表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

終わったはずの物語

  あの時、俺たちは確かに世界を救った。


 魔法使いは王都で研究所を立ち上げ、

 僧侶は故郷の村に戻って教会を再建し、

 戦士は北方で傭兵団の団長になった。


 …で、俺はというと、

「何してんだっけな…」


 魔王を倒してから、もう五年。

 世界を救った俺たちは、それぞれの道を歩いていった。


 みんな、立派に世界に貢献してる。

 なのに、勇者の俺はというと――特にこれといったこともなく、ただ時間だけが過ぎていた。


 いや、何もしていなかったわけじゃない。

 恐らく、あの魔王は――まだ、死んでいない。


 その手がかりを探すために、一人で旅に出た。

 …が。


「まさか、こんなに手がかりが見つからないとは思わなかった…」


 あの時、無理やりにでも誰か一人、連れてくればよかったかもしれない。


「どうしたもんかねぇ…」


 目星を付けていた場所は全部行ってしまったし、

 かと言って何か出来るかと言われると何もない、

 一体どうすればいいのやら。


「仕方ないか…」


 気が乗らないがあいつを頼るしかないかな。


***


「やっと着いた……」


 危険な魔物が棲みつく、深い森の奥。

 その中心に、ぽつんと一軒の小屋が建っている。


 ここは、かつて“あのクソジジイ”――いや、師匠と一緒に暮らしていた場所だ。


 こんな辺境まで来たんだ。

 なにも知らない、なんてのは許されない。


 小屋の前に立ったその瞬間――


「甘い!」


 背後から風を裂く音。

 反射的に剣を抜き、振り返りざまにその一撃を受け止める。


 ガキィン、と金属がぶつかる鈍い音。衝撃が腕に響いた。


 木刀だ。癖のある軌道。振り下ろしたのは――やはり。


「……やっぱりそう来るか」


「はっはっは! まだ反応できるか試してみただけだ」


 木刀を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。

 相変わらずのボサボサ頭に無精髭。俺の師匠、レガント。


「久しぶりだなイアス。八年か…最後に会ったのは、お前が旅の途中で寄ったときだったな。」


「そっちこそ変わってないな。森の中で木刀振り回してるの、あの時からずっとか?」


「バカ言え。時々、山菜も採ってる。」


「…そりゃすごい。」


 師匠は鼻で笑うと、小屋の扉を開けて中を指さした。


「まあ、立ち話もなんだ。入れよ。わざわざ来たってことは……何か聞きたいことがあるんだろ?」


 小屋の中は、あの頃と何ひとつ変わっていない。

 必要最低限の家具、薪のストーブ、壁に掛かった木剣。


「…んで、何の用だ?」


 木製の椅子にどっかりと腰を下ろしながら、師匠が口を開いた。


「お前がわざわざここまで来たってことは、一人じゃどうにもならんってことだろ?」


「…まあな。」


「魔王のことか?」


「気づいてたか…魔王は、まだ死んでない。」


 師匠は黙ったまま煙管に火をつける。

 一拍の沈黙煙が静かに天井へと昇っていった。


「…気づいてたというより、“感じてた”ってのが正しいかもな。」


「感じてた?」


「魔王が倒れたって話は、ずいぶんと遠くまで届いてた。

 だが、その後、妙な“歪み”がいくつか起きてる。」


「歪み?」


「ああ。自然が狂ったり、人の気が荒れたり……普通なら説明がつかん異変が、局所的に起きてる。それも、全部、古代の遺物(アーティファクト)が使われていた地域だ。」


 師匠は目を細めて俺をまっすぐ見た


「お前の目は、まだ見えてるか? 魔王を倒した後でも。」


「…見えてる。」


「なら、話は早い。おそらく、魔王の魂はまだどこかに宿っている。

 それも、ただの霊体じゃない。“器”を得ようとしてるんだ。」


「器…人間か?それとも魔物か?」


「どっちでもあり得るさ。だが問題は、“今、どこにいるか”だ。

 それを探るには、昔のお前じゃ無理だったが…今なら、できるかもしれん。」


「…手がかりはあるのか?」


 師匠は煙管をくゆらせながら、ふっと笑った。


「あるさ。一週間ほど前、南東の断崖地帯で“気配”を感じた。」


「気配って…まさか。」


「ああ。ちょうど一週間前に“気配”を感じた。南東の断崖地帯。そこに、何かある。」


「へぇ…さすが、ロイヤル隊の隊長様だな。」


「“元”だ…まだ疑ってんのか?」


「名誉だの地位だのに飽きて、森に籠もった変人なんて噂されてるがな。

 …俺は、ただ“守る”のに疲れただけだ。」


「それでも、お前はまだ戦ってる。世界を救ったのに、まだだ。」


 師匠は立ち上がり、壁に掛けられた古びたロイヤルの紋章が入った剣に視線を向けた。


「…覚悟はあるか? あの魂は、もしかすると“お前の中”にも目をつけてるかもしれん。」


「…構わない。もしそうなら、今度こそ終わらせる。」


「いい目をしてるな。かつての“勇者”じゃなく、“今の男”の目だ。」


 じっと目を見ながら、師匠はそう言う。


「行ってこい。だが、戻ってくるまでは死ぬな。

 弟子を失うのは、教官として最悪の気分だからな。」

読み切りになるはずだったのに( ‘ᾥ’ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ