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ある冬の日に見つけたこの気持ちを、私はいつまでも抱きしめていたい。

作者: nanaco
掲載日:2026/02/06

 冬なんか、大嫌いだ。

 外は寒くて憂鬱だし、手はかじかんですごく痛いし、気を抜けばすぐに風邪をひいてしまう。

 そう、私は冬が大嫌いだ。

 どんなことがあったって絶対に、この気持ちが変わることはない。


 「おはよ。ふゆ」

 「……おはよ」

 寒さでじんじんと痛む手に息を吹きかねながら登校すると、同じクラスの早川なつきに声をかけられた。白い息を吐きながら歩く彼は、制服のブレザー以外に防寒具を一切身に着けていない。

 「……よくそんな恰好で歩けるよね。」

 「え?なんかダサい?」

 「……寒そう」

 「なんだよびっくりさせんなよな。全然寒くないよ」

 「……ふーん」

 「ふゆこそそんな恰好で動きにくくないのかよ」

 なつきに見つめ返される私は、制服の上からダッフルコートを着てマフラーを巻き、手袋をはめている。

 「……」

 私は寒い中で口を開くのが嫌になって、黙って夏樹の足をかかとで蹴った。

 「痛っ。何すんだよ」

 「……別に」

 そこで教室の扉の前につき、会話とも呼べないようなやり取りが終了した。


 「何々?幼馴染で仲良く登校?ふゆ、いい感じじゃーん」

 挨拶もすっ飛ばして茶々を入れてくるのは親友の高橋さやだ。今日も高く結んだポニーテールが機嫌よく揺れている。

 「もう。別にそんなんじゃないから」

 冗談っぽく頬を膨らませ、きっぱり否定する。

 そう、夏樹とはそんな仲じゃない。

 好きとか嫌いとかじゃなくて、仲がいいとか悪いとかでもなくて、向こうが勝手に話しかけてくる。それだけだ。

 好きなんかじゃ、ない。


 三時間目の体育の授業。男女合同でサッカーをすることになっている。

 私の学校では、体育の授業では必ず学校指定の体操着かジャージを着ないといけない。ジャージは長袖に長ズボンだが、やはり外に出ると寒い。

 「ふゆー。寒いよお」

 さやが鼻を赤くして抱き着いてきた。

 「よしよし。私も寒いよお」

 さやの頭をなでて慰めるふりをしてから、さらに強く抱き着き返した。

 「あーあ。女子ってなんであんなにくっつきたがるんだろ」

 ふと後ろから声が聞こえて、腕の力が緩んだ。

 なつきの声だった。

 変だと思われたかな。引かれたかな。嫌われたかな。

 頭の中で勝手にそんな言葉がぐるぐると回って、思わず頭を左右に振る。

 別に嫌われてもいいじゃない。好きでも何でもないんだから。なんでそんな風に思ったんだろう。

 そしてもう一度、さやを抱きしめた。


 ピーッというホイッスルの音が鳴り、試合が始まった。ボールが人から人へ渡り、コートの中を移動して行く。

 「ふゆー。パスしてー」

 少し離れたところからさやが呼んでいる。

 「オッケー」

 そう言ってからさやに向かって強くボールを蹴る。さやがボールを行けとめると同時に、蹴った反動で体がぐらついた。

 「わあっ」

 バランスを保つことができず、私はその場に尻もちをついてしまった。

 「おい、大丈夫か?」

 気づいたなつきが駆け寄ってきて、見下ろしている。

 「立てるか?」

 「……うん」

 そういって立ち上がろうとしたが、足がふにゃふにゃして力が入らない。

 なつきが差し伸べた手につかまってやっとの思いで立ち上がると、頭がぐらんと揺れてなつきに寄りかかるようにして倒れてしまった。

 「え?どうしだよ」

 「……風邪、ぶり返したかも」

 ぼんやりとする頭でやっとそんな言葉を口にすると、体が一気に軽くなった。

「ちょっと待ってろよ」

眼を開けたところにはなつきの顔がある。

御姫様抱っこされていることに気が付くまでに、そこまで時間はかからなかった。

「……自分で、歩けるから。おろしてよ」

そうつぶやくように言っても、なつきは返事をしなかった。どんな顔をしているのかもよく見えない。

私の意識は、そこで途切れていた。


 そのあとなつきと会ったのは、それから二日が経ったときのことだった。

 結局あの後私は早退し、一日学校を欠席したことで土日に入ってしまい、結果的に三日も学校を休むことになってしまった。

 土曜日の午後、熱が下がったので近所のコンビニにノートを買いに行った。

 いつもならまっすぐ帰るのだが、風邪をひいて家から出ていなかったのでなんとなく散歩したくなった。

 少し回り道をして近所の神社に寄った。

 お参りをしようと賽銭箱の前に立った時、後ろから話しかけられた。

 「ふゆ。」

 振り返ると、そこにはなつきがいた。

 「風邪、治ったのかよ」

 「うん。さっきはかったらもう下がってた」

 「そっか。」

 「ねえ、一緒にお参りしない?」

 そう言って、五円玉を二枚取り出した。

 二人でお賽銭を投げ入れ、手を合わせる。


 ―神様、私の今の気持ちを、教えてください。


 顔を上げると、なつきはまだ目を閉じていた。

 しばらくして顔をあげたなつきに聴いた。

 「何をそんなに真剣に願っていたの?」

 「……言わない。」

 そう言って目を伏せるなつきの顔は、いつもよりも少しだけ大人びていた。

 「帰ろっか」

 「うん」

 そう言ってなつきは、私の手を握った。

 「え?」

 驚いて目を丸くした私に、なつきは下を向いて言った。

 「……ほら、また風邪、引くから」

 「ありがと」


 やっぱり、冬なんか大嫌いだ。こんなにも心が忙しい。


 ―神様、私は今、恋をしています。

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