Episode 32 "不思議ちゃん"
ブクマ200件突破ッ!!!!!!
「下級民、私を崇めに来たか!」
朝一に登校する様にとメールを受け取った海斗は眠気を感じながらも学校へと向かい教室の扉を開けた。
「ステラ.......何をしてるんだ?」
扉を開けると全ての教室の机がピラミッドの様に建てられていた。そして頂上には女王の様に椅子へと腰掛け自分を見下す様に見るステラ・ウイリアムの姿があった。
「あぁ、世界はワタシヲ中心に回っている。いいえ、ワタシが世界を動かしていると言っても過言ではないか。ふふ、この矮小な教室の中でさえ、ワタシにかかればこの様に美しくワタシヲ敬う形と為す。」
どうも、このステラと言う少女とは会話が成り立たない。奇行を繰り返し、陳腐な事を常に口にする。何故、退学にならないかは学校の三大謎の一つとして有名だ。そして何故、そんな自分が彼女と接点があるのかと言うと、一度、無くし物を探すのを手伝った事があるのだ。それを切っ掛けによく話をかけてくる様になった。
「ステラ、如何するのコレ?みんな、また怒るよ?」
「ああ、太陽が私を照らし、私が皆を照らす。正に自然の循環よな。神とは常に人の上に立たねばならない。そして皆の上に立つ私は.........神、そうか私は神だったのか!」
(聞いてないし.......)
何時も通り、自分の妄想に入り身体を劇をするが如く動かすステラ。奇行は目立つが更に目立たせるのがその容姿だ。銀髪、そして透き通るほどの白き肌、美しい顔立ち。告白の数は既に一クラス以上は受けているだろう。
「そうだ、我が声明を白き粉で板に記そうぞ!」
椅子から飛び降りピラミッドの様に建てられた机達はガシャンと崩れ教室に埃が立つ。
〝神は此処にいた”
デカでかと黒板へとそう書き殴られるとステラは飽きたのか欠伸をして空いている机へと座り睡眠へとついた。
(頭が可笑しい......あぁ、でもオレにはもう.........)
友人と呼ばれる人が彼女しか残っていないのだ。つい最近までは九条も共に食をしていたのだが最初の三人同様に余り口を聞かなくなった。
「おはよう!」
「......おはよ」
中学からの知り合いである一ノ瀬月子でさえこのように無愛想な対応で返される。いくら、話を続けようとも最後には自分から席を立ち教室を出ていってしまう。
「.......オレが......何をしたって言うんだよ...........真一.....オレは....」
親友であった真一を自分から突き放してしまった事に後悔を感じる。だが、それと同時に真一の近日の動向が気になった。
(最近、真一はどうしてる?教室じゃあ誰とも話をしてる所は見ないし.....)
ステラが散らかした机を片付けながら考える海斗。
「あいつ、......昼休み、何処にいるんだ?」
海斗は気になり、今日の昼食時、後をつけようと決めた。
「朝から最悪な目にあったぜ。」
真一は九条の隠れSP達により押さえつけられ痛む腕を押さえながら教室へと入ると何食わぬ顔で自分の席へとついた。
(.....まぁ、いい。残すはお前一人だよ、ステラ・ウィリアム。海斗の精神は疲弊している筈。オレの元に戻ってくるのも時間の問題だ。)
眠るステラを一瞥すると口元を手で押さえ笑みを隠す様に静かに笑った。
(あぁ、楽しみだ。絶望に堕ちたお前に更に地獄を魅せてやるよ。)
真一は既に本来の目的であるハーレム崩しから唯の復讐へと思考を切り替えていた。
「助けを求める為にオレへと戻るのは必然.....ならば、おれはそれを拒絶すればこの事件は終わりを告げる。」
そして時は過ぎ、昼へと移行する。真一は席を立ち昼食を取る為に屋上へと向かう。
(よし、オレも行くか。)
海斗も席を立ち真一の後を追う。
「はぁ、この空間が学校にいる中でも唯一の癒しだ。」
その場へと座り頭を空へと向ける真一。すると、給水タンクの横から元ハーレム要員である氷室空(通称クール系)がひょこっと姿を現した。
「真一、「無理だ」まだ、何も言ってない「無理だ」瀬っ「無理だ」ねぇ!お願いだから聞いてよ!!」
いつもすかした様なクール口調だが、瀬名関連になると完全にキャラが崩壊する氷室。
「瀬名さんに合わせろ、連絡先を教えろと何度も何度もいい加減にうるさいんだよ、お前。いや、正確にはお前ら、か。」
「あ、バレた?ふふ」
「バカ真一!いい加減に教えなさいよ!私達、親友でしょ?」
ぶりっ子こと蒼井花と一応、元親友の一人でもある一ノ瀬月子が屋上の扉から悪びれもなく姿を現す。しかも、三人とも図々しく自分の近くへと座り自分達の弁当を広げていく。
(........あいつら、何で真一の所に......)
屋上へと繋がる扉は二つある。その内のもう一つの扉の窓からその姿を確認する海斗。
「はぁ、お前らがオレにしたこと忘れた訳じゃねぇーから。オレはもう行く。それと、あっちで海斗がオレ達を覗き見てるから相手にでもしてやったらどうだ?」
三人に数日前に呼び出され暴力された事を思い出し殺意が甦る真一。だがそれを抑え、此方からでも容易に見える海斗の姿を彼女達に指摘し屋上を後にした。
「海斗くん、可哀想じゃないの?貴方達、相手してあげれば?」
普段とは違いぶりっ子の仮面を外す蒼井はそう二人へと告げる。
「アンタ、ばかぁ?海斗とかどうでもいいんだけど!そもそも友達でいること解消したのにまだ話かけてくるし!私はジョンがいればいいの!あぁ、あの温もりをもう一度、感じたいよお.......」
身体を抑え悶絶した表情と共に何処か寂しげな表情を取る一ノ瀬月子。
「私の王子様を呼び捨てにするの止めてくれない?イライラするんだけど....」
ドスの聞いた声で喧嘩腰に睨みつける蒼井。すると氷室はこの場にいるのがバカバカしいと感じ弁当をたたみ立ち上がる。
「そうやって海斗の追いかけしてた時に見たいに争い続けてれば、負けヒロインさん。」
クールにそう言い残すと二人は顔を赤くし氷室へとぎゃぎゃあと文句を言った。
(いったい.....何が、オレにはさっぱり.....それにさっき真一はオレがいる事をっ.....)
指摘されすぐさま身を隠し聞き耳を立てていた海斗は真一達が話す内容の概要が分からなかった。
「...........海斗さん」
階段の方から声が聞こえ顔を上げると九条が其処にいた。
「九条さん、」
「そこをどいて下さる?邪魔ですわよ。」
冷たく言い放つと海斗を退かし屋上へと侵入するが蒼井と一ノ瀬の姿しかなかった。
「真一さんはいませんのね。」
二人へと目を向ける事なく揺らりとその場を去る九条。本来、ヒロイン達と言うのは主人公がいなければ余り仲は良くない。それに今回の標的が瀬名である以上、そこいらの主人公如き存在同様と同じペースで距離を狭る訳にはいかない。彼女達からしたら、今回は死んでも負ける訳には行かない争奪戦なのだ。
「いつもいつも本当に飽きないな、アイツ等。」
真一はトイレの個室に座り携帯を眺める。例の瀬名を撮った動画のおかげで暴力は無くなったが元ヒロイン達は諦めず自分へと毎日毎日、接触をはかろうとしてくる。
「瀬名さんは確か、今日、放課後に来るんだよな。」
携帯を閉じ個室を出ると、其処には
「なぁ、真一.........瀬名って誰だ?」




