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25話


 守護竜アウルディオンは低く唸りながら体を震わせていた。巨大な胸が大きく上下し、そのたびに鱗の隙間からわずかな風が吹き出す。黄金の瞳が細くなり、前足が石畳を引っ掻いた。ガリ、と嫌な音がして、白い床石が削れる。


 次の瞬間だった。


「ガアアアアアアアア!!」


 凄まじい咆哮が中庭を揺らした。


 耳の奥がびりびりする。空気そのものが震え、胸の奥まで振動が響く。オレは思わずアレンの肩にしがみついた。


 竜の翼が大きく広がる。ドォォン!!突風が庭を吹き抜け、騎士たちが数歩後ろへ押し戻された。旗が激しくはためき、割れた石の破片が転がる。


「完全に来たな」


 ダリオが低く言った。


 竜の前足が振り上がる。

 ズガァァン!!

 石畳が砕け、破片が弾け飛ぶ。中庭の中央に大きな穴が開いた。騎士たちが慌てて後退する。


「下がれ!」


 アレンの短い声が飛ぶ。


 その声に騎士たちは一斉に距離を取った。だが竜は構わず尾を振る。ブォン!! 空気を裂く音。近くの石像が真横から吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて砕けた。


「おいおい、派手すぎるだろ!」


 ダリオが地面を蹴った。

 ――ドン!!


 一瞬で竜の懐へ飛び込む。拳が唸る。ドォン!! 鈍い衝撃音が響き、竜の頭がわずかに横へ揺れた。


「少しは落ち着けっての!」


 竜が唸る。「グルルルル……!」 巨大な爪が振り下ろされる。ダリオが体をひねって避ける。ズガァン!! 地面が割れ、石が飛び散る。直撃すれば人間なんて一瞬で潰れる威力だ。だがダリオは笑っていた。


「おいおい、力任せすぎだろ!」


 その瞬間、風が走った。シュンッ。アレンだ。いつの間にか竜の背後へ回り込んでいる。剣が一閃した。キィィン!! 鱗に火花が散る。だが深くは斬らない。表面を軽く弾く程度だ。


「刺激しすぎるな」

「分かってるよ!」


 ダリオが笑いながら答える。竜が咆哮する。「ガアアア!!」翼が振られる。ドォン!! 突風が巻き起こり、砂と石片が舞い上がる。アレンが空へ跳んだ。背中から広がる巨大な翼。ダリオも同じように飛び上がる。二人は竜の頭上で交差した。


「右任せる!」

「了解」


 アレンの周囲に風が集まる。透明な刃がいくつも生まれた。ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ。風刃が竜の周囲へ撃ち込まれる。だが狙いは竜の体ではない。地面や柱、壁。竜が破壊して、飛び散る石を粉砕し、崩れそうな建物の破片を切り落としている。


「暴れる方向を限定する!」

「なるほどな!」


 ダリオが笑う。竜が前進した。巨体が騎士たちの方へ向く。


「やばい!」


 騎士の声。


 ダリオが地面へ落りる。ドン!! 竜の前に立ち塞がる。


「そっちはダメだ!」


 拳が叩き込まれる。ドォォン!!竜の身体が横へ弾かれた。竜が唸り、尾が振られる。ブォン!!


 ダリオが腕で受ける。ドォン!!衝撃で数歩滑る。


「っ……重っ!」


 その瞬間、竜の爪が振り下ろされた。だが――キィィン!! 剣がそれを受け止める。アレンだ。


「大丈夫か」

「なんとかな」


 アレンは竜を見上げた。


「やはり変だ」

「まだ言うか?」

「怒り方が普通じゃない」


 竜は何度も体を震わせている。まるで何かを振り払おうとしているみたいに。


 オレはアレンの肩の上で、じっと竜を見ていた。


 ……おかしい。


 オレの目にはマナの流れが見える。竜の体には強いマナが巡っていた。胸の奥、大きな光。魔石だ。そこから流れ出したマナが全身へ広がっている。


 だが、オレは目を細めた。流れがおかしい。マナがどこかへ引っ張られている。細い流れが竜の体の中を走り、後ろ脚へ、足首へ……


 オレはじっと見る。そこに、黒い輪があった。足環。金属の輪が竜の足首に嵌まっている。そこへ、マナが吸い込まれていた。……吸われてる?


 オレは足環を見る。あれだ。あれを外せば竜は落ち着く。たぶん。


 竜は何度も後ろ脚を振っている。まるでそこに噛みつく虫でもいるみたいに。違う。あれだ。あれが竜を苦しめてる。


「にゃ!」


 オレは鳴いた。アレンがちらっとこっちを見る。


「どうした」


 だが竜が暴れる。


「来るぞ!」


 ダリオが叫ぶ。竜の尾が横薙ぎに振られる。ブォン!! 石像が吹き飛ぶ。アレンが風刃を飛ばして破片を砕く。戦いは止まらない。オレはもう一度鳴く。


「にゃ!にゃ!」


 だが届かない。二人とも戦うのに必死だ。竜が咆哮する。「ガアアアア!!」その声だけで空気が震える。オレはもう一度足環を見る。黒い輪。そこへ吸い込まれていくマナ。竜の魔石から流れた力が、全部あそこへ引っ張られている。


 あれを外さないと。


 竜は止まらない。


 オレは思った。


(……オレがやるしかない)


 次の瞬間、オレはアレンの肩から飛び降りた。


「クロ?」


 アレンの声。


 だがオレは止まらない。石畳へ着地する。ドンッ。竜の影が目の前に広がる。巨大な体。小屋どころじゃない。山みたいな脚。爪は剣みたいだ。普通の猫なら絶対近づかない。オレでもちょっと怖い。


 でも。


 走る。


 石畳を蹴る。タッ、タッ、タッ。竜へ一直線。


「クロ!」


 アレンの声が鋭くなる。聞こえてる。でも止まらない。竜が動く。後ろ脚が持ち上がる。影が落ちる。


 やばい。


 オレは跳ぶ。ドォン!! さっきまでいた場所に竜の足が落ちた。石が弾ける。破片が顔の横をかすめる。


 でも止まらない。


 走る。


 風圧が顔に当たる。オレは地面に体を低くして滑るように避ける。


 近い。


 あと少し。


 竜の後ろ脚が見える。足首。黒い輪。


 あれだ。


 竜がもう一度足を振る。ブォン!!


 今だ。


 オレは思い切り跳んだ。


 空中で体を伸ばす。


 爪を出す。


 ガシッ!!


 竜の脚に飛びついた。鱗の隙間に爪を引っ掛ける。ずるっと滑りそうになる。必死で爪を立てる。


「にゃっ!」


 落ちるかと思ったが、なんとか引っ掛かった。竜の脚は太い。木の幹より太い。オレの体なんて豆粒みたいだ。それでもよじ登る。爪を立てて、少しずつ上へ。竜が暴れるたびに体が揺れる。


 でも登る。


 足首まで。


 そして。


 黒い足環を掴んだ。

 

 冷たい金属。オレは爪を引っ掛ける。


 ぐっ。引っ張る。……外れない! もう一度。ぐっ! びくともしない。


 その瞬間、竜が大きく体を震わせた。


「ガアアアアア!!」


 やばい。


 竜の翼が広がる。ドォォン!! 地面が遠ざかる。竜が――飛び上がった。


「……にゃ?」


 下を見る。王城の中庭が一気に小さくなる。え、これオレ、空にいる。


「クロ!!」


 アレンの声が響いた。次の瞬間、ドンッ!! アレンが空へ跳ぶ。翼が広がる。ダリオも飛び上がる。


「猫ぉぉぉ!!何やってんだお前!!」


 オレは竜の足にしがみつきながら思った。


 ……やばい。


 めちゃくちゃ高い。


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