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籠の姫  作者: 桃巴


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帰還

「姫、俺は心を奪われました。青き一輪に。貴女です。……サラ、俺に誓わせてほしい」


 デイルはサラに手を伸ばす。サラは目を見開きデイルを見ている。デイルはフッと笑った。


「やっぱり、キザな台詞は似合わないな、俺には」


 そう言って、デイルは夜空を見上げた。サラもデイルの視線を追う。デイルが穏やかな声で言った。


「荒野に咲く青き一輪。姫、見えますか?」


 と。


「え?!」


 サラは驚く。サラはデイルを見た。デイルも微笑んでサラを見つめた。指を夜空に指す。


「あれです。青き瞬き」


 デイルはサラの背に腕をまわし、自身の前へサラを促した。サラは触れるデイルの腕にまたも熱を持つ。二人の影が重なった。


「見上げてください」


 デイルの吐息がサラの頭にかかる。サラはゆっくりと夜空を見上げた。


「青き瞬き……」


 ポロリと言葉が落ちた。サラは青き瞬きを見つめた。


「一輪……」


 息を溢すようにポツリと言葉が出た。荒野に瞬く一輪。サラは唯一の存在に心を奪われた。荒野から続く闇夜にぽつんと瞬く青き星。暗きに唯一の青い光りは、凜と咲いているようだ。


 サラは手を伸ばした。サラの手のひらに青き星がのっている。まるで一輪のように。


「ええ、ええ……荒野に咲く一輪の青き薔薇ですわ」


 サラはデイルの存在も忘れ見いっている。そのサラの伸ばす腕にデイルの腕が伸びる。サラの腕を下から支えるように、包むように。サラはゾクリと感じ、吐息が漏れた。


「ぁ……」


「嫌なら拒んでください」


 デイルはサラの手の甲をソッと包む。ゆっくりサラの腕を降ろしていく。サラの体が熱くなる。どうしてだろう、どうして、デイルが触れると体が熱を持つのか? サラは背中のデイルに集中する。サラの手はまだデイルに包まれている。


「嫌なら拒んでください」


 デイルの口からまた同じ言葉が紡がれた。そして、サラはデイルに包まれた。背後から優しく包まれる。サラの胸がドクンッと跳ねた。


 甘い吐息がサラの口からこぼれた。サラは恥ずかしくなる。こんな声知らない。自分の声でないようだ。


「心を奪われました。貴女に、サラ」


 デイルの声はサラの耳を刺激した。甘い告白にサラは力が抜ける。それをデイルが優しく支える。


「俺の青き一輪、サラ。誓わせてください。青の奇跡のように。あの瞬きに誓わせてほしい」


 デイルは足元がおぼつかないサラをくるりと回転させ自身の向けた。


「サラ、顔を見せて」


 サラはゆっくり顔を上げた。塔の時とは違う甘く優しく間近な瞳がサラを見つめていた。




 青き一輪の瞬きは二人を見ていたのだった。




 惑いの森に歌が流れる。クツナの者ならその歌声の主を知っている。皆の顔がパアッと明るくなった。


「サラ姫様がお帰りになったのよ!」


 城下町が活気づく。このクツナにも噂は届いていた。


「誰が姫様をお助けしたのかしら?」

「いや、姫様が淑やかに捕まってるわけないだろ? きっと逃げ出したんだ」

「待て待て、イザナ王子様が御出立されたではないか。きっと交渉が上手くいったんだろ?」


 しかし、まだ事の真相は届いてないようだ。サラが起こした奇跡の出来事を。




「やられた」


 惑いの森の入口に集まっている軽やかなる者たちは、ガックンと項垂れた。


「やっぱりな。俺たちより先に帰っているとは……さすが姫様だ」


 皆がハァとため息をついた。のなかで、エニシだけはニヤリと笑う。


「さてと、賭けはどうだったかな?」


「は? 俺たちだって姫様にたどり着けなかったのに、ヒャドの王子がまさか姫様に追い付くわけなかろう?」


 そんな会話の中、歌は森を巡る。早く確かめに来いと言わんばかりに。


「行ってみようぜ」


 エニシが走り出した。




******




この歌声は約束されたこと

覚えていますか?

捕まったら歌うと……

必ず歌うと約束したことを



あの日

歌わずに塔から飛び降りたわ

あの日

私は誰にも捕まらなかったわ



私の心を捕まえた者はいなかったもの



なぜ歌うのかしら?

約束だもの

約束だもの



私の心を捕まえた者

私は貴方の腕に包まれたい

私は貴方の腕の中に囲われたい

貴方の籠の中に




******




 歌い終わったサラは頬を桃色に染めて振り返った。デイルは優しく微笑んでいる。


「父上に歌うと約束していたのです。あの日、私を手にいれた者が決まったら歌うと。だけど、あの日は……」


 サラは瞳が潤む。デイルはサラに手を伸ばし抱き寄せた。


「ええ、そうですね。俺は情けない男でした。しょうもない誇りを捨てられず、見せ物にならなかった」


 サラはデイルの腕の中で頭を横に振る。


「抱き止めてくれました。あのマントが私の支えでした。貴方に抱かれていたようで。私、私は」


「そこまで。それ以上は俺の台詞です。


サラ、貴女をずっとずっとこの腕で包んでいたい。


俺と一緒になってください」


 デイルは抱きしめた右腕を胸に埋まったサラの頭へ持っていく。優しく優しく撫で、そしてサラの輪郭沿いに手を滑らせた。


 サラの顎をくいっと上げる。

 潤んだ瞳と桃色に染まった頬。


 デイルの腕にすっぽり収まったサラの存在にデイルは満たされる。サラとて同じ。


「はぃ」


 答えたサラの吐息は、デイルに奪われた。




***




 荒野に瞬く青き星。


 その青き星を愛する者と眺めれば、


 幸せになると云う。


 夜空に羽ばたく青き鳥。


 サラ姫のような奇跡の鳥。


 青の奇跡はいつの世にもある。


 奇跡は奇跡へと繋がるのだ。

次話4/19(水)更新予定です。

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