いつか 幸せの 答え合わせを
ある1人の女性の過去を、少し振り返ったお話です。どこにでもあるようなお話なので、少し共感できるかも知れません。
あの人と最後に言葉を交わしたのはいつの事だったか…。
あの人はどこのクラスにでもいる様な、どこの会社や、部署に1人はいる様な、柔らかい印象の人だった。
言葉遣いも丁寧すぎず、砕けすぎず。服装も明るすぎず、暗すぎず。個性がないと言えばそうなのか、それともよく似合っている服装で違和感がなかったのか。体型も中肉中背、顔つきもモデルとは言わないが、嫌われる要素のない普通の人であった。
そう、強いて言えばメガネをかけていた。
そんなあの人と、しばらくお付き合いをしていたが、なんでだろう、いつの間にか別れたことになっていた。
確かに、付き合い始めたのも、お互い告白などはせず、友達の輪から少しずつ2人で出かける機会が増え、その時間がいつの間にか当たり前になり、周りから「2人は付き合ってるの?」などと聞かれて初めて、2人の関係性を何かに当てはめた時、そうなのかも知れない、と自覚したくらいだった。
「いつからそんな間柄になってたのよう、教えてくれても良いじゃない!」
「水臭いなぁ、コソコソとしなくたって良いだろう」
「どっちが先に告白したの?」
「馴れ初めは何?」
知人たちの興味は底知れず、そんな質問たちに答える内容が何もない私たちは、いつも笑って誤魔化すしかなかった。
「じゃあ、お互いのどこが好きになったの?」
なんて不躾なんだろう…。
どうせ私たちにはそんなドラマみたいな盛り上がりも、感情の起伏の激しいやり取りもない。
本当に友達の延長線上に2人で並んで歩いている感じなのだ。みんなは何をそんなに聞きたいのか。ドキドキ、ワクワク、ドロドロめいた事が聞きたいのは間違いないとは感じていたが、私とあの人にそんな事は期待しないでもらいたい。
「んもうっ! じゃあ、初キスとか、あ、いやいや、初手繋ぎはどうよ?いつ頃すませ…じゃなくて、ドキドキした?」
何を聞くのやら、呆気に取られていると、あの人は言った。
「そう言う事は2人だけの秘密だ。」
キャー、ヒューヒュー、と私たちを揶揄う声や騒ぎ声が辺りに湧き上がった。
その言葉に顔をニヤつかせたり、何やら文句っぽい言葉だったりと、様々な音が入り混じって騒がしい盛り上がりをしていた。
私は、今に至るまでキスも、手繋ぎデートもした事はない。よく話して笑い合ったりしているが、それ以上は特に何もないし、何もない事に不満もない。逆に、大変満足中なのである。
一緒に映画を見たり、喫茶店でソファに座りお互い好きな本を読み、お互いの買い物に付き合い、ちょっと遠くの水族館に行ってみたり、たまに軽くトレッキングなんかしてみたりと。多くの事を一緒にする仲なだけだ。
そう、友人より、家族より多く時間を共にする。そんなあの人が、お付き合い相手。
既に社会人となって数年たち、中堅社員であり、社会保険料も馬鹿にならない額支払い続け、周りは結婚し子持ちの同年代に囲まれ、のほほんと結婚しろと言う“圧迫結婚“から逃れるのがキツくなっている年齢になり、世の中ハラスメントだ、なんだと言っても、心配している事がわかっているから、申し訳ない気持ちが反抗する言葉を飲み込ませる。
きっと、両親共に健在ならば、もっと反抗して、喧嘩腰になったりするのかも知れない。まだまだ若いし、結婚してない人だって世の中いっぱい居るし、独身だからこそたくさん税金も払ってるし、割引とか恩恵少ないし、正直言って独身の社会貢献舐めんなよって思ってたりする。まぁ、そんな事を大々的に言う気はさらさらないけれど。
私だってもう少し若い頃、家庭を持ち、子供を産み育て、家事に育児に仕事に奮闘する未来を、想像していたりしたこともあった。でもそれには、一生を共にする相手と覚悟がないとできないって事は、親が亡くなった時に必然的に理解した事だった。今では小言を言ってくれるような親戚も付き合いがない。
あの人はどうだろう。
いつの間にかお付き合いが始まり、何となくそのまま2人で居る事が増え、2人で行動することが普通となり、住まいは別々で、週末はほぼ2人で過ごす。お互いの部屋にはあまり立ち寄らず、外で過ごしている。会社の部署が違うから、特に普段は会わないし、会社が同じから休みを合わせようとしなくても休日は同じ。何となくお互いの忙しい時期は理解できるから、そんな時は干渉しない。そんな流れができている仲間内の私たちは、2人だけの行動ととなってもその辺に変化はなかった。
身体を重ねたことも、本格的にお付き合いしている自覚が芽生えてから数回。誘われれば答えるけれど正直、何度もしたいとは思えなかった。
「仕事より私を優先して欲しい」
なんて、言った事もない。思ったことも、多分ない。それは多分、お互い忙しい時期が結構重なっているからだとは思う。お互いがお互いの立場を尊重するが故の。私自身、そんなこと言われても他の社員に迷惑や負担をかけてまで、2人の時間を持ちたいとか、そんな情熱はない。あの人からも、そんな熱量を感じたことはないのだ。
どちらかと言えば、今は仕事優先。仕事が面白い。やり甲斐がある。こんな風に仕事を進めたい。そんな雰囲気をひしひしと感じている。そんな時は誰にだって来ると思うし、そんな状態の時に、他人のわがままで勢いを削がれたくは無いだろう。
そう、私は所詮、本人ではなく他人だ。それも赤の他人。
偶に、仕事中や休憩中のあの人を見かけるが、正に、そんな生き生きとしているあの人に、チャチャを入れる気など生まれるはずがない。あぁ、ホントに仕事が楽しいんだなぁ。それは良かった良かった。
そんなこんなでお互い、連絡も疎になり、会社以外で顔を合わせる暇もなく、久しぶりの連絡に何だがむず痒く感じていた私だったが、あの人はそうでも無かったらしい。
「今度、会社を退職して先輩の会社を手伝う事になったんだ。君とは昔仲良くして貰っていたし、一応挨拶しとこうと思って。」
その言葉で、私たちの、あの関係は、終わったのだと、知らされた…。
「…っへ、へぇ、そうなんだ…。ヘッドハンティングって感じ?すごいじゃん。さすがだね。」
私の声は、上擦ってないはず。早口にも、不自然にも聞こえないはず。心臓の音がこんなに聞こえてザーっていう雑音さえ聞こえているのは、私だけのはず。その筈だ。
「あ、ごめん、ごめん。なんか嬉しくて、ちゃんと会って報告しなきゃとか思ってさ。びっくりした?」
あの人が覗き込むように顔をテーブルに近づけた。
私はその時、俯いてしまっていた事を自覚して、慌てて顔を上げる。
焦ってはいけない、普通のフリを。驚いても、笑顔を見せなくては。なんて事はない、ただ、親しい友人としてあの人が決めた決定事項を、聞くだけだ。
そう、あの人にとっては、私に何かを相談するでもなく、悩みを打ち明けるでもない。暇な時間を独りではなく、2人で過ごす。そんな友達の延長線上に、ポツンと…。ただ、ポツンといただけの私に…。
お互い、30も半ばを過ぎもうすぐ40に手が届く歳ともなれば、結婚願望がバッキバキに折れまくっている人と、真逆に結婚願望がオーラの様に滲み出てる人が結構な割合でいると思う。
あの人は40前、私は30半ば。色々と情熱はなくとも、側から見れば、まぁまぁお似合いな2人だった様に思う。結婚願望の薄い私でさえ、このままのらりくらりと、私たちの付き合いが続いて、『事実婚』の様な関係性でこれからも、ずっと続いていくものだと思っていた。
でも、それは私の勘違いだったのだ。
それは、普段より饒舌なあの人が、普段より顔を赤らめて、普段より少し声も張り、今の私にもわかりやすく、説明してくれた。
「転職に伴って、心機一転って言うか、タイミング良くっていうか、再来月…俺、結婚、するんだよね…へへ。」
私の心臓の音が、あの人の言葉を最後まで聞く前から、徐々に大きくなって煩くなり、ザーッという砂が流れる音もどんどん大きくなり、頭痛がした。動悸だ。眩暈が起きるかも、頭痛も少しまずい気がする。私は知らぬ間に頭に手を当てていた。それでも平静を装いたかったのか、今思えば私は冷静に言葉を発していた。
「それは驚き…。というか、驚く。今までそんな素振りはなかったじゃん。一体どこの誰とよ。」
マズい!責める様な口調になった!せめて表情は繕わなくちゃ!
「先輩の会社の事務やってる子で、20代なんだけどね。何だか意気投合しちゃって。一緒にいろんなとこ出かけたり、食事したり、遊んでたら、何だか段々そんな感じで付き合う様になって、いつも一緒に居たいって言ってくれたりとか、家に来てご飯作ってくれたりとか。それから…」
なんだ…。私の気持ちなんて、もう、どうでもいいんだ…。
今の自分の幸せを、自慢したくてたまらないんだね…。そんなにニコニコしちゃってさ、私の今の顔つきはどんな風なんだろう?笑ってる?怒ってる…訳ないか、それだったら流石に真正面に座って気づかない訳ないでしょうし。ムッともしてないのかな、してみようかな。無表情でもないのかな。あの人の話がすっかり耳に入らなくなって、何だか妙な落ち着きを取り戻し、自己分析をしていると不意に声が頭に響いた。
「…俺も、この歳になって結婚するとは、思っても見なかったよ。君にもきっと良い人が現れると思う。だって君はすっごく良い人だから。」
この時の私はどんな表情をしていただろうか。思い返しても、思い出せない。
この後私は何て言葉を返したろうか。思い返しても、思い出せない。
そして私は、どうやってあの人と別れ、家まで帰ってきたのだろうか。思い返しても…いくら思い返しても、思い出せない。
あの人にとって、私という存在は…。
私にとって、あの人という存在は…。
深く考えるべきではないと、私が、ストップをかける。今は、特に今は、深く考えてはいけない。他の何かを考えよう。
今日のお昼ご飯?いや、時間はもう夜の7時過ぎ…。晩御飯を考えねば、ねば、ネバ、ネバネバ…。お昼も食べてないじゃないか。軽くか?ガッツリか?あれ?食欲はどうだ?どうだね、私の胃腸さん。元気かね?何か欲しいかな?おや、喉が渇いているね、こりゃ水分を摂りましょう…。
私は少し故障してしまったようだ。何か、物に当たり散らすような性格でもなければ、誰かに洗いざらいぶちまけてスッキリするという様なタイプでもない。そんな友人すらいないのだが、こんな時は誰かに取り留めもなく、話を聞いて欲しくなるというのは、本当のことらしい。何故だか涙もじわじわと溢れて、顔も歪み始めた。きっと記憶にない子供の頃以外で、大声をあげて泣いた事はないし、駄々をこねた事もない。辛いと感じたり、文句があっても部屋にこもって枕を濡らすタイプだった。感情が乏しいとは思っていないが、側から見れば、自分の意見も言わず感情表現の乏しい子供だったかもしれない。それは大人になってから役にたつスキルの様なものだ。
あぁ、あの人は何て楽しげに、幸せそうに、朗らかに、笑顔で私に報告していたのだろうか。
顔色は恥ずかしそうに上気していたが、自慢げにも見えた。そんなに誇らしい内容だろうか。引き抜きかもしれないが、たかだか転職。それも立ち上げてまだ実績もない会社で、これからの苦労も多いまだまだ弱小の、社長含め4人の会社。どの業界も、ツテ無しコネ無しでやっていける程甘くはない。あの人の先輩という人がどれほど実力があるのか、実行能力があるのか知らないが、これからのあの人の人生は決して楽に進まないだろう。きっと4人だからこそ大変な事も多いに違いない。
未来への展望、実務。夢、実務。希望、実務。実務、実務、実務……。
ふっ…。ふふ…。ふっふふふ…。
私は何て底意地の悪い。こんな人間だったのか。腕で口を塞ぎ、声が出ないようにしたものの、私の歪んだ眼からは涙が何故か、こぼれ落ちていた。抑えたはずの笑い声も、私の耳には嗚咽に聞こえる。そのせいで、あの人との思い出が急に脳裏に浮かび上がり、私の心臓をドンドンと叩くように、痛めつける。
なんで、なんで!、なんで!!
そんな風に思う資格すら、あの人は私からいつの間にか取り上げていたというのに。
いや、その資格をいつの間にか手放していたのかもしれない。もっと早く連絡をしていれば、もっと頻繁に連絡を取っていれば、もっとあの人の気持ちを尋ねていれば、もっと私の気持ちをハッキリと伝えていれば…。
今も 私たちは 幸せだったかもしれない…。
いや、私は…。私はあのままでも…。
あぁ、何て不毛な思考なのか……。
グチャグチャな、激辛シチューと激甘カレーのようなよく分からない気持ちが気持ち悪くて、食欲が失せたまま数日を過ごしていた。その間も仕事は待ってはくれないし、列をなして止めどなくやってくる。私はと言えば仕事にかける情熱などないものの、滞りなく仕事を終わらせる事には執着がある為、機械のようにキッチリと毎日会社に行き、お勤めを果たした。不思議なもので、フッとした瞬間に思考があの人の事に持っていかれるが、待ったなしの仕事が現実に私を引き戻してくれていた。
会社の中でも、私たちの関係は自然消滅扱いされていたので、あの人が退職、転職しても何ら私に被害は及ばなかった。どちらかと言えば、気を遣って話を振らない方向で話題が進んでいた様に思う。それは、いつもならありがたい態度なのに今の私は誰かに、そう誰でも良いから私たちの現状に、いや、私の今に至る過程を皆んなにブチまけて共感して欲しいと、同情して欲しいと、慰めて欲しいと叫ぶ様に波打つ鼓動が息苦しい。
休日になれば自宅から出る事もせず、シャワーすら浴びず着替えもせずに不毛な思考があちこちに行ったり来たり。食事も面倒、水分を摂ることも水で構わないし、特に見たい映画も景色も世界情勢が何だって構わない。平日の仕事の疲れを癒す事が、今はただこうしてベッドに横になるだけ、という事。目を閉じてしまえば思考が変に深く沈み込んでいくから、何となく薄目を開けて天井と壁の角を見ているだけ。意味のある事ではないし、何か意味があることをしたくない。あぁ、本当に、無駄に呼吸をしているものだ…。
でも、そんな無駄な時間が、私を生き存えさせる…。
空気の様に、静かに隣にいる関係だった。お互いに無理を言わず、縛り付けるでもなく、我慢をしていた訳でもなく、好きなのも、嫌いなもの、どうでもいいもの、価値観が同じだと思っていた。細かく見ればもちろん同じじゃない事はある。でも、大枠は同じだと思っていた。だから、気を抜いていたのだ。いつも隣にあるものは、これからもずっと隣にあり続けるのだと。両親が亡くなって、そんな事はないと思い知っていたはずなのに。人生の半分を両親不在で頑張ってきた。辛かった、悲しかった、寂しかった、そんな時期がとても長く続いたのに、私はそんな感情をどこかに忘れてきてしまったのだ。腑抜けていたのだ。
ー幸せはいつだって不意に何某かに奪われるものー
知っていたのに、きっと私は自分であの人と別れる道をいつの間にか選んで進んできたのだろう。
そしていつか、両親が亡くなってから過ごした時間のように、あの頃は辛かったなぁなどと思い出す時が来るのだろう。そう、生き続けていれば。きっとこんな事は誰にでも起こるし、体験する事で、もっと辛い経験をしている人は世の中に溢れているのかもしれない。そう、私は寝床もあるし、職もある。生きていくには十分だ。若くして亡くなった両親の分も、私は無意味でも自身の命を自分から捨てる事はしないと、最低でも両親の生きた年齢までは生き延びると、あの時決めたじゃないか。それまではまだ10年以上ある。これは頑張らないと、10年なんてあっという間に過ぎてしまう。
「は、はは…」
親に反抗した態度を取っていたり、文句ばかり言われたりしてたと思うのに、今では大好きな両親と楽しかった思い出の方がたくさん覚えてるなんて、不思議なものだ。今では声も記憶としては薄れてしまっている。笑ってない写真でも見れば思い出す両親の笑顔。大声で笑う父親、茶化す母親。
「パパ…マ、マ…」
久しぶりに声に出して呼んでみた。あぁ、何て苦しいんだろう。嗚咽が、声が、涙が溢れ出てきて止めようがない。苦しい、苦しいよママ!助けてよパパ!あんな奴やっつけてよ!!大丈夫だよって、私は悪くないって言って!お願いママ!
「うぅ…くぅ……ふぅ……うっ…」
あれから数年。
私は今だに世の中で言う、独り者。休日に遊ぶ友人はできたが、特別な誰かは存在しない。年齢も重ね、周りからの“圧迫結婚“要求もほぼ無くなり、自身の老後も少しばかり考えながら自分を大事にできている。そう、現状にとても満足できているのだ。そんな私の所に、あの人の近況が誰かしらからもたらされた。
あの人は聞いた彼女と結婚後じきに離婚。相手はあの人より10歳若い、裏家業と繋がりがある人らしい。買ったマンションは相手に居座られ単身ウィークリーマンションに引っ越し、裁判中らしい。と、らしい、らしいばかりのどこまで本当の話かわからないが、あまり良い様子ではない。そんな話を聞いたところで何の気持ちも湧き起こらないが、それは気の毒に、程度の言葉は出てくる。
まぁ、生きていける収入と住まいがあって良かったね。
「…転職して行った会社の方もあんまりいい状況じゃないみたいよ…」
「そうなんだ、大変だね。」
こんなにサラッと言葉が出るとは思ってもいなかった。
もう本当にあの人に何の情も無いのだと、ハッキリと自覚した。小学生の時の名前だけ覚えているクラスメイト位の思い入れのようだ。辛い状況だと聞けば、大変だね。幸せだと聞けば、良かったね。と言えるくらいに。
世の中、人の噂話が好きな人はたくさんいる。こうして、聞いてもいないのにあの人の近況や本当か嘘かもわからない噂話を話して回る人。尾ひれ背びれを着きまくって話を大きくして回る人。いろんな話を面白おかしく喋りまくる人。そんな話を聞き耳を立てて、聞いてないふりでしっかり聞いている人。もっと教えてと嘘だろうと何だろうと話を広げようとする人。あぁ、私はそんな人達に話題を振りまかないようにしようと、心から思う。
「はいはい、休憩おしまい。さぁ、もう一踏ん張り。今週中には終わらせないと期末の報告に間に合わなくなるよ。私の所には明後日までに上げてきてよね〜。」
「主査〜、明日中に終わらないかも〜。もう少し時間下さいよ〜。」
「な〜に言ってんの。時間ならそれまでもいっぱいあったでしょうが。」
「夏休みの宿題は最後にまとめてやる派なんで。」
「社会人は甘えない。会社員は仕事してお給料もらうものよ。お小遣いじゃないんだから、タダでお金は貰えないの。」
「む〜。優しくな〜い。」
「優しい世界なんて、親のお腹の中だけよ。さぁ、仕事、仕事。」
私の生きていく日々は続いている。多少のしがらみと面倒なことがあったところで大きく見れば大差ない日常。食べて寝て起きて仕事して。休日はたまに友人と会い、春夏秋冬を感じ、少し貯まった貯金にほくそ笑む。そんな何もドラマチックでない日常を繰り返し年を重ねて、いつか私は両親のように墓に入るのだろう。そう、それでいい。それが、良い。
あまり自身を曝け出す女性ではないので、なかなかに主人公が把握しきれません。隠したがるようで少し出したいような、そんな女性です。




