Episode 26 "令嬢はラノベに付き物"
(最近、みんなとあんまり遊ばなくなったなぁ。)
授業の最中、海斗は窓から覗く校庭を眺めボヤく。そして、視線を黒板へと移すと視界に元親友である真一の姿が入った。
(オレ達、良く遊んだよなぁ......小学生の時、たしか彼奴、好きな子にフラれて漏らしたっけ、はは.........はぁ......何で、俺は......)
真一との思い出を思い出し自然に涙が出る海斗は涙を拭い授業へと集中する。その姿を横目で確認したハーレムの一員、九条香久夜は胸を押さえ海斗の心配をした。
「それで、今回はラノベに限らずアニメや漫画にも確実に一人は出るであろう金持ちキャラが標的って訳ね。」
独特のオタク的視点で発言をする瀬名に真一は苦笑をする。
「あぁ、正直な話、瀬名さんには残りの二人も早く口説き落として欲しい.......口説きと言うか、もう接触するだけで落ちるからヒットエンドランでこの負の連鎖を断ち切って欲しい。」
真一は何処かやつれていた。制服も至る場所が埃が積もっており、少々清潔とは言えない有様だった。
「真一......大丈夫か?」
瀬名はそんな姿の真一を心配してコーヒーをもう一杯、真一の為に注文する。
「大丈夫......とは言えない。月子の奴がとうとう瀬名さんとの接触が出来ない事について堪忍袋の緒が切れて今朝、俺のところにやって来た。」
「それは......何と言うか」
「氷室はまだマシな方だけど......月子と蒼井、特に蒼井はどうにかしないと洒落にならない......」
瀬名はその洒落にならないと言う物の概要を聞こうかと迷うが真一の余りにも死にそうな面に責任は自分にも有ると感じ情報を共有させる事にした。
「一体何があったんだ、具体的に?」
「氷室は瀬名さんに逢いたいって思考が第一に来てたから俺の所に来るって選択が無かったんだよ。それで今朝、月.....ヤン子が俺の所に来て周りの目も気にせず怒鳴りつけて来たんだ。」
何で今言い直した?と瀬名は相槌を入れるが真一は話を続ける。
「そして、その怒鳴り声が耳に入った氷室も俺の所に来て瀬名くんを寄越せ!ジョンを出せ!って二人で俺を問い詰めた所に魔王の登場だ。」
肩が揺れ出す真一。
「蒼井.....花ね。」
「ああ、彼奴は世間体って物を一応は気にしている様で俺は校舎裏へと連れこまれた。そして彼奴は最初に俺の腹へと正拳突きをかましてくれたんだ。一応着いてきた二人は彼女のその行動について最初は異議を唱えてくれていたんだけど........瀬名さんの名前が魔王の口から出た途端に二人の表情は鋭い物に変わったよ。」
瀬名が注文をしてくれたコーヒーを一口含むと口を押さえ片目を瞑る真一。
「真一、まさか、顔も.....」
「ホッチキスって口の中で刺されると痛いのな、はは。」
某ラノベ小説の主人公の様に治癒能力が高い訳でもない一般人がホッチキスを口内にさされれば数日以上の痛みが続くのは想像に難しくないだろう。
「髪を強く掴まれるはなるべく表面に見えない様に殴るわで本当に拷問じみた事をされて.....正直、死ぬかと思ったぜ。」
瀬名はそれを聞き怒りが表情に出る。
「女は恋に盲目とは言うが、盲目が過ぎたな。次、彼女達からその様な事をされれば俺を盾にしろ。」
「盾にって、何を言えば良いんだよ。」
「瀬名は暴力やイジメが嫌いだって言うんだ。特に友人にその様な事をする奴は嫌悪するって言えば治るだろう。何なら此処でビデオでも撮るか、証拠として?」
スマホを取り出しビデオを撮れと言う瀬名。
(これで、辞めてくれれば良いんだけどな)
スマホの機能の一部であるビデオへとカメラからシフトし録音を開始する。
時を同じく、九条家令嬢の九条香久夜は自分のSP達に命じ海斗を自分の屋敷へと連れて来させた。
「海斗さんらしくありませんわね。もっと元気を出しなさいな。それでも私のライバルですの?」
巨大なホールへと連れて来られた海斗は声のする方へと視線を向けると優雅なドレスを纏った九条が階段から降りて来る姿を確認する。
(九条さん、美人だなぁ。)
拘束されてるとは言え海斗は純粋にそう感じた。
「九条さん、綺麗だね。」
「あ、あら、ふふ、当たり前ですことよ。」
顔を赤くしツーンとした表情で海斗の前に立つ九条。直ぐに落ち着きを取り戻すと海斗をテラスへと連れて行き巨大な庭から見える夜景を一望する。
「私はまどろっこしい事が大嫌いですから単刀直入に聞きますわ。海斗さん、貴方後悔しておいででしょう?それは親友である真一さんについて......ですわね。」
真一は肯定もしないで黙る。
「......それとも下賎な小娘の群れが寄り付かなくなった事。もっとも羽虫が一人残っておりますが。」
「.......俺は..........」
言葉が出て来ない海斗。頭には真一との思い出、一ノ瀬も合わせて三人で遊んだ思い出、そしてみんなと楽しくも波乱万丈だった日常が崩れて行く事にただ悲しみが募っていた。
「自分が嫌いだ。」
その台詞しか言葉に出す事しか出来なかった。触れれば溶けてしまうのではないかと言う表情に九条は海斗を抱き締める。
「自分を嫌いになんてならないで下さいまし。人とは後悔と言う経験を得て成長して行く生き物なのですわ。」
海斗は静かに涙を流しその場へと崩れる。九条は崩れる海斗を聖母の様に抱き締め鋭い眼光で月を眺めるのであった。




