九条香久耶の恋色 EP6
「映画良かったね?」
瀬名と九条は恋愛映画を見終えると近場の雰囲気のいい喫茶店へと来ていた。
「え、えぇ。」
(手を繋げませんでしたわ.........)
だが九条はあまり浮かない顔をしていた。映画館内では終始、瀬名の手を見つめていたのだ。
「あの、瀬名様!よ、宜しければ手相をみ、見ましょうか?」
(うっ......本当は何も知らない、何て言えませんわね。ですが瀬名様の身体へとお触りを出来る口実はこれ以外に.....)
瀬名はニッコリと微笑むと右手を差し出した。
「では、少々、お手に触れさせて頂きますわ。」
(朝方は瀬名様に手を繋いで貰いました.......あの感触を再び味わえる事が出来るのならば私は)
童貞中学生に様にちょっとの刺激で舞い上がってしまう九条。
「はは、くすぐったいね。其れでどうかな、俺の手相?」
だが九条は沈黙を決めたまま何も言わない。
「九条さん?」
九条はもう片方の手を自身のポケットへと入れていた。だが瀬名の声に意識を連れ戻される。
(は!?行けませんわ!こんな所で無意識に自慰的な行為を......)
九条は直ぐ様、瀬名へと視線を合わせ適当に手相について言葉を並べていく。
「へ、へぇ、俺って結婚出来ないんだな。」
「いえ、正確にはしにくいといった方が正しいと思いますわ。」
すると九条は覚悟を決めたのか、両手で瀬名の手を掴み宣言する。
「ですが安心して下さいまし!仮に結婚をする相手がお出でにならなくとも私がお迎えに参りますので!」
あまりの圧に瀬名は心臓をバクリとさせる。
「そうか.......其れは安心だね、ふふ。」
★
「はぁ!?ふざけんじゃあ無いわよ!!」
バンバンと机を叩く蒼井。
「おい、落ち着け!瀬名くんに気付かれるだろ!」
氷室が注意をする。
「許さない.......許さない......私がお嫁さんになるんだから」
爪を齧りながらブツブツと呟く一ノ瀬。喫茶店の隅にて異様な雰囲気を出す三人に周りの客は怪訝な表情を浮かべていた。
※因みにこの三人の存在を忘れている方がいるかもしれないので一応は説明をしておく。蒼井=暴力ぶりっ子、一ノ瀬=ツンデレ(ヤンデレ(メンヘラ))、氷室=クール(ツッコミ(まとめ役))である。
「あぁー!もう我慢がならない!私、直接言ってくるわ!」
蒼井が動く。だが其れを制止するべく氷室が腕を掴んだ。
「いい加減にしろ!また瀬名くんのお母さんから制裁を受ける事になるんだぞ?」
「うっ、それは........」
蒼井は鳥肌を感じ席へと戻る。
「好機を待つのよ.......あのクソ金持ちが一人になったところを私たちが抑えればいい。ん?待てよ、ジョンを捉えて監禁した方が.......」
一ノ瀬がそう言うと蒼井が苦笑いをしながら首を横に振るう。
「瀬名くんはやめた方が良いわよ。以前、私も同じ事しようと思ったら、お母様が背後に立ってたから..............」ぶるぶる
「お前、そんな事までしようとしてたのか......」
ドン引きの表情を見せる氷室。
「はぁ.........あ、ジョン達が店を出た。追うわよ、あんた達」
★
「綺麗な公園だね。初めて来た。」
既に時間は夕方に差し掛かり二人は公園を散歩していた。
「あの、瀬名様........」
何か思いつめた様な表情をする九条。
「どうしたの、九条さん?」
九条は覚悟を決め、言葉にする事にする。
「私、九条香久耶は貴方の事をお慕いしております!出来る事ならば永遠に側にいたい、ですが.......其れが叶わぬ事も十分承知しております。」
「九条さん.....」
瀬名は何とも言えないと言った表情をとる。
「先程の手相の件は申し訳ありません。私程度の女が生意気な事を言って......ですからせめて今日一日だけでも良いのです、私を抱き締めてはくれませんか?」
瀬名は間髪入れずに抱き締めた。九条は安心を感じる。
(あぁ、これ以上踏み込めば私は必ず可笑しくなってしまう。瀬名様を自分の物にと息巻いた自分が愚かでなりませんわ。)
愛する者の為ならば一歩下がるのも良い女だと自分に言い聞かせ、瀬名から離れる。
「九条さん、俺はべ」
九条は頭を下げると瀬名の台詞が言い切る前に走り出してしまった。
★
「九条の奴...........」
三人は何も言えないと言った表情で取り残される瀬名の姿を見ていた。
「何よ、あいつ.......かっこつけちゃって、」
蒼井はそう言うと背中を向け帰り始める。
「私達も帰るか........」
「..........うん」
何とも言えない空気に二人も蒼井の後を追うのだった。
九条は次回で最後!他にリクエストはない?




