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激闘

「何だお前は!」

「何者だ!」

「曲者だ!者共!出合えぃ!出合えぃ!」

と叫ぶ憲兵隊長には構わずに、弾丸のように前方へ飛び出したジジイは、憲兵隊長達に見失わせるほどのスピードで、一直線に扉へと突進し、その扉も一気に突き破った。

「わぁっ!」

 という悲鳴を聞くと共に、ジジイは見た、突如扉が吹き飛んだことに、腰を抜かして驚愕するプイロと、その向こうには、両手足をベッドに縛り付けられ、衣服を半分剥ぎ取られた哀れな姿のエヴァが、同じく驚愕の眼差しで、彼に視線を向けているのを。

 ジジイはエヴァの姿を見て、乳房が露出されていない事を確かめると、プイロを鬼の形相で睨み付けて叫んだ。

「きさまぁぁ、何をさらしとんじゃぁぁ!」

 大地を揺るがすような、とてつもない迫力の怒声が、城全体、いや、軌道上建造物そのものをも振動させているかと思われた。

「なぜそこから、下を先に脱がすのじゃぁぁっ!なぜ、上から順番に脱がさんのじゃあぁぁっっ!」

 そう言った直後、鋭敏に背後の気配を察知したジジイは、俊敏な身のこなしで振り返った。

隊長の呼びかけに集まって来た憲兵たちが、ジジイを取り押さえるべく、一斉に飛び掛かって来たのだ。

 ジジイは素早く身を屈めた。余りに素早い動作によってジジイは、憲兵達に彼の正確な位置を見失わせた。

再びその身を弾丸に変えたように、前方へジャンプしたジジイは、憲兵の1人の懐に易々と侵入し、アッパーカットの拳を顎に叩き込んだ。「てやぁ!」

そのまま体を半回転したジジイは、その隣にいた憲兵の後頭部に回し蹴りを見舞う。「どりゃぁ!」更にジジイは、回し蹴りの軸になった足を踏ん張り、未だ回転の止まらぬ自身の体を宙に蹴り上げ、後続の憲兵の頭上を回転しながら飛び越え、数人の憲兵に取り囲まれた空間に着地した。「とぅっ!」

 そこでジジイは、両手を交互に地に着け、それを軸に全体重を支えて体を回転させ、5人の憲兵に一斉に足払いを掛けた。「せいやぁぁぁ!」そしてジジイは、足を払われた事で、身体を傾けた姿勢で宙に浮いた憲兵5人全員を、両手両足を全て駆使した連続攻撃で、一瞬の内に打ち据えた。「あたたたたぁ」

 憲兵達の体が数メートルも吹っ飛ばされていくのを視認したジジイは、更に地上を数回でんぐり返って移動し、別の憲兵の一団の環の中へと踊り込んだ。「あちょう!」

ジジイは、驚きと共に繰り出された憲兵の拳をひらりと躱すと、身体を半回転させるとともに裏拳を繰り出し、その憲兵の側頭部を強打し、一撃で失神させ、その回転の勢いで繰り出した正拳突きを、隣の憲兵の顔面に叩き込んだ。「ていっ!たぁっ!」

背後にいた憲兵が羽交い絞めにしようと襲い掛かって来たが、ジジイは素早く後ろに繰り出したかかとで、その憲兵の向う脛を打ち据え、バランスを崩させたところに、肘でみぞおちを強打した。「ぬんっ!」その肘と反対方向に回転したジジイは、もう一人、襲い来ていた憲兵を躱し、その頸椎に手刀を見舞うと同時にジャンプした。「とぉぉ!」

その背後から、また別の憲兵が隙を狙っていたのだが、ジジイはその憲兵を後ろ宙がえりで飛び越えて、背後を取った。「ととぉ!」

そしてジジイは、いましがた飛び越えた憲兵の後頭部を左手の手刀で、その後ろにいた憲兵の額を右手の手刀で同時に打ち払い、一泊置いて、正面に位置していた憲兵の顎を蹴り上げた。「はぁっ!ほぉっ!」振り上げたその足を急速に振り戻したジジイは、後方にいた憲兵のみぞおちも、かかとで強打した。「ふーんっ!」

周囲に立っている憲兵がいなくなり、一瞬動きを止めたジジイは、武闘集団達にレーザー銃で狙われたが、彼らが引き金を引いても、ビームは発しなかった。“神力”が銃を無効化したのだ。

ジジイは、昏倒している憲兵の体を蹴り上げ、武闘集団どもめがけてぶっ飛ばした。銃が反応しない事に狼狽していた武装集団の虚を付いて、その頭上に、憲兵達の巨体を雨のように降らせる事で、ジジイは離れた場所から、彼等全員の意識を吹き飛ばして見せた。

ここまでの十秒ほどの格闘で、数十人の憲兵と武闘集団を昏倒させたのだが、エヴァの乳を見そびれたジジイの怒りは、こんな事で収まるようなものでは無かった。

「うぉぉ!許さん!」

と、一旦は距離のあいたプイロめがけて突き進んでいったジジイは、側方から足払いを掛けて来た憲兵を、ひょいと飛び上がって躱すと同時に、左右に勢いよく広げた足で蹴飛ばした。広げた足のもう片方でジジイは、別の、反対側にいた憲兵も同時に蹴り飛ばしていた。「あっとぉっ!」

 着地の瞬間を狙ったのであろう拳も、素早く横に飛んで躱したジジイは、次のステップで勢いの付いた体をぴたりと止めると同時に、襲って来た拳の主の脇腹に、重い膝蹴りを見舞った。「ぬぇぃっ!」

 脇腹を抑えてしゃがみ込んだ憲兵の両側から、その憲兵を避けるようにとびかかって来た2人の憲兵共を、ジジイはしゃがみ込んでいる憲兵の頭に両手を置いて、下半身を空に蹴り上げ、逆さ倒立の体勢になって受け流すと、再びぱかっと左右に開いた両足で、2人の憲兵の脳天を、真上から同時に打ち据えた。「ひゃおぅっ!」

 続いて襲って来た憲兵に、逆立ちしている所に回し蹴りを仕掛けられると、しゃがみ込む憲兵の頭を突き飛ばすように、両手の踏ん張りでジャンプしたジジイは、逆立ちのままの体勢で回し蹴りを躱した上に、その憲兵に正拳突きを食らわした。「セィっ!」正拳突きの反動を利用したジジイは、一瞬で体勢を立て直して足から着地。と同時に、またまた弾丸のように素早く前にジャンプした。

 プイロのそばに近寄って、恐怖におののき顔を歪めていた憲兵隊長と盗賊の頭の顔面に、ジジイは真正面から、両の拳を同時に繰り出したが、その余りの速度により、躱される事も防がれる事も無く、彼等の顔面を強打して弾き飛ばす事に、ジジイは成功した。「ふんんんーっ!」

 プイロの左右を、憲兵隊長と盗賊の頭が吹き飛ばされて行くと、背後の壁に激突した彼らは、泡を吹いて失神した。そしてジジイは遂に、ズンズンといった足取りでプイロに肉薄し、パシリと平手打ちを食らわして、彼をエヴァのそばに跪かせた。

 1分にも満たない格闘であったが、その間にエヴァは、それが件の老人である事に気付いていた。

「ご・・ご老人・・そのような力をお持ちで・・、私を、助けに来て下さったのですね。」

 エヴァはそう言ったが、ジジイの耳には届かなかったようで、プイロに向かって大音声で怒鳴りつけた。

「変な順番で脱がすなぁぁ!!!」

「え??はい???」

 エヴァは、ジジイの全く意味不明な発言に、そんなつぶやきを漏らすしか無かった。

 ジジイはプイロの胸ぐらを掴み、グイッと持ち上げ、その足を床から引き離した。宙づりにされたプイロは、恐怖を張り付けたような表情で、足をバタバタさせ、

「ひ、ひぃぃぃぃぃ」

と、悲鳴をあげた。

 と、そこへ、ミスターヘルプが歩み寄って来た。彼の背後の石壁には、ジジイの開けた穴があり、その向こうでは、ジジイが閉じ込められていた牢のあった尖塔と、今彼らのいる棟の間の中空に、ミスターコーナーが浮遊していた。

 いや、浮遊しているように見えたが、ミスターコーナーは、上から垂らされたロープにつかまる事で中空に位置していた。そのロープは、尖塔と彼らのいる棟の両方にある、ジジイが開けた穴のすぐ上に取り付けられて塔と棟を繋いでいる、もう一本のロープに接続していた。接続部には滑車が取り付けられており、ミスターコーナーが握っているロープは、塔と棟を繋ぐロープを、滑車で横滑りする事で、ミスターコーナー達の塔から棟への移動を助けていた。

「ジジイ、面倒くさい事させるんじゃねえぞ。子供向けのアトラクションじゃねえか、こんなもの。」

と言って、ミスターヘルプは塔から棟への移動手段を指さした。「わざわざこっちに飛んで来たり、敵兵を殴ったり蹴ったりしなくても、向うから念力でどうとでも助けられただろう!」

「まぁ、ちょっと楽しかったがな。空中歩行みたいで。」

と、棟に入って来たばかりのミスターコーナーは言った。

「うぅぅぅっ!そんな事ではわしの気が済まんわ!それに、今はそれどころでは無い!この男!この男!こやつのせいで、乳が見れなんだのだぞぉっ。」

と言いつつ、胸ぐらをつかんで宙に釣り上げたプイロを、ジジイはもう一度、鬼の形相で睨み付けた。

彼らの気付かないところで「乳??」と、いぶかし気に首をかしげながら、エヴァは小さくつぶやいた。

「ジジイ、もう良いだろぉ。その辺にしておけ。」

と、ミスターコーナーが言い、ミスターヘルプは、

「おいプイロ、てめぇらの悪事は全て、帝国の正規軍に通報してある。盗賊団との癒着、兄の暗殺未遂、村人への暴行と虐殺未遂、全部通報してある。それにパエラ伯爵夫人であるミズ・エヴァに対する拉致監禁やレイプ未遂が加わる。てめぇはもうおしまいだ。」

と、プイロに向かって宣告した。

「そしてぇ、そしてぇ、何よりぃ、良いかお前達、控えぃ、控えぃ、控えおろぉ、このわしを誰だと心得る。よぉぉぉく聞けぇ、驚くなぁ」

と、ジジイが肩を怒らせ、胸を反りかえらせ、息巻いて宣告した。

「何を隠そう、この私は、恐れ多くも、前皇帝アレクセンドロス=イエローゲートその人なのだぁ!!」

 一瞬の静寂がその場に訪れ、その後、

「く、くっそう、帝国軍に通報されちゃぁ、もう俺も終わりじゃないか・・。」

「え?い、いや、違う。おぬし、そうじゃないじゃろ。その前にもっと驚け。前皇帝じゃぞ、このわしは、そこんとこにもうちょっと、なんかあるじゃろう、もうちょっとふさわしいリアクションというものが・・」

「そうだプイロ!おまえが癒着していた盗賊団の者共も、もうすでに全員捕縛し、そいつらから証言も証拠も得ている。言い逃れは不可能だ。お前の悪事は全て、白日の下にさらされた!」

「ち、ちくしょうぉぉっ!」

「おい、前皇帝じゃぞよ、ゼンコーテー。それについてなんか言え。」

「兄上が悪いのだ!俺をないがしろに、国のかじ取りばかり気に掛けやがって!そのせいで俺は・・」

「甘ったれた事を言うな。領主という地位に就いた以上、パエラ伯爵が国政に忙殺されるのは仕方ねえだろ。てめぇはそれを補佐すべき立場のはずだ!それを、兄を逆恨みし、このような悪事を企てやがるとは。」

「おい、帝国国民全員の憧れの、前皇帝・・」

「くそぉっ、俺はどうなるのだ。死刑か?流刑か?」

「ふん、この期に及んで我が身の心配ばかりか。てめぇの処遇は、パエラ伯爵に一任されるだろう。」

「なぜだ、前皇帝だぞ、なぜなんだ。何か、ひとことくらい、言ってくれても・・」

 完全に黙殺されるかと思われた、前皇帝降臨という大事件だったが、一人、素直に感動してくれている人がいた。

「ぜ・・前皇帝アレクセンドロス=イエローゲート様だったのですか。そのようなお方だとは知らず、ご老人などと呼び、ご無礼致しました。平に、平にご容赦ください。」

 いつの間にか手足の拘束を、ミスターヘルプによって解除されていたエヴァが、老人に歩み寄って頭を垂れた。

「いやいや、おぬしがそんなに恐縮する必要は無い。大変な思いをしたな。もう大丈夫じゃぞ、エヴァ嬢よ。村人も、お父上も、おぬしの大事な子も、皆無事じゃ。誰一人、怪我一つしてはおらぬ。そうじゃな、ミスターコーナーよ。」

「ああ、安心しな。ミズ・エヴァ。ちょっとタイミングが悪く、あんたのもとには、村人が始末されたとか、子供が拉致されたとかいう報告が行ったかも知れねえが、全部嘘だ。村人も、あんたの子供も、俺たちがちゃんと助けたし、あんたの父さんも、・・えぇ・・ある男が助けた。」

「ほ・・本当ですか?本当に?あ・・有難うございます。何とお礼を言って良いか・・。」

 急速に、胸中に広がった安心感に、エヴァは涙ぐんだ。

「いやいや、礼には及ばねぇよ。もっと早くに、もっと簡単に助ける事も出来たはずなんだ。それをこのエロジジイが・・。」

「・・エロ?・・そ・・そう言えば、乳がどうとか・・?前皇帝様におかれましては、私の乳房が御所望ですか?そんなものでよければ・・・」

と言いつつ、胸元に手を持っていこうとしたエヴァの動きに、老人は狂喜。

「おお・・本当か、それならば、お言葉に・・」

ミスターコーナーは大慌て。

「わああああ、いやいや、ミズ・エヴァ!それは良いんだ。そんな事は気にしないでくれ。」

「おい、何を言う。本人が良いと・・」

「バカヤロー、クソジジイ!良いわけあるか!」

「前皇帝ともあろう尊い方に、ご所望頂いたとあれば、この上も無く光栄な・・。私ごとき卑しい身の乳房などでよければ・・・・」

「いやいやいや、ミズ・エヴァ!ミズ・エヴァ!そんな事は・・。卑しくなんかない。エロジジイにはもったいない。こんなジジイの要求なんぞ叶えてやらなくていいんだ。」

「本人が良いと言うのだ、ちらっと見るくらい・・」

「駄目だ駄目だ、前皇帝の名が廃る、帝国の恥だ、尊い身分が乳見せてじゃねえだろ!」

「あ・・、そうか・・、乳より尻ですか?そう言えば、ずっと尻を見られていたような・・。尻のお触りがご所望で・・・?」

「いやいやいや、ミズ・エヴァ!ミズ・エヴァ!違うんだ、そう言う問題じゃねぇんだ!帝国の品位と言うものが・・」

「さ・・触ってよいのか?マジなのかそれ・・」

「良くねえ!もうジジイは引っ込んでろ!」

 ミスターコーナーは、老人の首根っこをひっ捕まえて、後ろに放り投げた。後ろによろめきながら老人はつぶやく。

「おい・・おい・・、わし、前皇帝・・」

「ミズ・エヴァ、申し訳ない。エロジジイのわがままで・・。こんな怖い思いも、悔しい思いも、こんなあられもない姿にも、本当なら、させなくて済んだんだ。もっと早い段階で、助けられたんだ。その詫びもあるから、もうこれ以上ジジイのわがままに耳を傾けないでくれ。早くウリュチ村に戻って、子供の顔を見てやってくれ!」

「ラウロ!ラウロは今ウリュチ村に?ラウロに会いとうございます!」

「そうだろう!当然そうだろう。そっちこそ、完全に優先だろう!さあ、俺たちが送って行くから、早くウリュチ村に戻ろう。」

 そう言って、エヴァはミスターコーナーに先導され、ミスターヘルプに背後を守られ、その場から立ち去って行った。

「え・・ええ・・?乳見せてくれるって・・・尻触らせてくれるって・・・、本人が良いって・・・。おい、ミスターエイト、こんなことって、こんなことって・・。」

「彼らはよく見ていないから、あんなことが言えるんだろうよ。実物をしっかりと見ていれば・・・。」

と言い捨てて、彼もその場を後にする。

「あやつらと視野を共有する術は無いのか。わしが見たものを見せてやれば、あいつらとて・・・ちらっとくらいは見たいと・・、・・美しいのに、・・たわわなのに・・」

 帝国国民の尊敬と憧れの的である、前皇帝アレクセンドロス=イエローゲートは、すさまじく哀れでみじめで口惜しそうな表情で、その場に取り残されたのだった。


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