振り向いた。
「さあ、行くわよ? みんな」
――鋼鉄の天使と共に過ごしたあの狂った真夏の日々。これがその始まりだった――
はい。このような感じでヌルヌルと意味不明に進行するお話です。もしお気に召して頂けそうでしたら、お付き合いくださいませ。本作品だけでも楽しめるような構成となるよう注意は払っておりますが、主人公達のおバカなお嬢様系女子高ライフに多少なりとも興味を持って頂けましたら、本編の方も冷やかして頂ければ幸いです。
『姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)』
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