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籠の姫  作者: 桃巴


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29/41

来訪

 サラの籠の宮入宮翌日、ラフト宮殿はピリピリとした緊張が漂っていた。


 侵入者、入宮に続き、ミヤビとネザリアから使者が来訪するとの情報がラフトに届いたからだ。午後には、先見隊がラフトに入国する予定であると。それは正に、ミヤビはフェラールの従者が。ネザリアはレミドが担う。ヒャドとミヤビが、姫を奪いに来るとの噂が流布されている状況で、そのミヤビから使者が来訪する。宮殿全体に緊張が漂うのも無理はない。特に黒宮の兵士らは、姫を奪われるものかと……いや、そのような失態をおかすものかと躍起になっているのだ。それに加え、マヌーサの流した卑劣な噂も宮殿を這うように広がっている。


『さえずりを鳴かしているのは、バギだそうだよ』


 と。水面下で、這うように這うように……




「父上、ミヤビ、ネザリアとも謁見の許可は出さぬ方が良いでしょう」


 王とザラキは対応を協議している。


「正式な来訪だ。このラフトにはじめて他国から親書が届く。ラフトと距離をおく国々の中で、ミヤビがその手を上げたのだ」


 拒否はできん、そう王はザラキを見る。


「では、フェラール殿を籠の宮に挑ませるおつもりですか?」


「正式な来訪でそのような行いをすれば、どうなるかは一国の王子ならわかるだろう。心配ならば、牢屋でも準備しておけばよい」


 王はシッシッと手を払う。もう話は終わりだというように。


「では、ネザリアは?」


 ザラキの問いに、王は顔をしかめた。


「神官の親書など読むに値しない!」


 王はきっぱりと拒絶する。


「天など読めるものか! そんなやからと会う気はないわ!」


 ザラキは王の……父の怒りを見る。何年経っても怒りは収まらない。ザラキとて同じであるのだ。


「はっ、ではそのように」




 入宮二日目。


 サラは常に籠にいる。朝晩のさえずり以外に、サラは籠を離れる時にさえずった。湯とお花、着替えの時に。潜入者はすでにサラと接触していた。しかし、それもサラ以外には知られていない。そして、今日……


「おい、歌ってもらうぞ」


 何の合図もなくザラキは籠に入ってきた。


「ご要望があればいつでも歌いますわ」


 サラはザラキに笑顔を向けた。ザラキは険しい顔でサラを見る。


「バギは優しいか?」


 あの奇妙な噂の真を、ザラキはサラに問うてみたかったのだ。サラはキョトンとした顔をザラキに向けた。その顔で、ザラキは答えを得る。途端に笑みがもれ、大声で笑いだす。サラはさらにキョトンと口を開けている。


「なるほど、またマヌーサであろう」


 その名にサラは反応した。ちらりと視線が紅宮へ向く。ザラキもサラの視線を追って紅宮へ。


「姫さんは、何も知らなくていい。ただ、歌ってくれ。父上はそのさえずりの間だけ、お心が安らげるようだ」


 サラは知らせなくてはならぬことを、ザラキにはまだ告げられない。証がなければ、妄言に過ぎぬのだから。


「午後にミヤビの雅楽者らが来訪する。先の競い合いを互いに称えるためだそうだ。フェラール殿も来よう。まあ、ここから拐うは罪人になるだけ。ほら、それだ」


 ザラキはサラを促し籠の宮の下にある檻を見せた。


「宮殿からラフトのさえずりを拐えば、相応の処置をとる。至って当たり前だ。言っておく、逃げようなど思うなよ? フェラール殿を罪人にしたくないだろ?」


 ザラキは心からそう思っていた。王の安らぎだけでなく、ザラキの心の癒しにもなっていたのだ、サラのさえずりは。


「ミヤビの雅楽は久しぶりですわ」


 サラはザラキに微笑む。ザラキはフッと笑った。なぜか、今日はサラに強く当たれない。


「楽しみにしている」


 ザラキに相応しくない台詞を吐いて、はけた。サラは淑女に相応しい一礼でザラキを見送った。




 ザ・王子たるフェラールは、ラフトの宮殿に入っても変わらず、ザ・王子である。


「なんと! 素晴らしき宮殿!」


 フェラールはラフトの宮殿を褒め称える。気を悪くする者は、そういない。ミヤビ一行は、親書だけを使者に託し水盤の中庭で雅楽の用意をはじめた。元々、王宮殿には初見の者は大勢では入れない。この場での演奏に異議を唱える者は、いない。フェラールは自分に皆の気が向くように盛大に演じている。


 その間に、デイルは動いていた。昼間に絶壁を登り町に出る。謁見を拒まれたレミドらと合流していた。


「参りました。まさか拒まれるとは」


 レミドとルカニは項垂れている。その時、雅楽が町に流れてきた。少し遅れて、サラの歌声も。宮殿ではフェラールらが雅楽を披露している。


「決行は明日に変更しましょう」


 キールは難しい顔で言った。今日の晩に決行する予定であったが、ネザリア神官の親書など受け取らないと、拒まれてしまった。予定が崩れ、急きょ作戦を練っている。


「明日早朝がいいだろう。針子とも連携は取れた。手引きは乳母。黒宮の兵士からは警備態勢を十分に教えてもらっている。


紅から針子の助けで中庭へ、中庭から籠の宮に。姫を助け出したら、警備の隙をつき乳母の手引きで外に出る」


 本来なら、レミドとルカニが拐われたいきさつを王様に伝えている間に決行したかったのだ。しかし、拒まれてしまってはどうしようもない。


「レミドとルカニはどうする?」


 デイルはレミドとルカニに気を使った。先王時代のことであるが、不吉な子を拐ったことをネザリアは告白しようと親書を出したのだから。


「私たちが捕まればいいのです」


 ルカニは考え抜いた答えを口にする。


「私も宮殿に侵入します。皆さん方が逃げてください。レミド様、私たちだけは残りましょう。そうすれば親書も王様の手に渡るでしょうし、皆さんの逃亡の手助けとなります」


 デイルは危険だとルカニを説得するも、レミドもルカニの意見に賛同してしまい、結局全員での浸入と話はついた。しかし、


「フェラール殿に怒られそうだ」


 と、デイルはハッと笑った。雅楽と歌声が聴こえてくる。フェラールはルカニを気に入っている。いや、危険にさらしたくないだろう。


「参ったな」


 だが、そうした杞憂は一切関係ないものへと変わるのだ。


 何故なら、


 何故なら、


 いや、まだだ。まだその時ではない。




***




 雅楽と歌声が披露されている。


 その一行は、籠の宮の建物の入り口で立っている。ラフトの民と一緒に。演奏を聴いているかのように。しかし、一行は待っているのだ。建物の門が開くのを。開いたら突っ走るために。


 リザはマントを掴む。この中の姿は約二十年前の姿である。巫女の服を身にまとい、リザは門を見つめていた。


 演奏が終わる。民たちから拍手喝采がおくられた。シェード、リザ、薬師は機会を待つ。暫しの時間が経ち、民が帰りはじめる。


「リザ、そろそろだろう。覚悟はいいか?」


 リザはマントの紐に手をかけた。


「ええ、できております」


 薬師が辺りを見回す。


「いいか、コルドと落ち合えよ」


 シェードは薬師に声をかけ、リザの腰に手を回し門に進む。薬師はヘイと応じて二人から離れた。


 その三人を確認し、素早く動く幾人か。それは、サササッと三人を囲みこむ。シェードは異変に気付くも、時すでに遅し。三人は囲まれた集団に強制的に移動させられた。青ざめるリザ、睨み付けるシェード、薬師は身を竦めている。


「まだ、援護には早いのですよ」


 軽やかな声が落とされた。シェードは言葉の内容に、天読みの者であると相手と対峙した。


「何と読んだのだ?」


 相手は笑った。


「コルドはこちらで預かっております。さあ、行きましょうか」


 三人は驚き、そして着いていく。リザは涙が溢れていた。シェードはやられたなと思うも、顔はホッとしている。薬師は、わけがわからず着いていくだけ。


 未来は、変わるのだ。変えられるのだ。


 何故なら、


 何故なら、


 いや、まだだ。まだその時ではない。


 明日早朝がその時である。




***




「今日はたくさん歌ったわ」


 月を見上げて、サラは呟いた。


「でも、明日は……」


『一度しか歌わないわ』


 続く言葉を胸に刻み、サラは目を閉じた。そして、自身を抱きしめる。その身には、マントをまとわせていた。


 サラを抱き止めたあのマントである。


 翌朝……



 朝靄の中で……

次話4/16(日)更新予定です。

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