表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

投げ込まれた戦場②  ゴブリン無双してやるぜ!!

ゴブリンも恋をするとは......

「とりあえず、基礎はここまでですね。何か分からないところはありましたか?」


エリーゼは剣を鞘に収め、優しく微笑む。


カイルはすっきりとした笑みを浮かべ、自信ありげに深く頷いた


「大丈夫だよ。」


全部、分からなかったから。


「ならよかったです。じゃあ私がゴブリンの倒し方を見せるので、見ていてください。」


エリーゼが周囲を見渡す。


ゴブリンたちは他の冒険者と戦いながらも明らかにエリーゼを警戒している様子だった。一歩踏み出すごとに、ゴブリンは少しずつ後退する。


「なんで私から逃げていくんだろう。」


エリーゼはつぶらな瞳で、ゴブリンをまっすぐ見つめた。ゴブリンたちは目を逸らそうとするが、動きを止めてしまう者もいる。


そのうちの一匹は、つい見惚れてしまったのか、頬をわずかに赤く染めた。


ふらふらとエリーゼに近づこうとしたゴブリンは、すぐに仲間に頭を強く叩かれ、ハッと正気に戻った。


しかし、別のゴブリンは違った。


「ゴブ!」


何かを思いついたように、戦場の隅で花を集め始めた。 必死に小さな手で花を摘み、泥だらけの手で束ねる。


エリーゼの前に駆け寄り、震える手で差し出した。


「ゴブ!」


エリーゼは目を瞬かせる。


「きれい……」


エリーゼが手を伸ばしかけたその時、


「ゴブゥッ!!」


横から飛び込んできた仲間が、花束ごと蹴り飛ばした。


泥の上に転がった花びらを握りしめ、泣きながら立ち上がろうとする。だが、仲間に腕をつかまれ、ずるずると引きずられていった。


周りのゴブリンも冒険者との戦いを止めて、エリーゼに猛アピールする。


木の棒で地面をなぞり、必死にエリーゼの顔を描く者。しかし、途中で仲間に蹴られ、絵がぐちゃぐちゃになる。


他のゴブリンは楽団を作り、全力で愛を叫んでいた。


エリーゼは戸惑いながらゴブリンのアピールを見ていた。


「どうすればいいんでしょうか。」


戦闘になってないんですけど….


「仕方ない。俺が出るしかないようだな。」


カイルは決意を決めたような眼差しで前に出る。


すると、ゴブリンたちはカイルを見るなり露骨に唾を地面に吐き、興味を失ったように去っていった。


ふざけやがってこいつら! 主人公のおでましなんだぞ!!


カイルはゴブリンを追いかけ、さらに奥へと走っいく。


「どいつと戦おうかな。」


周りを見渡すと、一箇所だけ目につく場所があった。


岩の上に、ゴブリンがあぐらをかいて腕を組みながら座っていた。赤いマフラーを風になびかせ、異質なオーラを放っている。


「決めた。あいつにしよう。」


挑発するような視線を向けると、ゴブリンの目が鋭く光る。


ゴブリンは飛び上がり、空中でわずかに体をひねりながら、地面に片足で静かに着地した。


その華麗な動きに、周囲のゴブリンたちが感嘆の声を上げ、拍手を送る。


カイルの方へと近づき、深く呼吸をする。


「ゴブゥ……」


ゴブリンは拳法の型を披露した。


右足を軽く引き、両腕をゆっくりと構える。 流れるような動きで拳を突き出し、足を滑らせるように踏み込む。


その動きはまるで水のようにしなやかで、力強さと優雅さを兼ね備えていた。 一撃ごとに空気が震え、地面にわずかな砂埃が舞い上がる。


無駄のない動き。洗練された技。その姿は、まさに達人の風格を漂わせていた。


「相手にとって不足なし。」


カイルは殴りかかろうとしたが、拳法ゴブリンは棍棒をカイルに投げ渡した。


「ゴブ。」


拳法ゴブリンは手をクイっと動かし、余裕の笑みを浮かべる。かかってこいと言わんばかりだ。


「舐めやがって。ぶっ飛ばしてやるよ!!」


カイルは棍棒を上から振りかざす。狙いは頭。


しかし、拳法ゴブリンは未来でも見えるかのように、カイルが振りかざす前に避けた。


「なに!?」


動揺するカイルに、拳法ゴブリンは横腹へ鋭いパンチを叩き込む。


それほどダメージはなかった。すぐに体勢を立て直し、棍棒を振りまくる。


だが、今度は目を閉じたまま、風を感じるように軽やかに避けていた。


「なんで当たらないんだ!」


拳法ゴブリンは目を開き、カイルに正拳突きを叩き込む。


「ぐはっ!」


カイルは棍棒で防いだおかげで深い痛みはなかったが、遠くへと転がっていった。


拳法ゴブリンは周囲のゴブリンたちを呼び寄せる。


「ゴブ。」


数匹のゴブリンが頷き、カイルの元へと走って来ていた。


拳法ゴブリンはカイルに静かに視線を向けると、何事もなかったかのように去っていった。


カイルは疲労で立つことすらままならず、ただ悔しげに睨むことしかできなかった。


さっきのゴブリン、俺を煽りながら去っていきやがった。マジで悔しい!!


数匹のゴブリンがカイルの前に迫り、棍棒を振りかざそうとした瞬間、左にいたゴブリンが斬られた。


他のゴブリンは驚き、急いで距離を取る。


カイルが顔を向けると、そこには一人の剣士がいた。


猫耳があり、尻尾もあった。獣人族だ。


「さっきの一発も当たってなかった人じゃん!」


その言葉に、剣士は何も気にしていないようにフッと笑った。


「さっきの私とは違うぞ。」


そう言って、カイルに手を差し伸べる。 カイルは剣士の力を借りて立ち上がった。


「私が真ん中のゴブリンをやるから、お前は右の方を頼む。」


「あぁ。わかった。ところで名前はなんていうんだ?」


「私はゼリア。」


「行くぞ、ゼリア!!あとで猫耳と尻尾触らせてくれ!!」


「あぁ!....え?」


ゼリアは一瞬戸惑ったが、首を振って意識をゴブリンへと向けた。


一歩で距離を詰め、迷いなく剣を振るう。


鋭い一閃がゴブリンの腕をかすめ、血がほとばしる。


しかし、ゴブリンは素早く腕を引き、致命傷を避けた。


腕からじわりと血が滲む。


「ゴブゥ……」


ゴブリンは目を細め、警戒しながらじりじりと距離を詰める。


「この一撃で仕留める。」


ゼリアは剣を構え直し、深く息を吸った。騎士の教えを思い出す。


力を抜いて、相手の目を見ずに斬る——。


「私はあの日から、二度と逃げないと決めたんだ!」


張り詰めた静寂が訪れる。風が止まり、空気が重くなる。


一枚の葉がゆっくりと舞い落ち、地面に触れる。それを合図に、二人の足が同時に動いた。


「はぁぁ!!」


「ゴブゥゥ!!」


一閃——鋭い剣筋が閃き、ゴブリンは崩れ落ちた。


「ふぅ……」


ゼリアは額の汗を拭い、カイルの方を見る。


「は?」


カイルはなぜかゴブリンと固く握手していた。 隣では、エリーゼが照れくさそうに顔を伏せている。


ゼリアは訳がわからず、目をぱちくりさせながら見ることしかできなかった。


何が起こったんだ?


その周りでは、ゴブリンも冒険者も涙を流しながら、感動したように見守っている。


---


カイルは棍棒でゴブリンの腕を叩こうとした時、ゴブリンは両手を前に出し、敵意がないことを表した。


「ん?」


どういうことだ?戦わないつもりか?


首をかしげるカイルに、ゴブリンはどこかへと走っていった。


「なんだあいつ?」


見守っていると、多くの花束を持って戻ってきた。


「もしかしてさっきのゴブリンか!」


「ゴブ!」


ゴブリンは頷き、少し遠くにいるエリーゼの方を見る。


「お前、もしかしてエリーゼのことが好きなのか?」


ゴブリンは頬を赤くして、頭をかきながら、照れくさそうに頷く。


「ゴブ。」


「なるほどねぇ。」


俺もエリーゼのこと好きなんだけどな。ここまでの熱意があるなら別にいいか。


「まぁいいだろう。俺が呼んでくるから、ちょっと待っとけ。」


ゴブリンは慌ててカイルの腕を掴む。


「ゴブゴブ!!」


言葉の意味はわからないが、なんとなく伝わる。


「振られるのが、怖いのか?」


ゴブリンは沈んだような顔で頷く。


「ゴブゥ」


カイルは呆れたようにため息をつき、ゴブリンの肩をポンと叩いた。


「やる前から諦める男は、男として失格だぜ。」


ゴブリンは顔を見上げる。


「ゴブ?」


「失敗を怖がるやつは、何も掴めねぇんだよ。」


日差しががカイルの背を照らしていた。周囲には多くのゴブリンと冒険者が集まっているのがわかる。


「いくのか、いかないのか。お前が決めろ。」


「…….ゴブ!!」


---


「さっきから見ていたんですが、なんで戦わないんですか?」


不思議そうにゴブリンとカイルを見つめるエリーゼ。


そんなエリーゼを気にせず、カイルはエリーゼをゴブリンの前に立たせる。


「どういうことですか?カイルさん。」


エリーゼは慌てながら周りを見る。


周りにはすでに泣いているゴブリンや、ハンカチで涙を拭いている冒険者もいた。


「ゴブ。」


ゴブリンはエリーゼを真剣な眼差しで見つめる。


「え?」


エリーゼもゴブリンを見つめたが、あまりの真剣な表情に、思わず背筋を伸ばしてしまう。


ゴブリンはしばらく動けずにいた。それを見ていた周りが応援する。


「頑張れー!!ここでいくのが男なんだろ!いけよ!!」


「そうよ!ここで恐れてなんかいたら、あなた一生前に進めないわよ!!」


「ゴブ!!ゴブ!!」


声援を受け止め、ゴブリンは決心した。


「ゴブ」


エリーゼにそっと花束を差し出した。


その小さな手の中には、色とりどりの花がぎゅっと束ねられている。


赤やピンクの花が鮮やかに混ざり合い、白い花が優しくそれを引き立てる。黄色の花が元気よく広がり、ところどころに淡い紫の花が揺れていた。


花びらは少し乱れていて、葉には泥がついている。それでも、どの花も力強く咲いていて、必死に集めたことがよく伝わる。


決して整った花束ではない。


だが、その不器用な美しさが、何よりも心を打つ。


この場所に陽の光が差し込むことはほとんどなかった。木々が生い茂り、いつもは薄暗い影が広がっている。


しかし、今は雲が晴れ、枝の隙間から柔らかな光が降り注ぐ。花束の色が鮮やかに浮かび上がり、命を吹き込まれたかのように輝いた。


「これを私に?」


「ゴブ」


周囲は静まり返り、風がそっと花びらを揺らした。


「受け取ってくれよ。エリーゼ。」


「さっきから意味がわからないんですけど….」


カイルは涙を拭いながら、エリーゼに呟く。


「……こいつさ、本気なんだよ。」


カイルの呟きに、エリーゼの肩がびくりと震える。 花束を見つめる視線に、揺れる迷いが滲んでいた。


何か返さなきゃ。でも、どう言えばいいの?


「……わ、私は……その……」


ちらりとゴブリンの目を見ると、まっすぐで、冗談じゃないと語っていた。エリーゼも真剣な表情になり、答える。


「……ご、ごめんなさい!でも、気持ちは嬉しいです。」


頭を下げると、髪が顔にかかり、表情は誰にも見えなかった。


太陽の光がゴブリンの背を照らし、影を長く伸ばす。


差し込む光に溶け込むように、静かに去っていった。


「ちょ待てよ。」


「ゴブ?」


「せめて花束は渡そうぜ。」


ゴブリンは立ち止まり、震える手で花束を握りしめる。ゆっくりと顔を上げ、ためらいがちに差し出した。


「ゴブ、ゴブゥゥ」


声を上げて泣くゴブリン。それを見た一人の冒険者が声を上げた。


「お前はよくやったよ!!俺も正々堂々と戦って英雄になってやる!!」


それに続いて、他の冒険者やゴブリンも拳を握りしめながら思いを口にする。


「こんな単純なことだったのに……どうして今まで気づかなかったんだろう。」


「ゴブ!ゴブ!」


カイルは周りを見て満足げに微笑んだ。


「お前は最高の男だぜ。」


カイルがそう言って手を差し出すと、ゴブリンは少しだけ戸惑ったが、やがて意を決したように手を握った。


ぎこちない、けれど力強い握手だった。


「ゴブリン!!ゴブリン!!YEAHHHHH!!!!!!」


周囲の歓声が響く中、ゼリアはぽつりと呟いた。


「これは….一体何を見せられているんだ….?」

読んでいただきありがとうございます!いいねと感想待ってます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ