Episode 22 "ツンデレは奥手は王道"
一ノ瀬月子の本質は依存である。誰かに自分の存在を認めて貰いたい、受け入れて貰いたいのだ。そして行く行くはその人と最期まで人生を謳歌したいと願う女の子なのだ。
「海斗がお前の今の姿を見たらどうするんだ?好きな男をそんな簡単に変えるのかよ!」
真一はブチ切れる。ハーレムの中でも月子の幸せを一番に願っていたのは真一なのだ。月子は真一からしても友達であり親友なのだ。だからこそ海斗と関係を持つべき相手は常に月子であると考えていた。それが長く好きだった相手をこんなにも容易く変える月子に怒りが抑えられなかった。何よりも海斗に申し訳が立たない。
「俺たちの青春、馬鹿してきた事は全て嘘だったのかよ、月子!あんだけ、海斗海斗って言ってだ奴が面だけで思い人を変えるなんて.........失望したぜ」
吐き捨てるように言う真一。瀬名は口を挟む事なく二人の会話を黙って聞く。月子は一旦、瀬名から離れプルプルと身体を揺らし下を俯いた。そして涙目になりつつも顔を上げ真一を睨みつける。
「知ったかしてんじゃないわよ!アンタに私の何が分かるの!一度でもアイツとの関係を手伝ったことある?無いでしょ!」
「何度も助けたさ......だけど、全て、お前の詰まらないプライドでチャンスを不意にしてきたんだろうが!!」
幾度も真一は影から二人の時間を設けるように計画してはチャンスを与えるのだが全ては無へと帰しているのだ。ツンデレと言う人種はどうも自分の気持ちと言うものに凄く奥手で空回りしてしまう。
「これは言いたくなかったが.......アイツはお前の事が好きだった。」
「なっ.......う....そ」
「嘘じゃねぇ。あいつもアイツで奥手だからな。まぁ、今はモテモテだから気持ちは分かんねぇけど当時はお前の事が好きだって言ってたぞ。」
それを聞き月子は無表情になると相槌を返した。
「........そう。でも、不思議と何も感じないわね。」
月子は再び瀬名へと抱き着き落ち着いた表情を見せると真一へと話を続けた。
「その台詞をジョンと出会う以前に聞いたとしてもジョンと出会えば結末は今と変わらないわ。」
蕩けた表情で優しく瀬名の背中を撫りながら瀬名の太ももへと自身の股を挟み緩んだ表情で愛おしく瀬名を見つめる。
「私は......はぁ、ジョンがいいの。」
瞳の奥は既に瀬名一色に変わっていた。だが瀬名はゆっくりと月子を自分から離し優しく語りかける。
「一ノ瀬さん「月子でいいよ」月子、ボクは君を知らない、好意を持たれるのは勿論嬉しい。でもね、君はしっかりと自分を見つめ直さないといけない。それを癒す事が出来るのはボクじゃない。海斗くんって人が君の本当の思い人なんだ。だから彼と今一度「優しいね、ジョン。ジョンがそんなに心配するなら今すぐ海斗との友達の関係は切ってくるよ。大丈夫よ、私にはジョンがいるんですもの。」
話のキャッチボールが出来ていない事に瀬名は焦る。過去に幾度もこう言う輩とは対峙した事はあるが全て、母による加護があったからこそ乗り越えてこれたに過ぎない。だが、今回は自分から首を突っ込み好意を強奪した略奪者なのだ。無闇に母に救援など頼める筈もない。
「月子「待ってて、直ぐに戻って来るから!」
教室を飛び出し、海斗の元へと向かう月子。瀬名は唖然とするしかなかった。
「ヤバい........どうしよう、真一。」
涙目になる瀬名を見て可愛いと感じる真一は直ぐに顔を横に振り気を取り直す。
「あいつ、ちょっと可笑しかったな、今日。」
「ちょっとどころではないのですが!?狂気を感じたわ!」
瀬名は叫ぶ。そして続けて真一に告げた。
「イジメを止める為のハーレム崩しは止めない。だけど、もう月子と会う事は出来ない!これ以上接触を続ければ彼女は独占欲で俺を監禁しかねない!これは推測ではなく経験から言っている!だから、ハーレム崩しは校外で行う、いいな!」
真一は苦笑いを浮かべつつ了解したと続ける。
「それと真一.......彼女、結構参ってる所があるから気遣ってやってくれ。」
何処か悲しい表情で言う瀬名に拳に力を入れ分かったと返事を返す。
「取り敢えず此処から離れよう。彼女が戻って来る前に。」
学校を出ると近場のお洒落な喫茶店へと向かった。瀬名が言うには人があんまり来ない穴場らしい。
「取り敢えず、アメリカンコーヒー二つ。」
瀬名は店主にオーダーを伝えると無人の席が並ぶ店内を一望した。そして一番奥にある窓際の席へと足を動かし腰を下ろす。自分も瀬名に続き対面側へと腰を下ろした。
「真一、一番最初に聞いて置かないといけない質問だったんだけどさ、ハーレム要員は全員で何人いるんだ?」
窓から見える住宅地を一瞥すると瀬名はそう問うて来た。
「五人、残りは三人って所。」
クール系、氷室空。ツンデレ兼ヤンデレ、一ノ瀬月子。個性が強い二人の他に三人も残っている事に瀬名はため息を吐く。出だしは良かったのだが二人目の一ノ瀬が強過ぎた所為か若干、焦りを感じる瀬名。
「特徴を簡単に説明してくれ。」
「特徴って言うとクール系とかツンデレ見たいな説明だよな。」
あぁそうだと答える瀬名。
「分かった。先ずは一人目、王道メインヒロイン系「ちょっと、待て!」瀬名さん?」
「いや、王道メインヒロイン系ってなんだよ!」
「テンプレでしょ?天海○香的な如何にもな感じの。ハーレムアニメのヒロイン集合で中心に立つ存在的な人物。まぁ、悪く言えば凡庸、特徴が余りないなどなどet。でも、周りを纏めたりする統率力、それに合わさり海斗に対してはかなりあざとい辺り知将的なイメージが強い感じがするかな。」
「要するに自分可愛いでしょアピールに長けていると。」
「簡単に言うとそんな感じだな。」
瀬名は運ばれたアメリカンコーヒへと砂糖を入れると一口、口へと含み店主に今日のおすすめを二つと言う。
「それで、残りの二人はどんな人物なんだ?」
「あ、あぁ、二人目は何処のラノベ、ハーレムものにも何故かいるお嬢様キャラだ。聞いて驚くなよ、九条財閥の令嬢だ。」
その名前を聞き瀬名はカップを置く。
「驚いたな。三大財閥の筆頭じゃないか。一歩、機嫌を損ねる様な事をすればオレは間違えなく死ぬぞ?社会的な意味でも生物的な意味でも、だ。」
とは言いつつ焦りの表情は浮かべていない瀬名。ちなみに一歩間違えたとしても、死にはしない。何故なら瀬名一がいるからだ。母である瀬名一は何かしらの権力、力を秘めている。いずれ、この秘密は此処ではない違う世界で明かされるだろう。
「それで、性格の方はもちろん?」
「高飛車、ですわ口調、テンプレの宝庫だよ。自分が一番じゃないと気がすまない性格で人一倍努力もしている。成績も内の学校じゃあ一二位を争うよ。」
「.......そんな奴がどうやってお前の親友に惚れたんだ?」
純粋にそう感じ概要を聞こうとすると店主がクレープと紅茶を持ってきた。クレープは三つの種類があり一つは刻まれたきゅうりとレタス、ツナ、マヨネーズが具として入っていた。二つ目には抹茶白玉あずき生クリー厶と甘さ万点の物だ。そして最後は王道のチョコバナナと思いきやブルベリーとラズべリーを合わせアイスクリームが卜ッピングされた物だった。
「むっ、美味しいな!........それで何で惚れたかだったよな。確かクラスに馴染めずにいたお嬢様と接点を作る為に海斗は勉強に性を出して学年の期末テストで勝負を挑んだんだよ。お嬢様は負ければ何でも一つ言う事を聞くって条件でその勝負を受け入れたんだ。もちろん、お嬢様は勝つことに絶対の自身があったからこそ、そう言ったんだと思うが。」
「うん、展開読めた。お前の親友が勝って、多方、友達になってくれるか?とでも言ったんだろ?」
「お、おう。何で分かったんだ?凄いな、瀬名さん。」
「王道中の王道やないかい!」
お嬢様キャラは漫画やラノベの世界だと割とちょろいんな上、決闘の勝敗にて主人公に好意を持つ事が多いい。
「はぁ、最後のハーレム要員を説明してくれるか?」
「ごめん、最後の奴は良く分からない。喜怒哀楽が激しくて、ネガティブで、暗くて、怖い?いや、元気な時もあるし、違う、ミステリアスなのか?言葉が出てこないな。取り敢えず一つ言える事は頭が可笑しい奴ってこと。」
「は?」
今の説明からどう介錯しろと、と瀬名は内心で思い席を立ち上がる。そして店主へと会計を済ませると先に店を出た。真一も急いで会計を済ませようとするがどうやら会計は瀬名が持ってくれたようだった。
「待ってくれ、瀬名さん。どうしたんだよ?」
「どうしたんだよって、聞く限りじゃあ全員、頭が何処かしらズレてるだろ。それに最後の奴にいたっちゃあ相当、頭いってる奴じゃねぇーか。今日は疲れたから帰る。次は金曜日でいいか?」
「え、あ、はい。」
返事を聞くと瀬名は帰路へと着いた。真一はその場にポツンと立ち瀬名の後ろ姿を消えるまで見送った。
(......瀬名さん、自分の私生活でも絶対に苦労してるのに自分の為に動いてくれてるんだ。事が終わったら瀬名さんに迷惑をかけないようにハーレム連中の後始末をしなければ行けないな。)
真一は胸に手を当て瀬名への被害がないように動こうと心に誓うのだった。




