22話
本日21:00ごろに新作
『裏側から観るダンジョン配信は最高に面白い!』
を投稿予定です。
そちらもよければ是非。
王都の北東、ゆるやかな丘陵を越えた先に、その遺跡はあった。
大規模ではない。崩れた石柱が半ば地面に埋まり、円形の基壇は雑草に覆われている。近づかなければ、ただの苔むした岩にしか見えない。
「とんでもなく地味だな」
ダリオが肩をすくめる。
「王都の近くとは思えねぇ」
「だからこそ、これまで見つからなかったんだろう。規模は小さいが、価値が無いとは限らない」
アレンは基壇の縁にしゃがみ込み、風化した紋様を指でなぞった。
オレはその間に、石柱のてっぺんへ軽く跳び乗る。
ざらりとした感触。苔の匂い。土の下に眠る冷たい石の匂い。
尻尾を揺らしながら、ぐるりと見渡す。
……遺跡!なんかカッケーな
石柱から石柱へと軽やかに飛び移り、基壇中央へ。半ば埋もれた石板の縁を前足でちょいちょい叩く。乾いた音が返る。
「今日は軽く見るだけだ」
アレンが続けて言う。
「構造確認、危険の有無、以上」
「昼前には戻るか?アレンがそう言う時は“軽く”で済んだ試しがないけどな」
ダリオが笑う。アレンが苦笑いしつつ答える。
「そのつもりだ」
オレは石板の隙間に鼻を突っ込んでみた。すると、フシュンッ。すぐにくしゃみが出た。ほこりだらけだ。
「入口はこっちだ」
アレンが草を払うと、地下へ続く石段が現れた。
冷たい空気がふわりと吹き上がる。
……面白そうだ。
オレの瞳が輝くのが分かる。オレは真っ先に飛び込もうとして、首根っこを掴まれた。
「先走るな」
「にゃ」
解放されると同時に、すばやく階段を駆け下りる。石段はひんやりしている。
壁には幾何学的な紋様が刻まれていた。円と三角、線が複雑に絡み合っている。所々に小さな魔石が埋め込まれているが、多くは沈黙している。
一つだけ、かすかに光を放つものを見つける。
ぴょん、と跳びつく。
「落ちるぞ」
アレンにまた襟を掴まれる。
くそう。
「これが、まだ生きてるのか」
アレンはオレが飛びつこうとしていた魔石に触れ、呟く。
ダリオが魔石を覗き込む。
「千年物だろ?」
「封印構造が優秀だ。外界への流出を抑えているのだろう」
アレンの声は淡々としているが、目は少しだけ楽しそうだ。
通路の途中、小さな部屋がいくつかあった。
一つ目は空。
オレは部屋の隅で転がっている小さな金属片を見つけ、前足で転がす。ころころと転がる。追いかける。壁に当たって止まる。もう一度。
「おい、それ貴重品だったらどうすんだ」
ダリオが笑う。
「腐食が進んでいる。おそらく問題ない」
アレンの声にも笑いが混じっている。
二つ目の部屋には崩れた棚があった。粉になった何かが床に広がっている。
オレは慎重に足を置き、くん、と匂いを嗅ぐ。
紙だ。昔の紙。
くしゃみが出る。二回。
「書庫だな」
アレンがしゃがむ。
「紙は朽ちたが、金属枠は残っている」
「盗掘の跡はねぇな」
ダリオが壁を叩く。
「ほんとに誰も気づいてなかったのかよ」
オレは棚の上に跳び乗る。
高い場所。視界が広がる。
……光の流れは均等だ。穏やかに動いている。
三つ目の小部屋で、オレは壁の窪みに気づいた。中に溝が刻まれている。
前足を突っ込んでみる。
「ダメだ」
アレンがすぐ引き抜いた。
「罠ではないな」
アレンがオレの前足を手に取って、ホッとしたように言う。
(ごめん)
「魔石の着脱機構か」
「予備炉心か?」
「その可能性が高い」
ダリオが腕を組む。
「やっぱ管理施設か。なら防衛機構もあるかもなー」
防衛。
オレの耳がぴくりと動く。
通路の奥へ進むと、空気が変わった。
冷たいが、澄んでいる。先程までよりほこりが少ない。
オレは床に腹ばいになり、溝をじっと見る。細い線が台座のある奥へと続いている。ほんのわずかだが、流れている。
「封じが効いている」
アレンが言う。
「内部機構の保存目的だなー」
最後の石扉は半ば開いていた。
重い音を立てて押し開く。
円形の部屋。
中央に台座。
床には放射状の溝。
そして――
そこに、立っていた。
石と金属で構成された人型。二メートルほど。肩幅は広く、腕は太い。関節は球状で滑らかに嵌合している。
胸部の円形の窪み。その奥に、大きな魔石。
淡い蒼光。
全身を細い光が巡っている。
オレは無意識に尻尾を膨らませた。
「ひゅー!めっずらしいな」
ダリオが口笛を吹く。
「まだ作動するゴーレムがあるとは」
アレンの声がわずかに低くなる。
そんなにすごいのか?
じっと観察してみる。……さっき怒られたから、近づきはしないぞ。
胸の魔石から流れる光。美しい流れだ。
次の瞬間、ゴーレムの目の部分に、蒼い光が灯った。
ギ、と石が擦れる音。
オレは反射的に後ろへ跳ぶ。
胸の魔石が強く脈打つ。床の溝が一斉に光る。
光が脚へ、腕へ、頭部へ。
目覚める。
「……起きるぞ」
ダリオが低く言う。
ゴーレムがゆっくりと一歩踏み出す。
床が軋む。
侵入者、と判断する冷たい気配。
「できれば傷をつけずに確保したいな」
アレンの目は鋭い。
「古代魔術文明の研究してる奴らが喜びそうだ」
ダリオが笑う。
「クロ、下がってろ」
(言われなくても!)
オレは壁際へ走り、柱の上に飛び乗る。
アレンたちの邪魔にならない高い場所。
ゴーレムの両腕が持ち上がり、関節が滑らかに回転する。
胸の魔石から、両腕へ光が集中する。
空気が震える。
……マナが集まっている。
ゴーレムが踏み込み、
巨大な拳を振りかぶった。
唸りを上げる石の塊。
次の瞬間――




