【短編小説】価値のあるもの
丘の上に建つ、立派な屋敷があった。
静まり返った夜の闇の中。屋敷の窓から現れ、蜘蛛のように壁を這いながら降りていく影がひとつ。影は地上に到達すると、高価な品々が入った麻袋を大事そうに抱え一目散に隣町へ向かった。
敵から逃げるかの如く、息を切らしながら影は走った。
翌朝、男が訪れたのは街の質屋だった。埃まみれの錆びれた質屋だったが、金に変えてくれるならどこでもいいと男は考えた。
盗んだ品々を豪快にカウンターに置くと、気づいた店主が店の奥から顔を覗かせた。
『いらっしゃいませ。おやおやこれは、たくさんお持ちいただいたようで』
「あぁ、これ全て、いくらになるか鑑定してくれ」
『えぇもちろんでございます。‥‥ほぉ。ところでこの品の数々は、全てあなたの持ち物でお間違いございませんか』
「あぁ、そうだ。俺が持ってきたんだから、そうに決まってるだろ。いいからさっさと鑑定を始めてくれ」
男が荒々しい口調で答えると
『これは失礼。念のための確認でございます。滅多にお目にかかれない品の数々に、思わず感動してしまったのです。それでは鑑定に入らせていただきます』
と、店主は品を抱えて、手際よく裏へ運んだ。
男は鑑定を待つ間、ラジオの電源をいれてみたり、年代物の蓄音機でレコードをかけたり、店内を物色しながら時間を潰した。穴の空いたソファーに腰掛けてみたが、無意識のうちに貧乏ゆすりが始まり、どうにも落ち着かなかった。
数十分後、鑑定を終え出てきた店主は、険しい顔つきだった。
『お待たせしました』
「それで、いくらになる」
『それがですね‥‥』
「勿体ぶらずに早く言え。一体いくらだ」
『‥‥残念ながら、お持ちいただいた品々は鑑定することができません‥‥』
「‥‥なに?‥‥一体どういうことだ」
『この品々が高価であることは確かなのですが、今、この世でどれくらいの価値があるかを算定することはとても難しいのです』
「なぜだ」
『価値というのは、どれだけの人に求められているか。すなわち需要の割合によって算出価格も変わってくるのです。お持ちいただいたのは、どうやら別の星から運ばれてきた骨董品が多いようで。そうなると私どもでは、どれくらい価値があるのか判断しかねるのです。こちらの絵画も、コインも、壺も、残念ですが』
「馬鹿を言え。これらが高価であることは間違いないのだ。もういい、別の質屋をあたる」
男が品を麻袋に戻そうとすると、店主が突然、その腕を掴んだ。
「なにすんだおっさん」
『あなた、いい防弾着を着ていらっしゃる。これは一体どこで』
「これは俺の手作りだ。改良に改良を重ね、ナイフで突き刺されても破れない仕様になっている。心臓部分には鉄の頑丈なプレートが仕込んであるから銃で撃たれても致命的な傷を負うことはない。鉄のプレートはこの帽子にも入ってる。これは完全な防弾着だ」
男の言葉に店主は目を輝かせた。
『ま、まさにこれですよ!人々が求めているものはこういった品なのです!‥‥実は最近、隣町で窃盗や空き巣が多発していましてね。夜もおちおち眠れないと、完璧な防弾着を求める経営者の方々が増えているのです。この防弾着を売れば、かなりの金額になるかもしれません。いや、量産して販売すればあなたは大金持ちになれるかも‥‥』
「おぉそうか。作り方はいたってシンプルだ。素材も決まったものしか使わない」
『一体何の素材ですか』
男は、防弾着の作り方と必要な素材を簡単にまとめて店主に見せた。
『なるほど、これはなかなか面白い。しかし‥‥』
「なんだ」
『この計画を進める前に、その服が本当に破れないか確かめる必要がありますね。一度脱いで見せていただくことはできますか。そのまま鑑定もしてしまいましょう』
男は抵抗することなく服を脱いで店主に渡した。
『鑑定している間、何か飲まれますか』
「あぁ、じゃあコーヒーを一杯くれないか」
『もちろんでございます』
店主はブラックのホットコーヒーを男の前に置いた。
それからラジオのチャンネルを合わせて、少しだけボリュームを上げた。流れてきたのは心地よいジャズミュージック。
男はコーヒーをひとくち飲むと、ひとときの眠りについた。
そして目覚めた時には、男はふたりの警察官に挟まれパトカーに乗っていた。
質屋で流れるラジオからは速報が聞こえてきた。
『昨晩、隣町の豪邸へ侵入し、金品を盗んだとみられる男が、先ほど逮捕されました』と。
質屋の店主はコーヒーをひとくち飲むと、防弾着の作り方が書かれたメモを綺麗に書き写し、その紙を大手の洋服メーカーへ送ったのだった。




