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陶芸好きな男爵令息アクセスは、弟に婚約者を奪われ追放される。流れ着いた先で、聖魔法の使い手の伯爵令嬢マリアに溺愛されて、弟たちに復讐する。

作者: 山田 バルス
掲載日:2026/03/25

 スペイラ帝国、アルコルコン男爵家の工房。


「アクセス兄上。もうやめたらどうです?」


 弟の冷たい声が響いた。


「その“手作り陶芸”」


 工房の中央には、美しい皿や壺が並んでいる。

 だがそれを見た弟は、ため息をついた。


「この世界では、土魔法で陶器は作れるんですよ」


 ぱちん、と指を鳴らす。

 すると土が宙に浮き、みるみるうちに美しい壺の形になる。

 魔法で作る陶器。

 それは帝国では当たり前の技術だった。


「ほら、数秒で完成です」


 弟は笑う。


「兄上のように、ろくろを回して一日かける必要はありません」


 アクセスは黙ってその壺を見ていた。


(確かに速い)


 だが――

 彼は静かに言う。


「でも、それは陶芸とは言わない」


 弟は眉をひそめる。

 アクセスの前世は、陶芸家だった。

 土をこねる。

 ろくろを回す。

 火で焼く。

 土と向き合い、時間をかけて形を生む。

 それが陶芸だと信じていた。

 だが弟は笑う。


「古臭いんですよ」


 そして、隣に立つ少女の肩を抱いた。


「それに」


 桃色のドレスを着た少女。

 アクセスの婚約者だった。


「エレナもそう思うよね?」


 少女は頷いた

 

「ええ……アクセス様の陶芸は地味ですもの」


 アクセスは小さく息を吐いた。

 弟は続ける。


「父上も決めました」

「……」

「家を出てください」


 そして追い打ちをかける。


「ついでに婚約も破棄です」


 エレナはすぐに弟の腕に抱きついた。


「私、彼と結婚します」


 その瞬間――

 アクセスは肩をすくめた。


(まあ……そうなるか)


 彼はもともと、この世界で浮いていた。

 手作り陶芸。

 そんな非効率なものを愛する貴族などいない。



 数か月後。


 レタフェ伯爵領。

 山に囲まれた小さな陶芸村。

 アクセスは泥だらけでろくろを回していた。


「……やっぱり、これだな」


 土の感触。

 ゆっくり形が生まれる瞬間。

 それが好きだった。

 だが村は貧しかった。

 魔法陶器が主流の世界では、手作りの器など売れない。

 村人は細々と暮らしていた。


「アクセス兄ちゃん」


 子供が言う。


「今日も売れなかったの?」


 アクセスは笑う。


「まあな」


 その帰り道。

 森の中で悲鳴が聞こえた。


「きゃあ!」


 アクセスは走る。

 そこには――

 白いドレスの少女が魔物に追われていた。


「危ない!」


 アクセスは石を投げる。

 魔物の注意がそれた。

 その隙に少女の手を掴む。


「こっち!」


 しばらくして魔物を振り切った。


 少女は息を切らしている。

 金色の髪。

 青い瞳。

 驚くほど美しい少女だった。


「ありがとうございます……」


 アクセスは言う。


「無事でよかった」


 少女は微笑んだ。


「私はマリア=レタフェです」


 アクセスは固まる。


「伯爵令嬢!?」


 レタフェ伯爵家の一人娘。

 この領地の主の娘だった。


 数日後。

 マリアは村にやってきた。


「アクセスさん!」


 彼女は楽しそうに工房を見回す。


「これ全部、手作りですか?」

「ええ」


 マリアは器を手に取る。


「綺麗……」


 その時だった。

 マリアの手が光る。

 聖魔法だ。

 柔らかな光が器を包む。

 そして――


 ぱあっと輝いた。


「え?」


 マリアは驚いた。


「聖魔法が……定着してる?」


 普通はあり得ない。

 この世界の陶器は土魔法で作る。

 なので、その陶器には魔力が残る。

 そのため聖魔法が付与できない。

 しかし。

 アクセスの陶器には――

 魔力がない。

 だから聖魔法が入るのだ。


「これ……!」


 マリアは叫んだ。


「魔除けの器になります!」


 その噂は一瞬で広がった。

 魔物を遠ざける器。

 聖女の祝福付き。

 村には人が押し寄せた。


「ください!」

「十個!」

「いや百個!」


 陶芸村は大騒ぎになった。

 そんなある日。

 アルコルコン男爵家から手紙が来た。


『今すぐ戻れ』

『家の跡取りにする』


 アクセスは笑った。

 そして紙を畳む。

 その時。

 マリアが工房に入ってきた。


「また注文増えました!」


 土だらけの顔で笑う。

 アクセスは言う。


「実家から戻れってさ」


 マリアは少し黙った。


「……戻りますか?」


 アクセスはろくろを回す。


「いや」


 土が形になる。


「ここが好きだから」


 そして笑った。


「それに」


 マリアを見る。


「君もいるし」


 マリアの顔が真っ赤になる。

 こうして。

 追放された陶芸令息は――

 聖女と一緒に。

 辺境の陶芸村で。

 今日もろくろを回している。

 ゆっくりと。

 幸せなスローライフを楽しみながら。


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