今日は何の日?
面倒臭がりの作者のせいで、登場人物には名前がついておりません。
それは、今朝一緒に登校している時だった。
「ねえねえ、今日は何の日でしょう?」
「え?」
彼女は笑顔でそう訊ねてきた。
心当たりの無かった俺は必死に考えた。彼女の誕生日ではない。勿論俺のでも。
クリスマスでも、付き合い始めた日でもない。
となると、やはり誰かの誕生日だろうか。彼女は特に好きな芸能人は居なかった筈だし、家族の誕生日とかだろうか。
そんな俺を見て、彼女は失望の表情を浮かべた。そして、
「もういい」
と、そう言い残し、走り去ってしまった。
◇
「……という訳なんだ。お前、何か知らないか?」
今は昼休み。
あれから彼女に無視され続けている俺は、仕方なく親友と購買のパンを食べていた。
「久しぶりにメシに誘われたと思ったらこれかよ…」
親友は何か呟いているが、必死な俺の耳には入らない。
「で!どうなんだ?」
「……ていうかさー、ほんっとうにわかんないの?」
「わかったらこんなに悩んでいる筈が無いだろう!」
しょうがないなーと言いながら、心当たりを教えてくれるらしい。
「今日は何日?」
「2月14日」
「……それがわかってるのに、今日が何の日かわからないの?」
「……」
「……」
「………あっ、ローレンシウムが合成された日だ!」
「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった」
そう呆れた様に言われたが、心当たりが無いのだからしょうがない。
心優しい親友は、呆れながらもヒントを出してくれる。
「お前のまわりで何か変わった事は無いの?」
「特に何も無いけど、敢えて言うなら最近コンビニで甘味をよく見かける……様な気がする」
「……概ね分かってるじゃん。一番重要な所が抜けているけど」
そして、とても頼りになる親友は、今日が何の日かを教えてくれたのだった。
◇
彼女の生徒会が終わった頃。
俺は校門に向かって全力疾走していた。
いつもならここで俺を待っていてくれるが、今日はどうだろうか……。
「「あ」」
彼女発見!
「ごめん!朝は悪かった!」
「今更謝ったって遅い!バカ!」
「本当に知らなかったんだって!今日は、ウァ、ウァレンティヌスデー……?」
「バレンタインデー!」
「そうそれ!なんか、好きな子にチョコあげるんだってな」
「ん!」
彼女が真っ赤な顔で俺に叩きつけてきたのは、赤いリボンでラッピングがされたピンクの袋。中身は、流れから行くとチョコだろう。
「……くれるのか?」
「あんた以外に誰にあげろっての!」
「ありがとう!」
嬉しさでつい、頬が緩んでしまう。
「一つだけ大量にわさび入ってるから」
その言葉で俺の笑顔が凍りついたのは言うまでもない。
「そういえば、あんた、他の子から何か貰ってないでしょうね?」
「あ、ああ、貰うわけ無いじゃないか。ははははは」
「ふーん。鞄貸しなさい」
「え」
鞄の中には片手では足りない数のチョコレート。
「へえ。私というものがありながら。へえ」
「そんなに不機嫌そうにするなよ!もらった時は意味がわかってなかったんだから!それに、どうみても義理だろ!既製品ばっかじゃないか!」
「私のチョコより先に受け取った事が許せないのよ。本命なんてあってたまるものですか。もしあったらあんたとその子、生徒会の総力を挙げて両方潰すから」
勿論没収ねと彼女は全て自分の鞄に仕舞ってしまう。
「いいけどさ……。それより、俺からもこれ」
そう言って彼女に手渡したのは、ガラス細工の蝶のネックレス。
実はこれ、この間旅行先でつい買ってしまったもの。お土産にネックレスはなんとなく重い気がして渡せなかったけど、こういう機会ならいいかと思って、彼女が生徒会の仕事をしている間に家まで取りに行ったのだ。
「安物だけど、やるよ」
「……いいの!?」
彼女はとても嬉しそうに受け取ってくれた。下手したら一生渡せないかもと思っていたので、こっちとしても嬉しい。
意味がどうこうと呟いているが、ネックレスって、贈り物にすると変な意味を持つのだろうか。
まあ彼女が喜んでくれたから良かった。
そして俺はその日もいつも通り、機嫌が直った彼女と一緒に帰る事が出来た。
俺が、贈り物でネックレスを贈る時の意味が独占や束縛、”貴女を繋ぎ止めたい”だと知り、一人で赤くなるのはまた別の話。
ローレンシウム…103番目の元素。詳しくは作者も知りません。