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エピローグ

「あははは・・」

 エリス少年は、父が話を終えてしばらくしても、笑いを止める事が出来ずにいた。

「いやーねぇー」

と母は、呆れ顔だ。

「面白いおじいさんとして描かれているんだね、アレクセンドロス=イエローゲートは、どの歴史資料の中でも。あははは・・」

「そうだね。どうしようもない好色家として記されているね。実際の所がどうだったのかは、今となっては、はっきりとは分からないけれど。」

「・・・でも、ただのエロジジイだったわけじゃないと、僕は思うなぁ」

 ようやく笑いを抑える事が出来た少年は、少し真面目な顔になって言った。

「どういうところで、そう思うんだい?」

との父の問いに、

「例えば、最初にエヴァを見つけた時、タキオントンネルのターミナルには何万人もの人がいて、美人な女の人だって、百人やそこらじゃ効かないくらいいたはずでしょ。その中から、伯爵の弟の悪い企みに巻き込まれて暗殺者にされ、不安や寂しさを抱えてそこにいた、エヴァを覗き見てたっていうのは、偶然じゃないんじゃないかなぁ。」

と答えたエリス。

(するどいな。)

と、父は思った。10歳になったばかりの少年とは思えない目の付け所だと、我が子ながら感心した。

「もしかしたら、神力で、ナノボットの機能で、エヴァがただ者では無い事や、その心に潜む大きな不安や悲しみに気付き、そこから、帝国にはびこる悪の存在を嗅ぎつけたんじゃないかな。もし伯爵が暗殺され、弟が領主になったりしてたら、とても多くの人が、ものすごく不幸な目に会っていたかもしれないもの。前皇帝がエヴァを追け回した事が、結果的にそれを防ぐ事になったけど、それが偶然だったなんて、僕には思えないな。エロジジイを装いながら、実は帝国領内の不幸の種や、悪の芽を、前皇帝は神力を使って見つけ出そうとしていたんじゃないかな。」

「まぁ、それにしては、ただのエロジジイとしか説明のしようがない行動も、目に付くけれどね。」

「あははは、そうだね、どこからどこまでが人の為にした事で、どこからどこまでが、自分の欲望の為にした事なのか、よくわからないよね。でもきっと、人の幸せを想う気持ちは、強い人だったと思うなぁ。」

(うーん、どうだろう?)

と、父は内心で思った。(今見つかっている歴史資料からは、本当にただのエロジジイだった事が示唆されているんだけどなぁ。)

 しかし父は、少年の無垢な想像や憧れを踏みにじる事はあるまいと、あえてその事は言わなかった。

「・・そ、そうだね。結果的にリムラーノ帝国は、彼の時代から更に300年余りに渡って、安定的に存続したわけだが、それは王家であるイエローゲート一族の人々の、人柄に負うところが大きいと言われているしね。そんなにも長期に渡って、平和で豊かな国が維持されたケースと言うのは、1万年に及ぶ銀河史の中でも稀なことだからね。」

「うん。そしてそんな、平和で豊かな国の中にある、わずかな不幸の種や悪の芽を、退役皇帝が神力を使って見つけ出し、“王家の守護者”達と共に、一つ一つ解決して行ったんじゃないかな。だからこそ何百年もの間、平和な国を維持できたんじゃないかなぁ。」

 歴史資料の上からは、そうとは言えないのだが、もしかしたらそれが、資料には表れない歴史の真実なのかもしれないと、父は思った。どんな偉い学者の、どんな研究より、少年の無垢な想像力の方が、より正確な真実にたどり着く事もあるのかもしれない。父はそんな風に考えた。

「さあさあ、小難しい話はそれくらいにして、フルーツでも食べましょう。トカーネ星団産のマスカットよ!」

「わぁ!凄い偶然!エヴァの故郷で採れたマスカットがデザートだなんて!」

「現代ではワームホールのおかげで、トカーネ星団からも新鮮な食材が届けられているのよねぇ。ありがたいわぁ。」

と母は、ご満悦の表情でマスカットに舌鼓を打った。

 ワームホールを使った移動法は、光速を超える移動法としては最も新しく発明されたもので、人為的に改造されたブラックホールがワームホールとなり、何百、何千、何万光年も離れている2点を、直結してくれるのだ。それを使った移動は、ワームホールジャンプと言われ、ブラックホールも人為的に創れるようになった彼らの時代においては、最も利便性の高い移動手段として、全銀河的に展開されている。

「タキオントンネルがトカーネ星団への唯一の移動手段だった時には、一番近いスペースコームに向かうのにも何十日もかかって、大変だったけど、今じゃワームホールジャンプで、一瞬で、色々な所へ向かえるものね。でも、一番近いスペースコームからでも百光年以上も離れている所のタキオントンネルのターミナルを、最初に作った人達というのも凄いよね。」

「ああ、まずスペースコームから百光年以上も離れている所に、たどり着いたという事が奇跡的な事だし、勇敢な壮挙だったと言えるね。そしてそこに、タキオントンネルのターミナルを建造し、タキオントンネル航法という移動手段を切り開いた事は、後の歴史を大きく変える偉大な事業だね。それが無ければトカーネ星団は、今でも人跡未踏の、未開地のままだった可能性が高いからね。」

「ナノボットを発明した人達と、同じなのかな?そこにタキオントンネルのターミナルを作ったのは?」

「そう考えるのが順当だろうね。同じような宙域で、太古の時代から、2つの高度な技術が受け継がれているのだから、その2つを操ったのは一つの文明だったと考えるのが自然だろう。でもそれを証拠づける遺物は、残念ながら見つかっていないんだ。」

「そういう不思議な古代文明の存在って、わくわくするね。どんな人達の文明だったんだろうって、考えずにはいられないよ。百光年以上もの旅を、スペースコームジャンプを使わずに・・、勇気あるよなぁ・・、無軌道式タキオントンネル航法を使ったのかな?それもはっきりとは分からないんだよね。・・いずれにせよ、凄い人たちだよね。そしてその勇気が、その時代にも、後の時代にも、多くの幸せをもたらしているよね。」

「その文明の遺産を受け継ぎ、数百年に及ぶ安定国家を建設し、維持した、イエローゲート一族も、やはり興味深い存在だね。その政策も独創的だった。“王家の守護者”と王族を、対等の身分としたというのも、他に類を見ない事だしね。」

「初期のころの皇帝が自ら決めた事なんだよね、王家の専横は国を亡ぼすって考えて、王家と対等の身分を自ら設置する事で、それを防ごうとした。だから“王家の守護者”達は前皇帝を“ジジイ”とか呼んでも、お咎めが無かったんだよね。」

「ははは・・、そうだな。“ジジイ”呼ばわりしていたのが史実だってことは、多くの資料に示されているからね。本当に対等の関係だったようだね。もちろん政治上の権限は、“守護者”には無かっただろうけど。」

「ミスターエイトが僅かにでも“神力”を使えたという謎も残っているし、面白いなぁ。面白い国だなあ。リムラーノ帝国は。それに、太古の文明も。本当に面白いなぁ・・。」

 自分はやっぱり歴史が大好きだと、少年は改めて思った。エリスの歴史への探求心は、そうやって日に日に深まって行くのだった。

 それから数時間も、家族の団欒の時間は続き、その後、諸々の身支度を整えた少年は、就寝の為に布団に入った。ちなみに、ナノボット保有者は歯磨きの必要が無い。唾液と共に口内に泳ぎ出て来たナノボットが、ピカピカのツルツルに歯を磨き上げてくれるから。虫歯になる事はあり得ないが、もし仮になったとしても、ナノボットは虫歯を完全修復する機能も持っている。

 ナノボットの恩恵にどっぷりと浸っているエリス少年は、その技術が歴史の中でたどって来た、数奇な変遷を改めて想った。それを6千年以上前に生み出した古代文明、その技術が引き起こす現象を個人の超能力と考えた中世の帝国、そして今、それのおかげで快適な暮らしをしている今の自分。時を超え、受け継がれるものが、この銀河にはある。

(でも、それは、ナノボットだけじゃない。)

と、少年は思った。人が人を幸せにしようとする行動。人が後世に幸せを残そうとする行動。それらの積み重ねの一つの結果が、ナノボット技術の伝承だが、人が人の幸せの為にした行動の積み重ねのおかげで、受け継がれて来たものは他にもたくさんあり、その上に今の自分の幸せな暮らしがあるのだと、少年は思うのだった。

 一面では人の歴史は、争いや戦いの歴史だとも言える。歴史の中で多くの戦争が起こり、数え切れない程、悲しみや苦しみが繰り返された事は確かだ。だがその一方で、人が人の幸せの為に行動するという事も、間違いなく繰り返されて来たはずだ。人が人の幸せの為に行動しなかったら、ナノボット技術は生まれただろうか、伝承されただろうか。その他の多くの技術や、文化や、芸術や、風習などが、今日に残されて来ただろうか。

 起こった戦争を時系列に並べれば、それだけで歴史を語り尽せるなどという意見を聞いた事がある。でも、そんな事は無い、と少年は思った。人の幸せの為に起こした、歴史上の人々の行動を語らずして、歴史なんて語り尽せるはずがない。

 争いの歴史は直視しなきゃいけない。その教訓を、後世に残さなきゃいけない。でも、それと同じ位、人が人の幸せの為に行動した事が積み重ねられた歴史というのも、直視して行きたい。少年はそう思った。それが今の、自分の幸せに繋がっているのだから。

(幸せのバトンだ。)

と、少年は思った。

(太古の昔から、今日まで、ずっとずっと絶えることなく、大切に受け継がれて来た、幸せとバトン。それが今、僕の手の中に握られているんだ。僕もこれを、後世に伝えなきゃ。)

 少年はそう思うのだった。

(いつか僕も、この銀河で、銀河のどこかで、何かを成し遂げるんだ。それが何かは分からないが、何かを達成するんだ。そしてその事で、僕は、この幸せのバトンを誰かに届けるんだ。未来に繋ぐんだ。何かを成し遂げるとは、達成するとは、太古から受け継がれて来た幸せのバトンを、誰かに、そして未来に、伝えていく事なんだ。)

 少年は、その心の中にメラメラと炎が燃え上がるのを感じていた。何かを成し遂げてやるという意欲が、熱意が、止めども無く込み上げて来るのだった。

(やってやる!やってやるぞ!ミスターコーナー達がやったように、アレクセンドロス=イエローゲートがやったように、歴史の中の多くの人々がやったように、僕もやってやる。何をやるかは分からないけど、何かをやるんだ。やってやるんだ。きっと何かを。誰かに幸せのバトンを繋ぐような、何かを。いつか、どこかで、きっと、きっと・・・)

 しかしそれは、今日ではないようだ。なぜなら、今日は、もう少年は、眠たくなったから。

 少年を明日に連れ去るべく、睡魔の抱擁が、彼の側に忍び寄って来たのだ。柔らかく温かな眠りに、少年は、すーっと、引き込まれて行った。


 少年が眠りに、落ちたか、落ちないか、そんな刹那、少年を包む空気の揺らぎの中に、微かに、ほんの微かに、歌声が・・。それは、遥かなる中世で、悲しく苦しい時期を超え、大きな幸せを手にする事が出来た、光と闇を持つ女が、少年にも幸せを分け与えようと、黄泉で奏でた旋律・・・・・・・・もしかしたらの、話だけれども。


今回の一葉の物語は、これでおしまいです。

またいつか、歴史の大樹より物語の葉がこぼれ落ちてくるでしょう。

読了くださった方には、心より感謝申し上げます。

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