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白球を追え  作者: クロ
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第1章


 この春、岩戸大学の2回生となった藤堂平太はゼミ室の中の喧騒などお構いなしに自分専用の睡眠スペース(通称:平太の巣)で陽気の中惰眠を貪っていた……。

彼のやる気の無さはゼミ内はおろか、学校中でも周知の事実となっており、いつもならそのまま眠らせてもらえたが新入生オリエンテーションが行われる今日はそうもいかなかった。


「おーい、平太。いい加減起きてよ。お前新入生オリエンテーションの係りだろ?」

「……あと……5分……」

「もう1分1秒1コンマさえのんびりしている時間は無いよ。起きなさい!」


平太は無視をきめこみ引き続きこの素晴らしき惰眠を続けようとしたが目の前の人の皮を被った悪魔はそれを許してはくれなかった……。


「起きないと……あの事バラすよ……?」

「ゴメンナサイ! すぐに起きます! 今起きます!」


平太は同じゼミの悪魔……もとい、原田佑介の言葉を聞き慌ててソファーから飛び起きた。

平太は昔から佑介に頭が上がらない……。

佑介は平太の家族とグルになり情報を共有しており、平太の黒歴史のあんな事やこんな事まで把握しているのだ。


――この腹黒悪魔め……! いつか復讐してやる!


とりあえず声に出したら何をされるかわかったものではないので思うだけに留めておく……。

平太は佑介に逆襲の機会が何度もあったにも関わらず行動を起こした事がない。

なぜなら彼は筋金入りのヘタレだからである。

計画を立てながらも実行に移せないのだった……。

その辺りが彼のヘタレさを更に強調している事を本人はまだ気づいていない……。


閑話休題……


「何か物凄く失礼な事を考えてない?」

「いえっ! 決してそのような事はありまえんですます!」

「やっぱり考えてたんだ……。まあ、いいや。それより早く行こう。もうすぐ始まっちゃうから」


バカなやり取りを終えて、オリエンテーションの会場に向かうのだった。


◆◇◆◇

オリエンテーションの会場の中庭は毎年部活動の勧誘を盛んに行っている。

平太はその中の野球部を見た途端眉間に皺を寄せて眼を逸らした。


――これだから来たくなかったんだ……。


「……もう……やらないの?」

「ああ、もう……やらない……。2度とやりたくない……。」


野球に関係がある物を見るたびにオレはあの時の絶望、惨めさを思い出す。

もう……、あんな思いをするのは……ゴメンだ……。


「そう……。じゃあ剣道部に入部しない? 平太結構筋が良いし、部活中に平太をビシビシしごけるなんてゾクゾクしちゃうなぁ~♪」

「何がいいんだよ!? こっちは全然良くねえよ!」


と、いつもの如く佑介のドS発言にツッコミを入れながら内心これ以上その話題を続けないようにしてくれた佑介に感謝した……。

誰にも触れてほしく無い……。

カサフタから血が噴き出てしまわないように……。


◆◇◆◇


オリエンテーションの係員とは説明会を終えた新入生を5、6人の班に小分けしてそれぞれキャンパス内の必要最低限の施設を案内するという面倒極まりないものだ。

オレは運悪く――と言うか、いつもの如く係を決める時のくじ引きで外れくじを引いてしまい、係を務めることになってしまった……。

最初はやりたくないと駄々をこねたが、佑介のツルの一声で為す術もなくやらされることになったのだった……。


「まあ、こんなもので大体全部だ! 質問のある人は手を挙げてくれ……」


やっとの思いで案内を終わらせ、面倒臭いという様子を隠さずにお決まりのセリフを口にする。

内心では質問なんて面倒な事はしないでくれよと、願っていたがそんな平太のささやかな願いは鼻をかんだチリ紙を捨てるかの様に見事に無視され質問の手が挙がった。


「……はい、斎藤一輝君……」

「はい! 野球部の練習ってどこでやってるんですか!?」


その言葉を聞いた瞬間平太の低かったテンションが更に下降した。


「野球部はいつも第二グラウンドで練習をしている。詳しい事は配ったクラブ活動の冊子を見てくれ。」


――また野球かよ……。


平太は心の中で舌打ちをしながら仕事と割り切って質問に答える。


「他に質問は無いか? 無いよな? ある訳ないよな!? それじゃあ、解散ッ!」


さっさと解散の宣言をしてその場を後にする。

あの斎藤とか言う奴にはもう関わり合いになりたくなかった……。


――全く今日はついてない日だ……。


この時平太は思ってもみなかった……。

この先の大学生活で斎藤一輝との関わりがずっと続いていく事になるとは……


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