飛ぶ車
しいな ここみ様主催、「空飛ぶ◯◯企画」参加作品です。
日本は某国から宣戦布告された。
開戦と同時に敵国から飛来した爆撃機が日本の空を飛び、空母や戦艦が海を渡って日本に向かう。
そんな中、日本を出発した1艘の船が馬と荷車らしき物を載せて相手国に向かう。
全長10メートルにも満たない船を操るのは痩せ細った一人の男。何の表情もなく、ひたすらに櫓を漕いで船を進ませていた。他に乗っているのは食料のみ。銃火器の類は見当たらない。
航空機から見下ろす人も、すれ違う軍艦に乗る兵士たちも大笑いしながらそれを見送った。手動なのにかなりのスピードが出ていることも可笑しかった。
何日もかけて進み相手国の領海に入った瞬間、荒れてもいない海上で衝突する障害物がないにも関わらず、何の前触れもなくその船はひっくり返った。
それを見ていた兵士たちが不自然な転覆に違和感を覚えたのも束の間、
──それは、"成った"。
海に放り出されたと思われた馬と繋がれた荷車、それに掴まっていた男。
馬の胴体は長く伸び、荷車の車体には鱗模様が浮かび上がる。馬に掴まっていた男は同化するように溶け込み、やがてそれは、朱い光を放つ巨大な"龍"となり、ただ一直線に相手国へ飛んでいく。
突然現れた龍は国内を飛び回った。直線的な動きを軸に、僅かに軌道を変えながら敵の攻撃を全て躱し、質量任せの体当たりを受けた戦闘機や戦車は……衝突した瞬間、音もなく姿を消した。
軍事施設を破壊し尽くした龍は国王のいる建物の前までくると動きを止めた。じっと睨みつけるその姿は、降伏勧告そのもの。
攻撃手段を失った敵国は、降伏するしかなかった。
日本に対して降伏を打診すると、龍は仕事を終えたとばかりに静かに消え去った。
まるで、勝負を終えた駒が盤上から消えるように。
突拍子もないものを飛ばせなきゃと思ったものの、最初に思いついたのが飛車だったので……




