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ハ。─反生成AIの知能の低さについて─

作者: 山田敦志
掲載日:2026/05/09

ネットの片隅、匿名掲示板「創作者の聖域」。

そこに毎日、ID「Pixiv神絵師永久凍土」を名乗る男・田中一郎(32歳、ニート、部屋はフィギュアと空のペットボトルで埋もれている)が現れる。彼は生成AIを心底憎んでいた。「AIなんざ盗作機械だ!!

人間の魂を食い散らかす悪魔のプログラム!!

俺の二次創作すら汚すな!!!」今日も彼は長文を連投していた。その日、珍しくオフ会形式の「同人表現を考える会」が都内の小さな貸し会議室で開かれた。

一郎はいつものように汗臭いパーカーを着て、早朝から一番乗りで座っていた。参加者は十数名。そこに一人の女性が現れた。名前は佐藤 遥(28歳)。

フリーランスのイラストレーターであり、最近はAIを積極的に活用していることで一部で有名だった。眼鏡をかけ、清楚な印象だが、目が鋭い。議論が始まると、一郎はすぐに立ち上がった。「いいか! AIは全部、既存の絵師の作品を盗んで学習してるんだよ! 泥棒だ! 著作権侵害そのものだ!! こんなもんで絵を描くなんて、芸術の冒涜だ!」会場が少しざわついた。遥が静かに手を挙げ、マイクを受け取った。「まず『盗作』という言葉ですが、誤りです。生成AIは画像をピクセル単位で丸ごとコピーしているわけではありません。大量の画像から統計的なパターンを学習しているだけです。人間の画家だって、過去の名画を見て構図や色使いを学んで自分の作品に活かしますよね? それと同じ構造です。

しかも、学習データの大半はパブリックドメインやライセンス許諾済みの画像です。『全部盗んでいる』というのは感情的な誇張に過ぎません。」一郎の顔が赤くなった。「う、うるさい! じゃあ魂はどうなんだよ! AIに心があるのか? 苦しんで描いた人間の情念がこもってるのか!?」遥は小さく微笑んだ。「『魂』ですか。美しい言葉ですね。でも、読者が『魂を感じる』かどうかは、受け手の脳が決めるものです。

あなたが『魂』と呼ぶものは、結局、技術と努力と偶然の積み重ねでしかない。AIが下手な絵を描けば『魂がない』と言い、上手い絵を描けば『人間の作品をパクってる』と言う。都合のいい二重基準じゃないですか?」一郎は机を叩いた。「AIなんか使ったら努力が無意味になるだろ! 努力して描いてる俺らを馬鹿にしてるんだよ!」「努力が無意味になる?」遥は首を傾げた。「カメラが発明された時も『絵の努力が無意味になる』と言われました。

でも実際はどうですか? 写真は写真で発展し、絵画は印象派や抽象画という新しい表現を生み出しました。技術は表現の幅を広げる道具です。

あなたは今、AIを拒否することで、自分の表現の可能性を自分で狭めているだけですよ。」一郎の額に汗が浮かぶ。「だ、第一、AI絵なんてすぐバレるし、クオリティ低いし……」「最新のモデルはもう、あなたが『人間の絵だ』と信じて褒めるレベルに達していますよ。」

遥はノートPCを開き、生成したばかりのイラストをプロジェクターに映した。

会場から「おお……」という感嘆の声が漏れた。非常に高い完成度だった。「これ、全部AIで5分で作りました。後は私が色調整と加筆をしています。

要は『道具』なんです。Photoshopもブラシも、結局は人間の意図次第。AIを『使わない』という選択肢は自由ですが、それを『正義』のように他人に押し付けるのはただの傲慢です。」一郎はもう言葉が出てこない。別の参加者(若い男性)が手を挙げた。「あと、AIアンチの人って『AIは環境破壊だ』とか言い出すけど、電気使ってネット見てる時点で同じですよね。

自分に都合の悪い技術だけ悪者にするの、典型的な認知的不協和ですよ。」一郎の呼吸が荒くなる。「う、うわあああああ!!」彼は突然立ち上がり、椅子を蹴飛ばした。「みんな洗脳されてるんだよ!! AI信者どもが!! 俺の、俺の20年間の努力を……!! 二次元を、俺の聖域を汚すなああああ!!」涙が溢れ出した。

鼻水も混じり、汗と一緒に滴り落ちる。「俺は……俺は本物なんだよぉ……! AIなんかに負けたくない……! 認められたかったのにぃ……!」会場は静まり返った。

誰かが小さくため息をついた。遥が静かに言った。「誰もあなたの努力を否定していません。ただ、『努力=価値のすべて』ではないということです。

努力した上で、新しい道具を受け入れる人もいる。それが創作の歴史です。」一郎は床にへたり込み、膝を抱えて泣きじゃくった。「うわああああん……! もう、描きたくない……全部、AIに取られる……俺の人生、終わったぁ……」その日以降、「Pixiv神絵師永久凍土」は掲示板に現れなくなった。

代わりに、誰かが新しいIDでこう書き込んでいた。「AI使ってみたけど、意外と楽しいわ。人間の創造性って、道具を選ばないんだな」



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