終わったはずの物語
あの時、俺たちは確かに世界を救った。
魔法使いは王都で研究所を立ち上げ、
僧侶は故郷の村に戻って教会を再建し、
戦士は北方で傭兵団の団長になった。
…で、俺はというと、
「何してんだっけな…」
魔王を倒してから、もう五年。
世界を救った俺たちは、それぞれの道を歩いていった。
みんな、立派に世界に貢献してる。
なのに、勇者の俺はというと――特にこれといったこともなく、ただ時間だけが過ぎていた。
いや、何もしていなかったわけじゃない。
恐らく、あの魔王は――まだ、死んでいない。
その手がかりを探すために、一人で旅に出た。
…が。
「まさか、こんなに手がかりが見つからないとは思わなかった…」
あの時、無理やりにでも誰か一人、連れてくればよかったかもしれない。
「どうしたもんかねぇ…」
目星を付けていた場所は全部行ってしまったし、
かと言って何か出来るかと言われると何もない、
一体どうすればいいのやら。
「仕方ないか…」
気が乗らないがあいつを頼るしかないかな。
***
「やっと着いた……」
危険な魔物が棲みつく、深い森の奥。
その中心に、ぽつんと一軒の小屋が建っている。
ここは、かつて“あのクソジジイ”――いや、師匠と一緒に暮らしていた場所だ。
こんな辺境まで来たんだ。
なにも知らない、なんてのは許されない。
小屋の前に立ったその瞬間――
「甘い!」
背後から風を裂く音。
反射的に剣を抜き、振り返りざまにその一撃を受け止める。
ガキィン、と金属がぶつかる鈍い音。衝撃が腕に響いた。
木刀だ。癖のある軌道。振り下ろしたのは――やはり。
「……やっぱりそう来るか」
「はっはっは! まだ反応できるか試してみただけだ」
木刀を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。
相変わらずのボサボサ頭に無精髭。俺の師匠、レガント。
「久しぶりだなイアス。八年か…最後に会ったのは、お前が旅の途中で寄ったときだったな。」
「そっちこそ変わってないな。森の中で木刀振り回してるの、あの時からずっとか?」
「バカ言え。時々、山菜も採ってる。」
「…そりゃすごい。」
師匠は鼻で笑うと、小屋の扉を開けて中を指さした。
「まあ、立ち話もなんだ。入れよ。わざわざ来たってことは……何か聞きたいことがあるんだろ?」
小屋の中は、あの頃と何ひとつ変わっていない。
必要最低限の家具、薪のストーブ、壁に掛かった木剣。
「…んで、何の用だ?」
木製の椅子にどっかりと腰を下ろしながら、師匠が口を開いた。
「お前がわざわざここまで来たってことは、一人じゃどうにもならんってことだろ?」
「…まあな。」
「魔王のことか?」
「気づいてたか…魔王は、まだ死んでない。」
師匠は黙ったまま煙管に火をつける。
一拍の沈黙煙が静かに天井へと昇っていった。
「…気づいてたというより、“感じてた”ってのが正しいかもな。」
「感じてた?」
「魔王が倒れたって話は、ずいぶんと遠くまで届いてた。
だが、その後、妙な“歪み”がいくつか起きてる。」
「歪み?」
「ああ。自然が狂ったり、人の気が荒れたり……普通なら説明がつかん異変が、局所的に起きてる。それも、全部、古代の遺物が使われていた地域だ。」
師匠は目を細めて俺をまっすぐ見た
「お前の目は、まだ見えてるか? 魔王を倒した後でも。」
「…見えてる。」
「なら、話は早い。おそらく、魔王の魂はまだどこかに宿っている。
それも、ただの霊体じゃない。“器”を得ようとしてるんだ。」
「器…人間か?それとも魔物か?」
「どっちでもあり得るさ。だが問題は、“今、どこにいるか”だ。
それを探るには、昔のお前じゃ無理だったが…今なら、できるかもしれん。」
「…手がかりはあるのか?」
師匠は煙管をくゆらせながら、ふっと笑った。
「あるさ。一週間ほど前、南東の断崖地帯で“気配”を感じた。」
「気配って…まさか。」
「ああ。ちょうど一週間前に“気配”を感じた。南東の断崖地帯。そこに、何かある。」
「へぇ…さすが、ロイヤル隊の隊長様だな。」
「“元”だ…まだ疑ってんのか?」
「名誉だの地位だのに飽きて、森に籠もった変人なんて噂されてるがな。
…俺は、ただ“守る”のに疲れただけだ。」
「それでも、お前はまだ戦ってる。世界を救ったのに、まだだ。」
師匠は立ち上がり、壁に掛けられた古びたロイヤルの紋章が入った剣に視線を向けた。
「…覚悟はあるか? あの魂は、もしかすると“お前の中”にも目をつけてるかもしれん。」
「…構わない。もしそうなら、今度こそ終わらせる。」
「いい目をしてるな。かつての“勇者”じゃなく、“今の男”の目だ。」
じっと目を見ながら、師匠はそう言う。
「行ってこい。だが、戻ってくるまでは死ぬな。
弟子を失うのは、教官として最悪の気分だからな。」
読み切りになるはずだったのに( ‘ᾥ’ )




