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超空間戦闘機のパイロットに転生した件

作者: 謎村ノン

 目を覚ました瞬間、タキジマ ユウは、自分がどこにいるのか理解できなかった。

 タキジマは、天井は高く、白い大理石の柱が並ぶ、まるでギリシア神殿のような荘厳な建物の中で、豪奢な椅子に座っていた。

 だが、もっと驚いたのは、自分の姿だった。

「……?」

 柱の一つにあった鏡に映ったのは、金髪碧眼の青年だった。

 しかも、周囲には甲冑を着た兵士たちが跪いている。彼らは口々に「殿下」「バーティー様」と呼び、敬意を示していた。

 これは夢か? それとも何かの冗談か?

 ぼんやりしていると、大臣らしき男が叫んだ。

「バーティー・ヴォン・ジャイムスン殿下! ヴィリシアンが、本星アエリミアに接近しております!」

 タキジマは、その言葉に混乱した。

 だが、次の瞬間、彼の脳裏に、唐突に、ある記憶がよみがえった。

 『アエリミアス』――傑作の2D横スクロールシューティングゲームだ!

「えーと、私は、バーディー、王子、なんだよな?」

「お戯れを! バーディー様。この三年、王代行として、このアエリミアを貴く治めておいでではありませんか。あなた様こそ、この事態に対する唯一の希望ですぞ!」

 大臣の言葉が、頭に反響した。

 どうも、自分は、『アエリミアス』の世界に、転生してしまったとしか思えない。

 しかも、大臣の言葉によれば、間違いなくシリーズ3の状況だった。シリーズ3は――標準設定でも難易度が高すぎて、大多数のユーザーに不評だった問題作だ。

「なんで、よりによって、3なんだよ……!」

「は?」

 タキジマは、頭を抱えた――中学時代、同級生が一コインクリアしたと自慢していたのが悔しくて、何度も挑戦して、その月のお小遣いを全て費やしてコンティニューした末、ようやく最終ステージまで到達したものの……ボスで討ち死にした苦い思い出があった。

 ……その思いが残っていたのか、二十年後にリバイバルシリーズのプログラマーとして関わったときには、最終ボスをすごく簡単に倒せるようゴリ押ししたのだが……。

「……殿下、ヴィビソルグの準備が整いました。マスドライバーへどうぞ!」

 兵士の一人が、跪いて告げた。タキジマは、その言葉が、まるで死刑宣告のように思えた。

「えーと、戦わないと、ダメ?」

「国民全て、殿下に期待しておりますぞ! 殿下こそ、私達の唯一の希望ですぞ! なにせ、ヴィビソルグを操縦できるのは、王族である殿下だけですからな! 爺は感激に打ち震えておりますじゃ……」

 涙を流して力説する大臣の言葉に、逃げる暇もなく、兵士を横に連れて立ち上がった。

 そして、タキジマは、バルコニーの外の国民の歓声に押され、超空間戦闘機ヴィビソルグに乗せられた。

「俺、シューティング苦手なんだってば……!」

 ヴィビソルグのコックピットは、まるで魔法と科学が融合したような、未来的でファンタジー的なデザインだった。

 浮遊する水晶のようなインターフェース、脈動する魔力のライン、そして中央には『モレールパワー』のゲージが輝いていた。

 この魔導インターフェースは、彼がかつてプログラムしたリバイバル版のUIにとてもよく似ていた。

『マスター・ジャイムスンを確認。起動します』

 サポートAI、名前はゼクシェン、が告げた。

「これは……ゲームの設定そのままじゃないか……」

 だが、今はゲームではない。現実だ。いや、現実のような何かだ。

 タキジマは、震える指で、操縦桿を握った。彼は、王太子であるため、莫大な魔力を持ち、唯一、ヴィビソルグを操る資格があるという設定だった。ノブレス・オブリージュ――高貴なる者の義務。それが、この世界の理だった。このヴィビソルグ自体は、古代超魔法文明の遺産なので、この時代の技術では再現できなかった(という設定)なので、仕方ないともいえるのだが……。

「発進まで、あと十秒!」

 カウントダウンが響く中、タキジマは、ヴィビソルグのコックピットで震えていた。

 操縦桿を握りしめた。手のひらは汗でびっしょりだ。浮遊モニターに、周囲の兵士たちが敬礼し、王子の出撃を讃えているのが見える。

 タキジマは、彼らの期待に応えるどころか、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

(やめてくれ! 俺はただのゲームプログラマーだ!)

 タキジマは心の中で叫んだ。

 だが、逃げる暇はなかった。無情にも、マスドライバーが起動し、ヴィビソルグは光の柱に包まれて空へと打ち上げられた。

「うわああああああ!」

 ブースターを切り離し、宇宙空間に出た瞬間、彼の視界は一変した。

「星だ……」

 眼下に青いアエリミアが見えた。しかし、サポートAIが、無慈悲に告げた。

『軌道上ですが、緊急跳躍します。跳躍座標確定』

「ちょっと待て! まだ心の準備が……!」

『敵前線基地、古代遺跡星系(ジエプラー・システム)へ転移』

 星々が流れ、空間が歪み、ヴィビソルグは、空間跳躍(ワープ)を開始した。

「うぎゃーーー!」

 叫び声とともに、彼の視界は一変する。

 だが、ヴィビソルグは彼の叫びを無視して空間を裂き、次元の狭間へと突入した。

 次の瞬間、彼は、敵前線基地が確認された古代遺跡のある星系へと到達していた。


***


 ヴィビソルグが空間を裂いて到着した星系には、軌道内に大小の小惑星があり、古代のプラットフォーム群の残骸、遺跡、巨大な石柱や崩れた神殿が点在している。

 まるで、かつて栄華を誇った文明の残骸が、戦場として再利用されているかのようだった。そして、山肌には兵器群が埋もれていた。

 タキジマは息を呑んだ。ゲームで何度も見たステージだ。だが、今は画面越しではない。自分がその空間にいるのだ。

『敵機接近。戦闘モードへ移行』

「……マジかよ。ほんとに始まっちゃったのか……」

 タキジマは、震える手でヴィビソルグを操作し始めた。

 ヴィビソルグのインターフェースが警告を発する。

 遺跡の影から、二足歩行の自走砲が姿を現した。金属の脚が地面を踏みしめ、砲塔がこちらを向く。

「うわっ、来た!」

 タキジマは操縦桿を引き、ヴィビソルグを急旋回させる。

 砲撃が空間を裂き、爆風が遺跡の壁を吹き飛ばす。続いて、山肌に埋もれたレーザー砲が起動し、青白い光線が一直線に走った。

「避けろ、避けろ……!」

 タキジマは、震えながら必死に操縦する。だが、敵の攻撃は容赦ない。彫像の目から放たれるリングプラズマ砲が、空間に波紋のような弾幕を広げる。

 無数のドローンが飛び交い、小惑星の地上からは自走砲の隊列が姿を現した。

「うわ、どうするんだよ……!」

 ――敵の弾幕が空間を埋め尽くす。無数のドローンが、群れを成して襲いかかってきた。この攻撃は、ただのエフェクトではなく、命を奪う現実の脅威だった。

「こんなの、無理ゲーだろ……!」

 レーザー、プラズマ、ミサイル――まさに『アエリミアス3』の辛口のステージ1そのものだった。

「悪夢だ。避けろ、避けろ、避けろぉぉぉ!」

 必死に操縦するが、彼の腕前は、並以下だ。

 何度も被弾しそうになりながら、ギリギリで回避を続けた。

 しかし、ヴィビソルグはただの戦闘機ではない。その時、ヴィビソルグのシステムが反応した。

『レシーダー、起動可能』

「レシーダー……あれか!」

 モレールパワーが少しずつ蓄積されていくことで、ヴィビソルグは進化を始めたのだ。

 レシーダー――過去の自機を同一時空間上に固定する、次元位相ずらしの無敵ユニットだ。いわば、実体を持つ幻影というか、ゲームではこれがないと攻略できないと言われた程の反則級の強さを誇った補助武器(サブ・ウェポン)だった。

 早速、タキジマは、レシーダーを展開した。時空間の位相がずれた過去の自機が、彼の周囲に浮かび上がる。レシーダーは、無敵の存在として、同じ攻撃を別座標に再現して敵を撃破していく。

「よし……これなら、いけるかもしれない……!」

 レシーダーの支援を受けながら、タキジマは敵の猛攻を凌いだ。

 ドローンをなぎ払いつつ、自走砲をアンチマター・フュージョンボムで破壊し、レーザー砲を狙ってモレール砲を撃ち込む。

 だが、安心する暇はなかった。爆発が連鎖し、遺跡の一部が崩れ落ちる。その奥から、巨大な敵影が現れた。

「ボスか……!」

 それは、メカメカしい装甲のある石像のような外見をした、巨大兵器だった。

 ゲームの設定では、『中間コントローラー』と呼ばれる敵キャラと、確かに同じ姿をしている。

 腕部には多連装のプラズマ砲、背中にはミサイルポッドがある。足元には、無数の小型兵器が展開されていた。

 腕部が飛び出し、それぞれがプラズマ砲を撃ってくる。その弾幕は、まるで絨毯のように空間を埋め尽くした。

「弾幕が……濃すぎる!」

 タキジマは、必死で弾を避けた。

 ゲームでは、第一ステージだというのに、むちゃくちゃな攻撃で、何度もコインを入れて挑戦した記憶が蘇えった。そういえば……。

「安全地帯を探して移動してくれ!」

『了解』

 ゲームと同じなら、腕の関節可動域の関係で、弾が来にくい場所があるはずだった。

 3Dの宇宙空間なので、本当にそんな座標があるのか分からなかったが、サポートAIは、レーダー上に、その位置を赤く点滅させて示してくれた。

「ここだ……!」

 タキジマは、ヴィビソルグをその座標に、必死で移動させた。

 敵の弾がかすめたが、直撃は避けられた。その隙に、モレール砲をチャージし、敵のコアと呼ばれる弱点箇所を狙う。

「撃てぇぇぇ!」

 砲撃が命中し、敵の装甲が砕けた。敵のコアを撃ち抜いた!

 中間コントローラーは爆発し、遺跡が崩れ始めた。

『敵通信傍受。次なる拠点座標を取得。跳躍開始します』

「……まだ続くのかよ」

 ヴィビソルグは再び空間を裂き、次なる戦場へと空間跳躍(ワープ)した。

 タキジマの戦いは、まだ始まったばかりなのだった。


***


 空間跳躍の最中、タキジマは、息を整えながら考えていた。

(俺、今のところ……死んでない)

 それは奇跡だった。ゲームでは、ステージ1で何度もミスしていた。だが、現実の恐怖が、彼の集中力を極限まで高めていたのかもしれない。

(これって、『アエリミアス』シリーズ3のシナリオ通りに進んでる……?)

 そう思った瞬間、背筋が寒くなった。『アエリミアス』シリーズ3のアーケード版は、本当に難しすぎて不評だったのだ。敵の配置、弾幕の密度、ボスの耐久力――すべてがプレイヤーを苦しめるように設計されていた。

(次は……バイオウェポン工場か?)

 もし、シナリオ通りなら、次は、最も気持ち悪く、最も難易度が高い――悪夢のような敵が待ち構えているステージだった。

「……やるしかないか」

 タキジマは操縦桿を握り直した。


***


 ヴィビソルグが空間を裂いて到達した次なる戦場は、異様な惑星だった。

 地表は脈動するようにうごめき、まるで生体組織のような気色悪い質感が広がっている。空気は重く、湿った粘膜のような匂いが漂っているかのようだった。

「うわ……ここ、ほんとにあのステージか……」

 タキジマは、思わず顔をしかめた。『アエリミアス』シリーズ3の中でも、最も不快感を覚えるステージ、バイオウェポンの生産工場だった。

 背景は肉の壁、敵は生物的な異形ばかり。プレイヤーの精神を削る構成だった。

『敵機接近。警戒レベル:高』

 ヴィビソルグのセンサーが警告を発する。粘膜のような壁から、エイリアンのような生物が這い出してくる。触手を振り回し、骨のようなミサイルを発射する。

「うわっ、現実でみると、凄く気持ち悪っ!」

 タキジマは操縦桿を引き、ヴィビソルグを急旋回させる。ミサイルが空間を裂き、爆風が生体壁を焼き焦がす。

 続いて、ムカデのような結節装甲兵器が地面を這い回り、プラズマで攻撃してきた。

 アメーバ状のエネルギー吸収兵器も、空中を漂っている。

「避けろ、避けろ……!」

 必死に操縦するタキジマ。だが、敵の攻撃は容赦ない。触手が空間を縫うように伸び、ヴィビソルグの機体を狙う。

 巨大なホヤのような姿をした奇怪な基地から、ゴカイのような節足ウェポンが出入りを繰り返し、ミサイルを撃ってくる。

 節足ウェポンの脚の間をくぐり抜けながら、彼はモレール砲を連射する。

『モレールパワー蓄積。新武装:超光速空間衝撃ウェーブ砲、使用可能』

「よし……!」

 タキジマは新たな兵器(ウェポン)をチャージする。ヴィビソルグの機体が光を帯び、空間が震える。敵の群れが迫る中、彼はタイミングを見計らって叫んだ。

「撃てぇぇぇ!」

 超光速空間衝撃ウェーブ砲が放たれ、空間そのものが波打つ。衝撃波が敵を貫き、ムカデ兵器の装甲を粉砕し、アメーバ兵器を蒸発させる。

「やった……!」

 だが、安心する暇はなかった。工場の奥から、巨大な影が現れた。多数の触手をもつ蜘蛛のような形状の中間コントローラーだ。脚は鋭利な刃のようで、腹部には無数の眼球が蠢いている。

「ボスか……!」

 その姿に、タキジマは背筋が凍る思いだった。ゲームでも苦戦したボス敵だった。攻撃パターンが複雑で、弾幕の密度が異常だった。

「来るぞ……!」

 蜘蛛型ボスが咆哮を上げ、空間に無数の弾をばら撒く。触手ミサイル、プラズマリング、毒液弾――あらゆる攻撃が同時に襲いかかる。

「避けろ、避けろ……!」

 タキジマは、レシーダーを展開し、過去の自機と連携して攻撃を分散させる。だが、ボスの動きは予測不能だった。脚を跳ね上げ、空間を裂くような突進を繰り返す。

「くっ……!」

 何度も被弾しかけながら、タキジマはウェーブ砲を再チャージする。モレールパワーが限界まで蓄積され、機体が光に包まれる。

「今だ……!」

 超光速空間衝撃ウェーブ砲を放ち、蜘蛛型ボスの腹部に直撃させた。

 眼球が爆発し、脚が崩れ落ちる。断末魔の叫びとともに、ボスは地面に沈んだ。

「……終わった……のか?」

 タキジマは息を吐いた。

『敵拠点制圧完了。次なる拠点座標を取得:三重炎星団』

「あれかー。やっぱりシナリオ通り、なんだな……」

 次なる戦場は、炎とイオン流が渦巻く星団だ。そこには、更に異質な敵が待ち構えているはずだ。

「……やるしかないか」

 彼は、操縦桿を握り直した。ヴィビソルグは再び空間を裂き、次なる戦場へと向かって行った。


***


 ヴィビソルグが空間を裂いて到達したのは、三重炎星団――三つの恒星が互いに引き合い、燃え盛るイオン流が渦巻く危険地帯だった。

 空間は常に揺らぎ、視界は赤、橙、紫の光で満たされている。まるで宇宙そのものが怒り狂っているような場所だった。

「うわ……ここ、背景だけで目が痛い……」

 タキジマは、思わず目を細めた。ゲームでもこのステージは視覚的に過酷だった。敵の弾幕と背景の色が混ざり、判別が困難になる。

 だが、今はゲームではない。ミスすれば命を落とす。

「スクリーン調整して!」

『了解しました』

 サポートAIの言葉ともに、目の前の3Dスクリーンが見やすくなった。まるで、データ領域をコードで調整したみたいだな、と思った。

 その意味について何か考えが浮かびかけた、その時、ヴィビソルグのセンサーが警告を発した。

『敵反応多数。プラズマ生命兵器、接近中』

 炎星団のイオン流の中から、光の塊のような存在が現れた。それは、プラズマ生命兵器――物理的な実体を持たず、エネルギーそのものが意思を持って襲いかかってくる兵器だった。

「現実的には、実体がないって、どうやって倒すんだよ……!」

 タキジマは、操縦桿を握り直す。

 プラズマ生命兵器は、空間を滑るように移動しながら、電撃のような攻撃を放ってくる。ヴィビソルグのシールドが軋み、警告音が鳴り響く。

「くそっ、レシーダー展開!」

 過去の自機を空間に固定し、攻撃を分散させる。だが、プラズマ生命体は、空間位相を読み取り、レシーダーの座標を避けて攻撃してくる。

「こいつ、賢い……!」

 タキジマはモレール砲をチャージし、プラズマの中心核を狙う。だが、核は常に移動しており、狙いが定まらなかった。

『新武装:位相プラズマ砲、使用可能』

「よし……!」

 ヴィビソルグの機体が光を帯び、空間の位相を解析する。タキジマはタイミングを見計らい、核の座標に合わせて砲撃を放つ。

「撃てぇぇぇ!」

 位相プラズマ砲が命中し、プラズマ生命体が爆発的に拡散する。光の粒が星団のイオン流に吸い込まれ、消えていった。

「ふぅ……」

 だが、戦いは終わらない。ヴィビソルグは次なる座標へと空間跳躍を開始した。


***


 次に到達したのは、砂と氷が交錯する惑星だった。

 地表は砂嵐に覆われ、ところどころに氷の柱が突き出している。温度差によるガス濃度の歪みが、更に視界を不安定にしていた。

「ここもか……」

 タキジマは警戒を強める。すると、地面が揺れ、巨大な影が姿を現した。それは、龍のような形状をした超バイオウェポンだった。

 鱗のような装甲、尾の先には鋭利な骨の槍、口からは冷気と炎が交互に吐き出されている。

「ドラゴン型かよ……!」

 龍型バイオウェポンは空を舞い、ヴィビソルグに襲いかかる。炎の弾幕、氷のビーム、尾による突進――攻撃は多彩で、隙がない。

「避けろ、避けろ……!」

 タキジマは、レシーダーを展開し、攻撃を分散させながら、龍の動きを観察する。すると、炎と氷の攻撃は、一定のリズムで交互に繰り出されているのに気づいた。

「パターンがある……!」

 これも、昔、ヘタなりに頑張って攻略したボス敵と同じだと思った。

 攻撃リズムの隙を突いて、モレール砲をチャージする。龍の胸部にあるコアが、一瞬だけ露出する瞬間を狙う。

「今だ……!」

 砲撃すると、モレールエネルギー弾が命中し、龍型バイオウェポンが咆哮を上げて墜落する。砂嵐が巻き上がり、氷柱が砕けた。

『敵拠点制圧完了。次なる拠点座標を取得:トーロイド空間』

 やった!と思う間もなく、サポートAIの声が響いた。

「……あれかー」

 ――『アエリミアス3』のシリーズ3では、途中の何ステージかはランダムで選択されるのだが、それは、タキジマが、かなり苦手としたステージだった。

 ヴィビソルグは再び空間を裂き、次なる戦場へと向かっていく。


***


 トーロイド空間――それは、天にも地にも地面がある、ドーナツ状の亜空間だった。重力が複雑に絡み合い、上下左右の概念が崩壊している。

「うわ……酔いそう……」

 タキジマは操縦に苦戦する。しかし、敵は容赦なく襲いかかってきた。

 機械的な敵機の弾幕をなんとかかいくぐり、奥地へとヴィビソルグを進めてゆく。

 すると、亜空間の中心に、巨大コア戦艦が鎮座していた。この亜空間を維持している、中間コントローラーだ。

 無数の砲塔、シールド、ドローン――まさに要塞そのものだった。

「こいつは……ラスボスじゃないんだよな……」

 まだ前哨戦だった。タキジマはヴィビソルグを操り、コア戦艦の砲撃を避けながら、シールド発生機関を破壊していく。

「撃てぇぇぇ!」

 チャージした位相プラズマ砲が戦艦のコアに命中し、爆発がおきた。

 戦艦は崩壊し、空間が揺れ、通常の宇宙空間に戻っていった。

『最終拠点座標取得:超暗黒要塞』

「……ついに来たか」

 タキジマは操縦桿を握り直した。ヴィビソルグは、最後の戦場へと向かっていく。


***


 ヴィビソルグが空間を裂いて到達したのは、宇宙の果てに浮かぶ漆黒の惑星規模要塞――超暗黒要塞だった。

 星の光すら吸い込むような漆黒の球体が見え、その背後の空間そのものが歪んでいる。要塞の周囲には、無数の戦艦群がバリケードを築き、待ち伏せしていた。

「……うわ、これ、ゲームじゃなかったら絶対詰んでるやつだろ……」

 タキジマは息を呑んだ。戦艦群は、一斉に砲門を開き、ヴィビソルグに向けて攻撃を開始した。空間が震え、光の奔流が襲いかかる。

『敵戦艦群、同時攻撃開始。回避推奨』

「推奨って言われても、避けられるかよ!」

 タキジマは操縦桿を握りしめ、ヴィビソルグを急旋回させる。だが、敵の弾幕はあまりにも密集していた。レーザー、ミサイル、プラズマ砲――あらゆる攻撃が空間を埋め尽くす。

「くっ……!」

 一発、二発、三発――ヴィビソルグが被弾するたびに、シールドが軋み、警告音が鳴り響く。

『シールド残量:20%』

「まずい……!」

 さらに、敵の巨大コア戦艦の強化型が前方に現れた。六連装の重粒子砲を搭載し、空間を切り裂くような砲撃を放ってくる。

 ヴィビソルグは回避しきれず、直撃を受けた。

『シールド全壊。パワーアップ機能、全喪失』

「……終わった……」

 ヴィビソルグの機体は、光を失い、レシーダーも消滅した。

 タキジマは、ただの初期状態の戦闘機で、超暗黒要塞に挑まなければならなくなった。

「これじゃ……勝てるわけない……!」

 可能な限りスロットを吹かして、なんとか敵戦艦群を退けたものの、タキジマの機体はボロボロだった。

「逃げるしかない!」

 彼は、超暗黒要塞が停泊している軌道にある、緑の惑星へと降下を試みた。

『着陸座標確定。重力安定域へ進入』

 ヴィビソルグは、ナスカの地上絵のような標識が刻まれた平原に不時着した。

 しかし、着地の瞬間、無機的な敵機がいくつも襲いかかってきた。この惑星も、当然、ヴィリシアンの基地になっているのだろう。

「まだ来るのかよ!」

 タキジマは、かろうじて敵の攻撃を避けながら、密林の奥へと逃げ込んだ。

 蔦や木をなぎ倒しつつ、ようやく停止させる。

『警告:モレールエンジン損傷。修復機能を回復できません』

 ヴィビソルグは損傷が激しく、自動修理もままならないようだった。

「くそっ。母星に戻る時間はないよな……どうする……?」

 彼は、絶望の中で、ふとあることを思い出した。

(そうだ……裏技があった……!)

 タキジマは、ヴィビソルグの制御コンソールを操作し、古の記憶を頼りに、コマンドを入力する。

「下下上上右左右左……ボタンB、A!」

『裏技コード認証。パワーアップ全快』

 すると、ヴィビソルグが光を放ち、モレールパワーが最大までチャージされたのが分かった。

 全武装が復活し、レシーダーも再展開される。

「よっしゃあああああ!」

 タキジマは歓喜の声を上げた。

「緊急離脱だ!」

 早速、モレールエンジンを吹かして、ほとんど垂直に上昇し、緑の惑星を離れようとした。

 ようやく宇宙に到達しようとした瞬間、空間が揺れた。

『ウルトラサイコ幻膜、解除されました。惑星正体:超暗黒要塞本体』

 惑星の表層が、光の罅のように剥がれ落ちて、巨大な機械構造が姿を現わした。暗黒の月がその周囲を回っている。

「はぁ!? こっちが要塞そのものだったのかよ!」

 機械構造に設置されたエネルギー砲が、多数の弾を撃ってくる。

 ヴィビソルグは小さいから当たりづらいようだが、このままでは、敵戦艦に挟み撃ちにされる。ドローンの群れも飛んできた。

「ちくしょう! ともかく、超暗黒要塞に侵入だ!」

 ゲームでは、すんなりと要塞に突入できたが、ここは現実的ななにかで、どこか進入口を見つけなければならない。

「そうだ、こういうのは、側溝から入ると決まってるよな。どっかに、ないか?」

『了解……進入口を発見』

 サポートAIが、進路を示してくる。

 タキジマは、ヴィビソルグを、迷わずにその側溝に入り込ませた。側溝は、定説(セオリー)通り、ちょうど敵のエネルギー砲が届かない死角になっているようだった。

「いいじゃん。でも、自動操縦でないと、ぶつかりそうだな」

 Fのつく力を込めなければならないのだろうが、サポートAIに操縦を任し、ドローンを避けながらヴィビソルグを進入口に突入させた。

 

 要塞の内部は、まるで生体と機械が融合したような異様な空間だった。

 節足ウェポンが無数に蠢き、空間の隙間を埋め尽くしている。

「またかよ……!」

 タキジマは、脚の間をくぐり抜け、レシーダーと連携して敵を撃破していった。

 しかし、敵の数は膨大で、進むたびに新たな敵が現れた。

「くそっ、隙間がない……!」

 そのとき、ヴィビソルグのセンサーが反応した。

『最終ボス座標、確定』

 タキジマは、最後の力を振り絞って、敵の群れを突破した。

 すると、巨大な触手が、ヴィビソルグを追いかけてきた。渦を巻くように機動して振り切り、その触手を切断する。すると、更に別の触手ヴィビソルグに迫ってくる。

「ぐぉお……」

 タキジマは、高機動を繰り返して、なんとかその触手を破壊した。

 そして、ヴィビソルグが超暗黒要塞の中枢へ進入した瞬間、空間が変質した。重力が逆転し、上下左右の感覚が曖昧になる。

 壁は脈動し、天井からはコードのような触手が垂れ下がっている。まるで、宇宙の内臓に入り込んだような感覚だった。

「……ここが、最終ボスの座標か」

 たどり着いた空間の奥に、それはいた。

 ヴィビソルグの形状に似ている巨大戦艦の上に搭載された、巨大な脳のような異形の存在が浮かんでいた。脳幹からは無数のケーブルが伸び、空間に根を張っている。中央には、口のような器官が開閉を繰り返していた。

 タキジマは息を呑んだ。現実として見ると、本当に気色悪い敵だ、と思った。

『敵識別:バイオウェポン・ブレイン。空間構造との融合率:98%』

「融合って……こいつ、宇宙そのものに食い込んでるのか?」

 そのとき、ブレインが動いた。空間に響く重低音。言葉ではないが、確かに意味を持った『声』がタキジマの意識に直接流れ込んでくる。

「我が名はジャイムスン王。お前の父だ」

「……は?」 

 タキジマは、思わず声を漏らした。

 確かに、ゲームでは、ブレインは、かつての王であり、通商団体連合の叛乱でハイパーインフレが起こったときに、のこのこ視察に出かけてヴィリシアンに拉致され、悪の科学者ローグによって改造された存在、という設定だったはずだ。

「我は、この宇宙の空間を侵食している。破壊すれば、全宇宙がビッグリップで崩壊するであろう」

「そんなの……ただの設定だろ!」

 だが、ブレインの言葉には、確かに『現実』の重みがあった。空間が震え、ヴィビソルグのセンサーが異常を検知する。

『空間安定度:低下中。戦闘による構造崩壊の可能性:高』

「……でも、やるしかない」

 タキジマは、操縦桿を握りしめ、モレール砲をチャージする。

 すると、ブレインの周囲に、無数の防衛機構が展開された。浮遊する眼球型ドローン、空間を裂くレーザー砲、そして、触手型ミサイルが四方から襲いかかる。

「避けろ、避けろ……!」

 ヴィビソルグは急旋回し、レシーダーを展開。過去の自機が空間に浮かび、攻撃を分散させる。

 しかし、敵の攻撃は次元を超えてきた。空間の位相を読み取り、レシーダーの座標を回避してくるのだ。

「こいつも、学習してる……! くそっ!」

 敵の攻撃を回避するのに精一杯となり、なかなか、攻勢に移れないで時間が過ぎる。

 タキジマは、なんとか、ブレインの垂れ下がったコードをモレール砲で撃ち始めた。

 しかし、ブレインは、超時空結界を展開し、すべての攻撃を遮断した。

『結界強度:∞。破壊不能』

「これって……ゲームの失敗エンドと同じじゃん……!」

 そう、『アエリミアス』シリーズ3では、最終ボスには攻略の時間制限があり、コンティニューしてもクリアできないという落とし穴があった。結界が出現したら、時間経過とともにバッドエンドになる。

 焦ったタキジマは、ヴィビソルグのコンソールを叩き、バイナリエディターを起動した。そして、記憶の片隅に残っていたチートコードを打ち込んだ。

「……これでいい。ポチっとな!」

『コード認証。結界無効化』

「よっしゃあああああ!」

 結界が消え、ブレインが剥き出しになった。戸惑うように震えるブレインに向かって、タキジマは高笑いしながら叫んだ。

「これが、デバッグ魂だぁぁぁ!」

 位相プラズマ砲が放たれ、ブレインを直撃する。空間が震え、コードが断裂し、脳の表面にひびが入った。

「やめろ……我を破壊すれば、この宇宙が……!」

「そんなの、関係ない! バグは潰す、それが俺の仕事だ!」

 タキジマは、最後のモレールパワーをチャージし、超光速空間衝撃ウェーブ砲を放った。

 空間が震え、周囲が白く染まった。

 そして――すべてが消失した。


***



 気がつくと、タキジマは、何もない闇の中を漂っていた。

 だが、その闇はただの虚無ではなかった。なぜか周囲は見える。音もない。重力もない。音もないのに、心に響く気配がある。ただ、存在だけがあった。

「……ここはどこだ? これで、元の世界に戻れるのか?」

 タキジマはヴィビソルグのコックピットに座ったまま、周囲を見渡した。空間は静かで、時間の流れすら感じられなかった。まるで、宇宙の外側に出てしまったように思った。

 そのとき、遠くから光が近づいてきた。

 それは、ランタンを持った男だった。ゆっくりと歩いてきた彼は、ボサボサ髪に、派手な服装、どこかで見たような、妙に馴染みのある風貌をしていた。

「……業界のプロデューサーっぽいな……?」

 タキジマの横までやってきた男は、微笑みながら言った。

「私は神だよ、タキジマ君。世界を食い荒らすバグを退治するために、君の魂を地球世界から連れてきた。君は、大変よくやってくれた」

「……神って、そんな軽いノリで言うもんですかい?」

 タキジマのツッコミに、神は穏やかに微笑んだ。

「そうだね。でも、君の戦いは、ただのゲームではなかった。宇宙の構造そのものに食い込んだ異次元生命体――ヴィリシアン――を、君は、コードと魂で打ち破ったのだよ」

 タキジマは呆れながらも、どこか納得していた。

 この世界は、ゲームのようでいて、現実のようでもあった。彼は、ヴィリシアンというバグに侵された宇宙を、『デバッグ』しようとしたのだろう。

「……魂って、そんなに万能なのか?」

 神は、笑った。

「君のような者が必要だった。設定を理解し、バグを見抜き、そして『裏技』を使える者だ。君は、世界の『修復者』だ」

「はあ……」

「さあ、バグの取れた『アエリミアス』の世界を修復しよう!」

 神が手を挙げると、周囲に宇宙空間が広がり、星雲や星の光が溢れた。眼下には、緑の惑星アエリミアがあった。そして、惑星の夜の側から暁光が広がった。

「おお……シリーズ3のエンディングのシーンみたいですな……」

 タキジマは、少しだけ誇らしい気持ちになった。だが、同時に不安もあった。

 本当のエンディングなら、バーティーは、ヴィビソルグとともに惑星に降りたって、王位を継ぐのだ。しかし、タキジマは、王様をずっとやれる自信はなかった。

「……俺は、元の世界に戻れるのか?」

 神は、首を振った。

「まだだ。次の世界が待っている」

 その言葉と同時に、タキジマの身体は光に包まれ、再び空間を裂いて投げ出された。


***


 目を覚ますと、そこは青い光の迷宮だった。壁も床も天井も、すべてが発光するラインで構成されている。無機的で、冷たい空間だ。しかし、どこか懐かしい。

「……これって……パオパクマン?」

 迷宮の中には、白い点のようなものが浮かんでいた。

 タキジマが近づくと、それは『エネルギーコイン』だった。

 彼が触れると、ヴィビソルグの武装が、一部回復する。

「……まさか、これは、『アエリミアス・ゾーン』の元になったヤツか?」

 そのとき、通路の奥から声が響いた。

「ウワァァァァァァァァ!」

 色のついた少しコミカルな幽霊のような怨霊オブジェクトが、叫びながら迫ってくる。赤、青、ピンク、オレンジ――それぞれ異なる動きで、迷宮を徘徊している。

「うわ、完全にパオパクマンじゃん!」

 タキジマはヴィビソルグを操り、迷宮の通路を駆け抜ける。怨霊たちは空間を歪ませながら追いかけてくる。

 しかし、タキジマは、もう慌てなかった。敵の動きは読める。空間の構造も理解できる。何より、彼には『経験』がある。

「設定を理解すれば、攻略できるさ」

 彼は、迷宮の奥にあるフルーツ『コア』を奪取しつつ、『逆転エネルギーボール』を目指して進む。迷宮の奥から、また怨霊のような敵が現れた。

「バグがあるなら、潰すだけだ!」

 ……『逆転エネルギーボール』を取り込んだヴィビソルグが光を放ち、敵を撃破していく。

 すると、迷宮の通路が開け、奥に巨大なゲートが現れた。二本の棒のようなゲートには、『ワープ』らしき文字が刻まれている。その先には、また新たな世界が広がっているのだろう。

 神の声が、遠くから響いた。

「……次の世界も、頼むぞ……」

「任せとけ。俺は、世界を直すプログラマーだからな!」

 タキジマは、操縦席のコンソールに手を置いた。そこには、彼が打ち込んだ裏技の痕跡が残っている。

「……俺の人生、バグだらけだったけど、悪くなかったよな」

 タキジマは笑った。ただのゲーム会社のプログラマーだったはずの自分が、今や宇宙のバグを修正する『デバッグ要員』として、次元を超えて戦っている。

「いくぞ!」

 ゲートが開き、眩い光がヴィビソルグを包み込んだ。

 タキジマ ユウの冒険は、まだ続いていく。


(了)


挿絵(By みてみん)

ヘッポコな横好きなだけの趣味に走ってみた習作です……今度は、AIの出力を、ほぼ半分、書き直した感じでしょうか。それでも、まったくとっかかりがないよりはやりやすいですね。AI経験値の向上に役に立ちました。それでは、また。

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