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九章

九章

 外には、恵の雨が降り、屋敷内は心地よい雨音が鳴り響いていた。だが、一人だけ退屈、そして憂鬱そうに窓の外を覗いていた者がいた。それは、エリスだ。美しい花々と触れ合うことが楽しみとなっていた少女は、どこか寂しげな眼差しを花々に向けていた。

 それを見てどこかもどかしげに、レオンは尋ねた。「エリス、退屈か?」

 すると、不満げに頬を膨らませているエリスはすぐに首を縦に振った。「そうか、なら、俺について来てくれないだろうか?」と歩き出し、少女は重たげな腰を上げてかれの後を追った。居間から階段を上がり左手を曲がった先には、すっかりイアンのお気に入りの場となった書斎室だ。レオンは、エリスを中に招き入れると、圧倒するべき本の数に少女は驚きを隠せずにいた。

「イアンは、天候は問わず、決まってここにいるのだな」とレオン。

「退屈しないからね――ところで、エリスをここに連れてくるだなんて一体どう言う吹き回し?」

「このような日なると、決まって退屈そうに窓の外の眺めていたからここに案内したのだよ。どこかのお貴族のような話し方をするお坊ちゃまのように退屈させないようにと思ってのことだ」

「なるほどね――それで、エリスはどんな本を読むの?」とイアン。

 「わたしは……」と、言いまるで何かを恥じるように二人から顔を背けた。その眼には、強い劣等感と深い悲しみを物語るように暗く光が失われていた。少年は、心配そうに声を掛けようとするが、かれは止めた。エリスについては、自分に任せて欲しいと言い、レオンは少女書斎室の隅まで誘導した。そして、そっとエリスの華奢な肩に両手を置き、穏やかな声で囁いた。

「エリス、ここでは何も恥じることは何もない。一体、君が何を苦しめているのか教えてほしい。皆で君の悩みを解決出るかもしれないのだからどうか話して欲しい」

 レオンの言葉にエリスは涙を流し、静かに言った。「わたし、自分の名前を除いて、文字の読み書きが出来ないの。お父様に人形には必要がないと禁じられてたの」

「では、何故、己の名の読み書きは出来るのだ?」憂を帯びた面持ちでかれは言う。

「ポリーがこっそりわたしに教えてくれたの。だけど、それがお父様にバレた時には、酷い罰を受けていたから……お姉さんが二人いるのだけど、わたしとは違って扱いが違うの。わたしは人形で人間ではないのかな? と思うと、胸が苦しいの」

 胸の内を秘めたモノを吐き出したエリスの眼には大粒の涙が流れていた。レオンは、胸ポケットのハンカチーフを取り出して、涙を優しく拭い、「エリス、君は父のもとにいない限りは、自由であり、立派な人間だ――それに、文字の読み書きが出来ないのはエリス、君だけではない。実は、あのアンも自分の名前すら書けない程だった。ポリーに再開できた時には感謝するんだ。それと、文字の読み書きに関してだが、俺とイアンが訓えるからどうか安心して欲しい。だから、泣かないでくれないだろうか?」

 少女は、頷き涙を止め、どこか嬉しそうに微笑んだ。かれは、その笑みのどこか愛おしさを覚えた。

「旦那さま、いらっしゃいませんか?」アンの声が大きく響き渡る。来客の知らせだ。レオンは、大きくため息をつきながら、声高に尋ねると「誰だ?」メイドは、「()()なるオールドカッスル様です」と、答えた。

 すると、かれはため息混じりに「客間に案内しておいてくれ!」と言った。

 「承知いたしました。なるべく、早めにお越しくださいね」と、アンは言って、扉を閉めた。

「イアン! 仕事を与えても良いか?」

「構わないけど、いつも突然だね。一体、どうしたの?」

「エリスの件だが、自分の名前の読み書き以外できないとの事だ。出来れば、かのじょにアルファベットから教えてやってくれ!」

 イアンは、読んでいた本を落とし、困惑する間を与えられる事なく、レオンは「エリス、出てきていいぞ! では、よろしく頼む!」と言って、無慈悲にも少年を残し、カッスルの元へ向かう。深呼吸をして、階段を降りて客間へ向かうと、紅茶を嗜む憎たらしい探偵の姿があった。向かい側の席に座り、巻煙草を吸い始める。

「久しいな、それで調査の結果はどんな感じなのだ?」

「あなたが想像する以上に情報は豊富ですよ。まずは、何から知りたいですか?」ティーカップを静かに置き、喋る準備をする。

「そうだな――まずは、イアンに着いて頼む」

 カッスルは早速『イアン・グレイとその父について』喋り始めた。

 「グレイですが、父の名前はラファエル・グレイです。年齢の割には、随分と痩せ萎びた男でしたね。そして、グレイはあなたが推測した通り、上流階級の子供です。手紙をお渡ししたところ消息を確認できてとても安堵しておりました。いずれ、迎えに来るかと思いますが、少し引っ掛かるところがありました」

「何が引っ掛かるのだ?」

「古き友が許してくれるのなら迎えに行こうとおっしゃたのです。そこで、ジョージ・ハワードとラファエル・グレイに何か心当たりはありませんか?」

「全くない」

「そうですか――あなたのお父上は既にお亡くなりなったとおっしゃってましたね。そうですね――仮に、二人が友人関係であり、友愛に亀裂が入ったとしましょう。人間とは当時の心境を手記などに書き留める習性があります。調査の一環として、是非、探して下さると助かります。そうしなければ、ラファエル卿は、グレイを迎えに来ることは二度とないでしょう」

「分かった。後ほど、探してみるとしよう」

カッスルは、巻煙草に火を付け、恍惚に満ちた表情で言う。「お次に、ラファエル卿にはウリエル・グレイと言う異常に美に執着した艶やかな髪の弟がおり、エリス嬢を『我が作品の()()として最高傑作なのだ!』と仰っておりました。実に、実に狂気に満ちておりましたよ。確かに、エリス嬢はお美しいです。陶器のような白い肌、色のない髪と菫色の瞳をもつそのお姿は神秘的そのものです。私の推測ですが、ウリエルは彼女を人間ではなく奇跡の人形としてこの世に残したいのでしょう! ハワード、一つだけお尋ねしますが、そんなかのじょをお渡しす――」

「そんな異常者にエリスを渡すわけがないだろう!」レオンは拳を強く握りながら、叫ぶように言った。

探偵は不敵な笑みを浮かべる。「おや、エリス嬢に情が湧いてしまったのですか?」

「黙れ! とにかく、報告を続けろ!」

「承知しました。とにかく、ウリエルは非常に苛立っておりました。相手は、ブルジョワなのでどんな手段を使ってまででもエリス嬢を見つけ出すでしょう」

「忠告を感謝するよ」と、かれは鼻を鳴らしながら言った。

「ウリエルですが、芸術家としての一面を持ち合わせているようですので、ヘンリーに協力を得て、なんとか接近させてみます。芸術家とは美の追求者でもありますからね。余談ですが、なによりイアン・グレイを白い髪を持たぬ呪われた忌み子と邪険に扱っていましたし、孤児院育ちで嫡男として相応しくないともおっしゃっていた、恐らく、家系図内では存在していないことになっているそうです。余程、色のない髪と美に執着するとはまるで青い血に拘るハプスブルク家のようですね」

レオンは、深い、深いため息をつき、額に手を着いた。自身が想像していた以上の事態に巻き込まれてしまったからだ。ラファエル・グレイは亡き父の古き友だったのか? 否? もし、友人でなければ一体、どうすればよいのだろうか? 自ら彼の元へ出向き、イアンを引き渡すべきなのだろうか? 話を聞いた上でのラファエル・グレイは良き父であるが、本当にそうなのだろうかと懐疑心に苛まれる。ただ、問題はエリスの父だ。かのじょだけは、何としてでもウリエルに引き渡してはならぬ。ようやく得た穏やかな時間だ安全なこの場でどうか過ごして欲しい。初めは口数の少ない面倒なだけの少女だと思っていたが、マティルダの言う通り、父親から人権を完全に放棄された虐待を受けて育てられてしまった以上、今からもこれからも人間らしく生きて欲しい! 俺は一体、どうするべきなのだろうか。例えば、イアンの父ラファエル卿が本当に良き父だとしよう――エリスを見た時、異常者ウリエル・グレイに密告するのか? いや、そんなことをすれば誰よりも愛する我が子であるイアンに失意の眼差しを向けられ親子の愛に修復不可な大きな亀裂が入るに違いない。ならば、ラファエル卿が父と古い友だったことに賭けてみるとしよう。マティルダがこの場にいたとしたなら、同じことを考えていたのだから――「カッスル、俺は手記を探すからウリエルの素性を調べてくれないか?」

「構いませんよ。あれほどまでに狂気じみた人間を調査の対象に入れること出来、大変光栄です。調査のしがいがありそうです」

「そうか。では、手記が見つかったら手紙を送るとしよう。それでいいな?」

「ええ、それで構いませんよ。最後に、既にお気づきかもしれませんが、エリス嬢とグレイですが、血縁関係上従兄弟に当たります。実に、愉快ですね」

「親兄弟が二人して、我が子を同じ時期に見失うとは愚鈍な一面もあるのだな。二人が同じ場所で保護されたと知った時の顔はこれまでにない見物になるだろう。が、後々が恐ろしくて考えたくないものだ」

カッスルは笑いながら言った。「そうでしょうか?私はぜひこの眼で見てみたいものですね」

「お前の場合は、他人事だから言えるのだよ。こちらの身にもなれ」

「ご遠慮しておきます――お紅茶ありがとうございました。それと、今回の調査内容を纏めたものです。ヘンリーに二人の顔を描かせたのでご興味があれば、ご参照下さい」と、鞄から資料を二枚渡した。

「ありがとう」と、かれは受け取った。

「では、私はここでお暇します」探偵は立ち上がって、玄関まで向かう。

 レオンは「引き継ぎ、調査を頼む」とカッスルを見送り、扉を閉じた。かれは、行儀悪いのを承知で床に座り込み、一息つこうと巻煙草を取り出す。

 すると、相変わらず冷ややかな眼差しを向けるベティと対照的に心配そうにしているコニーが主人の元へ歩み寄る。ベティが「屋敷が燃えると困るのでなるべく灰皿が置いてあるテーブルで吸ってください。それに、行儀も悪いです」と灰皿を渡すと「行儀が悪いのはお互い様だろ、ベティ。階段で本を読むならソファや椅子を使え」と言い返した。

「旦那さま、調査結果はいかがでしたか?」とベティが尋ねる。驚いた顔をしたレオンはこう言った。「いつものお得意の盗み聞きをしなかったのか?」

「人聞きの悪いこと言わないで下さい!」とコニーは頬を膨らませて、不満を漏らした。

 かれは笑いながら、言った。「冗談だよ、コニー。ひとまず、二人ともアンを呼んでくれないか? 俺の部屋で今回の調査内容を話すとしよう」と、巻煙草の火を消して、自室へ向かった。メイド二人は、足早にアンを呼びに行く。アンを見つけると事情を話し、三人でレオンの部屋まで向かった。

「よし、揃ったな。この資料を読みながら聞いて欲しい」とアンに渡して喋り始める「今回のカッスルの調査内容で分かったことだが、イアンの父の名は確かにラファエル・グレイで貴族だった。ついでに、弟もおり、名前はウリエル・グレイ。そして娘がおり、その娘がエリス・グレイだ。つまり、二人は血縁関係上従従兄弟に当たる。皮肉なものだよな、親兄弟の子供を俺たちが保護していたことになっていたとは思わなかったよ」

「そんなことなんてあるんですね。旦那さま、質問ですが、エリスさんのお父様に危険マークが着いているのは一体、どういうことでしょうか?」とコニー。

「己の娘を『我が作品の()()として最高傑作なのだ!』と豪語するほどの異常者だからだ。イアンはともかく、エリスはウリエルとの接近は何がなんでも避けなければならない」

「旦那さま、よろしいですか? ラファエル卿ですが、迎えに来られた際、密告する可能性はありませんか?」とベティ。

「その心配はない。資料にも書いてあるが、けして仲が言い訳ではないそうだ。それに、このことはイアンにも話そうとも考えている。愛する父が姉のような存在を売るようなことをしたら二度とラファエル卿を許さぬだろう」

「二人とも、旦那さまの言う通りだと思うの。むしろ、従兄弟に当たる子を実の父から人形扱いしている上に虐待されているのだからラファエル卿は心配が勝ると思うわ――ウリエルとは対照的に手紙を大切に大切にしまう人と資料に書いてあるもの」とアン。

「それほど、我が子を愛しく思っている証拠だ」

 コニーがどことなく嬉しそうに言った。「それでは、近々、イアンさんのお父様が迎えに来られるのですね」

「そのはずだが、どうやらシナリオ通りには行かないようなのだよ。資料にも書いてある通り、『古き友人の赦しが必要?」と書かれているだろう。仮説だが、古き友とは俺の父ジョージ・ハワードのことだと思う。以前、マティルダにラファエル・グレイに心当たりはないかと言われ、今回もカッスルにも言われた。きっと何かあるのだろう。奴から手記を探すように指示されたからには隈なく探す予定だ」

 アンが悲しそうに言った。「もしあの時の事故がなかったら……」

「アン、それ以上の事は言うな」

「しかし、エリスさんのお父様も狂気に満ちてますね。フランケンシュタイン博士か何かでしょうか?」と、顔を引き攣ったベティが尋ねる。

「フランケンシュタインは科学者だが、ウリエルは芸術家としての一面を持ち合わせていると聞いている。人形作家とは別に本業がある、あるいは、ないかだな。だが、二人ともやってることは冒涜行為に等しい――もうこの話は終わりにしよう胸糞悪い」とレオン。

「ひとまず、分かったことは、イアンとエリスが血縁関係上従兄弟であること、古き友の正体を探り、赦しがない限りラファエル卿は迎えに来ないかもしれない、ウリエル・グレイが異常者ってことで間違いないでしょうか?」アンがレオンに確認するように尋ねた。

 かれは、静かに頷くと深刻そうな顔をして再び喋り始める。「実は、それだけではないんだ。カッスルが来る前のことだが、エリスが退屈そうに窓の外を眺めていただろう? 俺は退屈しないようにと書斎室へ連れて行ったのだが、どうやらかのじょは自分の名前の読み書き以外出来ないと言っていたんだ。今は、イアンに任せて教えるように頼んでいるが、もちろん、俺も教えてやってあげるつもりでいる――君たちも教えてやってくれないか? 読書の素晴らしさや楽しさを教えてあげたいのだよ」

「分かりました。一仕事を終えたら、様子を見に行ってきます」続いてベティも「私も協力します!」

 アンは顔を顰めてこう言った「あなたたち、教えてたくなる気持ちはとても分かるけど、仕事はきちんとこなすのよ? それと、旦那さま。読み書きのご教授の件ですが、学のない私たちよりも学のあるイアンさんと旦那さまでやられた方がよろしいかと思います。誤ったことを教えてしまっては取り返しがつきませんから」厳しい意見にベティとコニーは落ち込んだ表情を見せる。

「アンがそこまで言うならそうしよう。ベティ、コニーすまなかった」

「旦那さまのように学がないのは癪に障りますが、別に構いませんよ。コニーさっさと仕事を終わらせに行きましょう!」と、子供のように拗ねたベティはコニーを連れて主人の部屋を出た。

「想像以上に拗ねているな、良いのか?」

「構いませんよ。私たちの仕事は文字を教えることは入っておりませんから……それより、旦那さま一五年以上前のことになりますが、旦那さまが寄宿学校の帰りの時に、まるで小枝のように痩せ細り、不潔でボロボロになった雑巾のような身寄りのいない私を拾って下さった日を覚えておりますか?」

「勿論だ。前の主人から無給で働かされた挙句、虐待を受けていたのだろう? あまりにも惨たらしい姿だったから、父と母の元へ連れ、メイドとして雇ってやってくれ!と、何度も頭を下げたのを覚えてる」

「あの時、私を拾ってくださったことを感謝しております。あの時、旦那さまが拾って下さらなければ、私はあのまま野垂れ死んでおりました」

「急に、どうしたのだ?」

「改めまして、エリスさんとイアンのさんことをここに置いて下さっていることを感謝しているのです」

「初めの頃は、心に余裕がなく、二人が鬱陶しく感じていたが、今は賑やかだと思えるよ」

「賑やかなのは、良いことですよ。旦那さま。カッスルさんを除いては、以前よりも笑顔を見せる回数が増えたように見えますよ」

 レオンは笑いながら言った。「それは嬉しいものだな」

「なので、私の時と同じようにエリスさんにも読み書きを教えてあげて下さいね。イアンさんだけにお任せするのは、私が許しませんからね?」

 かれはふた返事をして、アンに書斎室にいる二人の様子を見に行かないと誘うと、メイドは微笑を泛べて頷き、二人は部屋を出た。書斎室へ向かい、扉を静かに開けて、ゆっくりとイアンとエリスの元へ向かうと、机に膝をついて二人ともぐっすりと眠っていた。「どうやらイアンは教え疲れてしまったようだな」

「エリスさんも慣れない読み書きをしてお疲れになったのでしょう――こうして見ると二人とも雰囲気が似ておりますね。可愛らしく愛おしいです」

「確かにそうだな。従兄弟と聞かされた以上、ますます似ている。しかし、イアンも随分熱心に教えたのだな。見てくれよ、この大量の紙――アルファベットの書き方を何度もやらせたのだな――もしかしたら、スパルタか?」

 アンが笑いながら言う。「その可能性はありそうですね――噂にはなりますが、貴族の教育は厳しいと聞きますもの」

 「後日、どんな風に教授しているのかと成果を確認せねばな。さてと、ベッドで寝かしつけるか」

はじめに少年を抱き上げて、メイドに書斎室とマティルダに少年の部屋を開けるように指示をし、すやすやと眠るイアンをそっとベッドまで運び、布団を被せた。次に、少年と同じように少女を部屋まで運び同様に布団を被せて、優しい眼で寝顔を見守る。その眼の奥には愛しさの情が表れていた。

 アンは呟いた「旦那さまは、エリスさんに特別な感情をお待ちなのをお気づきではないのですね」

「アン、何か言ったか?」

「いえ、特に何も言っておりません。お疲れではないのでしょうか?」

「その可能性もあるな――おっと、こんな時間か! これから往診に行ってくるよ。後のことは、任せたぞ! アン」と、部屋を後にした。メイドはエリスを安らかな寝顔を眺めながら、考えた。主人は恋愛結婚を望み、諦めているが、エリスには特別な感情を抱いている。が、虚しくも当人に全く自覚がない。少女と主人が結ばれることを願っているが、果たしてそれは叶うのだろうか。禁句である『かのじょには俺よりも相応しい素敵な紳士がいるはずだ』と愚かなことを言わなければ良いが、ロンドンでアイデンティティを失った以上、禁句を軽々と口にするであろう。何か二人が結ばれるきっかけがあれば良いと微かな希望を抱きながら、アンはエリスの頭を優しく撫でた。


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