陶芸好きな男爵令息アクセスは、弟に婚約者を奪われ追放される。流れ着いた先で、聖魔法の使い手の伯爵令嬢マリアに溺愛されて、弟たちに復讐する。
スペイラ帝国、アルコルコン男爵家の工房。
「アクセス兄上。もうやめたらどうです?」
弟の冷たい声が響いた。
「その“手作り陶芸”」
工房の中央には、美しい皿や壺が並んでいる。
だがそれを見た弟は、ため息をついた。
「この世界では、土魔法で陶器は作れるんですよ」
ぱちん、と指を鳴らす。
すると土が宙に浮き、みるみるうちに美しい壺の形になる。
魔法で作る陶器。
それは帝国では当たり前の技術だった。
「ほら、数秒で完成です」
弟は笑う。
「兄上のように、ろくろを回して一日かける必要はありません」
アクセスは黙ってその壺を見ていた。
(確かに速い)
だが――
彼は静かに言う。
「でも、それは陶芸とは言わない」
弟は眉をひそめる。
アクセスの前世は、陶芸家だった。
土をこねる。
ろくろを回す。
火で焼く。
土と向き合い、時間をかけて形を生む。
それが陶芸だと信じていた。
だが弟は笑う。
「古臭いんですよ」
そして、隣に立つ少女の肩を抱いた。
「それに」
桃色のドレスを着た少女。
アクセスの婚約者だった。
「エレナもそう思うよね?」
少女は頷いた
「ええ……アクセス様の陶芸は地味ですもの」
アクセスは小さく息を吐いた。
弟は続ける。
「父上も決めました」
「……」
「家を出てください」
そして追い打ちをかける。
「ついでに婚約も破棄です」
エレナはすぐに弟の腕に抱きついた。
「私、彼と結婚します」
その瞬間――
アクセスは肩をすくめた。
(まあ……そうなるか)
彼はもともと、この世界で浮いていた。
手作り陶芸。
そんな非効率なものを愛する貴族などいない。
◇
数か月後。
レタフェ伯爵領。
山に囲まれた小さな陶芸村。
アクセスは泥だらけでろくろを回していた。
「……やっぱり、これだな」
土の感触。
ゆっくり形が生まれる瞬間。
それが好きだった。
だが村は貧しかった。
魔法陶器が主流の世界では、手作りの器など売れない。
村人は細々と暮らしていた。
「アクセス兄ちゃん」
子供が言う。
「今日も売れなかったの?」
アクセスは笑う。
「まあな」
その帰り道。
森の中で悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!」
アクセスは走る。
そこには――
白いドレスの少女が魔物に追われていた。
「危ない!」
アクセスは石を投げる。
魔物の注意がそれた。
その隙に少女の手を掴む。
「こっち!」
しばらくして魔物を振り切った。
少女は息を切らしている。
金色の髪。
青い瞳。
驚くほど美しい少女だった。
「ありがとうございます……」
アクセスは言う。
「無事でよかった」
少女は微笑んだ。
「私はマリア=レタフェです」
アクセスは固まる。
「伯爵令嬢!?」
レタフェ伯爵家の一人娘。
この領地の主の娘だった。
数日後。
マリアは村にやってきた。
「アクセスさん!」
彼女は楽しそうに工房を見回す。
「これ全部、手作りですか?」
「ええ」
マリアは器を手に取る。
「綺麗……」
その時だった。
マリアの手が光る。
聖魔法だ。
柔らかな光が器を包む。
そして――
ぱあっと輝いた。
「え?」
マリアは驚いた。
「聖魔法が……定着してる?」
普通はあり得ない。
この世界の陶器は土魔法で作る。
なので、その陶器には魔力が残る。
そのため聖魔法が付与できない。
しかし。
アクセスの陶器には――
魔力がない。
だから聖魔法が入るのだ。
「これ……!」
マリアは叫んだ。
「魔除けの器になります!」
その噂は一瞬で広がった。
魔物を遠ざける器。
聖女の祝福付き。
村には人が押し寄せた。
「ください!」
「十個!」
「いや百個!」
陶芸村は大騒ぎになった。
そんなある日。
アルコルコン男爵家から手紙が来た。
『今すぐ戻れ』
『家の跡取りにする』
アクセスは笑った。
そして紙を畳む。
その時。
マリアが工房に入ってきた。
「また注文増えました!」
土だらけの顔で笑う。
アクセスは言う。
「実家から戻れってさ」
マリアは少し黙った。
「……戻りますか?」
アクセスはろくろを回す。
「いや」
土が形になる。
「ここが好きだから」
そして笑った。
「それに」
マリアを見る。
「君もいるし」
マリアの顔が真っ赤になる。
こうして。
追放された陶芸令息は――
聖女と一緒に。
辺境の陶芸村で。
今日もろくろを回している。
ゆっくりと。
幸せなスローライフを楽しみながら。




