表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

忌まわしきダンジョン① メンバー募集するぜ!!

前回のあらすじ


カイルは2人に軽蔑されていた

ギルドの扉をくぐると、カイルたちの前に広がったのは、朝とは思えないほど活気に満ちた光景だった。


室内には冒険者がひしめき合い、あちこちで地図や資料を囲んでの打ち合わせや、武器の整備をしている様子が見て取れる。依頼掲示板には新しい紙が何枚も追加されていて、貼り替えの音がパタパタと響いていた。


「今日は珍しいですね。」


厄災が段々大きくなっていってるのかもしれませんね......


「ええ。魔物が昨日から大量に発生してるのを聞きました。」


ゼリアが短く答えるその横で、カイルは眉をひそめた。


「なら、ダンジョン選んで正解だったね。」


よかったあ。昨日みたいな経験はもうしたくないからね


背筋にうっすらと冷たい記憶がよぎる。


狼に襲われ、ハニートラップに引っかかり、焼かれそうになって死にかけた。二度とあんな経験はごめんだね。  ハニートラップは悪くなかったけどさ。


「今日のダンジョンは昨日みたいなことは起きませんからね。安心してください。」


エリーゼがきっぱりと断言する。その頼もしさに、彼の表情も少しだけ持ち直した。


「ようやく、俺の力を出せるときが来たか。」


拳を握って胸を張るが、すかさず横から冷たい声が聞こえた。


「お前に力はないだろ。」


「見せてやるよ!俺の能力を!」


「何を言ってるんだお前は。」


「早く受付に行きましょうか。」


呆れたように会話を切り上げ、まっすぐ受付に向かって歩き出す。


カウンターの奥には、今日も変わらず微笑みを湛えたギルド職員のリーズの姿があった。


その姿を見つけた瞬間、カイルは素早く駆け寄る。


「おはよう。リーズちゃん。今日も可愛いね。」


「おはようございます。今日の依頼はダンジョンですよね。すぐに準備いたします。」


にこやかに応じる彼女の所作は手慣れていて、書類をまとめ、細やかな動きで準備を進めていく。


「カイルさん達が受けるダンジョンは”始まりの歴史”と言われるダンジョンです。整備されているので安全ですが、油断せずに行動してくださいね」


慎重な口調で伝えてきた。書類を抱えるその手は慣れていながらも、どこか緊張を含んでいるように見えた。


「分かってるよ、リーズちゃん!俺に任せてくれ!」


カイルがウィンクとともに親指を立てる。


その背後ではエリーゼとゼリアが揃って申し訳なさそうに頭を下げていた。


「皆さんのご無事をお祈りしています」


リーズが小さく目を丸くしながらも、微笑みで送り出してくれる。


「それじゃあ、行こうぜ!」


俺はチート持ってるはずだから、俺だけレベルアップとかできるようになるのかな。なんか想像しただけでワクワクしちゃう!!


「ちょっと待ってください。」


エリーゼの声が背中を引き留めた。


「どうしたの?」


「このダンジョンは4人で行こうと思ってるんですよ。」


「そうなんだ。後一人はどうするの?」


「こっちから、誘おうかと思ってます。入れたい職業は魔法使いですね」


その言葉が全体に届くと、ギルドの空気が変わった。


「お前行ってもいいぞ。今日のクエストは俺らだけでやるから。エリーゼちゃんの住所を聞くんだ。」


「今すぐ魔法使いになってくる。」


「いいんですか!?10年も剣士をやってきたんですよ!!」


「安いもんだ。剣の一本くらい。」


瞬く間に、あちこちの椅子から立ち上がる者たち。奥の掲示板付近、階段の途中、果ては天井近くの手すりからアピールし始める者がいた。


「私の得意魔法は火魔法です!食事のときに使えますよ!」


「私は中級魔術まで使えます!水魔法であなたの体を洗わせてください!!」


「私の得意魔法は魅了です......」


冒険者たちがなだれ込むように集まり始め、広場の中心には魔導師の花畑のような風景が完成していた。


カイル達はその勢いに思わず一歩引いた。


「なんで、こんなに入りたい人が多いの?」


「エリーゼさんの強さが、すでに広まってるんだろうな」


ゼリアの目は、押し寄せる応募者の“目当て”が何なのか、完全に把握していた。


前から噂はあった。美人な騎士がギルドにいるらしいと。しかし狼との戦い以来、その名は一気に広がった。


"最強で、最強に可愛い"


そう語られるその人こそ、今まさにその場に立っているエリーゼだった。


「俺じゃねえのかよ」


ぽつりと落ち込むカイルの声が、場にまったく響かない。エリーゼは、周囲の熱気に少しだけ目を丸くしながら、小首をかしげる。


「私って......そんなに強いでしょうか?そこまでじゃないと思うんですけどねえ」


その謙遜の仕草が逆に破壊力を増して、さらに周囲をざわつかせた。


「謙虚で強くて可愛いってなんなんだよ!」


「俺、今日のクエストが終わったらあの子に告白するって決めたんだ。」


「それはやめろ!フラグになるから!!」



やがて、エリーゼが一歩前に出て、柔らかい声で告げた。


「この中でEランクの人はいますか?」


その言葉に、会場の半分ほどが一斉に手を挙げた。


「私Eランクです......」


「私もよ!最速でEランクになったから、誰よりも強いわ!


「俺もだ!エリーゼちゃんのために今、魔法使いになってきたんだぞ!」


減らない。まったく減らない。


エリーゼとゼリアが互いに視線を交わしながら小さく息を吐く横で、カイルはもう迷いもなく顔を上げていた。


「さっきの、魅了魔法を使える人!出てきなさい!!」


人垣がざわめき、わずかに空いた隙間を縫うようにして、一人の少女が足を運ぶ。歩みは慎重だが、足取りは揺れていない。


濃い緑色のとんがり帽子。長いつばの丸い黒縁メガネ。その奥に伏し目がちな瞳が揺れる。


だが視線を落とせば、胸元は大きく開き、谷間がはっきりと覗いている。腰回りは布地が薄く、まるでチャイナドレスのようにスリットが深く切られ、その奥の太ももまでも透けて見えた。


周りの男たちが思わず息を呑むのがわかった。


少女は少しだけ伏し目を落とす。だが声は揺れない。


「ラシアと申します。魅了…..専門の魔導師です。」


「ラシアちゃんね。」


カイルの頬がわずかに緩む。


やっぱりな。俺のセンサーが美女を逃すはずがない。しかし、なんてセェクシーな格好なんだ。 


鼻の下をのばしてにやける彼を横目に、エリーゼは申し訳なさそうにラシアへと軽く頭を下げた。


「申し訳ありませんが.....魅了の魔法は求めてないんですよね....」


その言葉に、空気がふっと変わった。ラシアの肩が小さくすくみ、視線が足元に落ちる。


「魅了以外にも使えるでしょ?そうだよね?そうらしいよ、エリーゼ?」


このままじゃ、この子と話せなくなる。それたけは避けねば!! 

それにしても胸大きいな。


「....まだ何も言ってないだろ」


ゼリアがそう言うと、ラシアはとんがり帽子を深く被った。


「そうですよね....私.....弱いですもんね.....」


丸眼鏡の奥の瞳が潤む。隠しきれない悔しさが、目ににじんでいた。周囲の男冒険者たちもどこかもどかしそうに視線を交わしている。


「....もういいでしょ!うちのパーティーに入れさせてやってくれよ!」


朝からこんな悲しい気分になりたくないよ!!   胸揺れてるな。



「そうですね。他に使える魔法はありますか?」


エリーゼの問いかけにラシアがはっと顔を上げる。恥じらいと希望が入り混じった声が返ってくる。


「....火魔法なら使えます!」


その言葉に、エリーゼはしばらく沈黙したのち、静かに頷いた。


「なら、大丈夫ですね。一緒に行きましょうか」


「ありがとうございます!」


ぱあっと表情が明るくなったラシアが、まっすぐカイルの方へ歩み寄り、勢いよく両手で彼の手を握った。


「よろしくお願いしますね」


「お.....おん」


冷静を装おうとしたものの、視線は明後日の方向を泳ぎ、耳の先まで真っ赤だった。


胸が当たってるんですけど!!最高ですなぁ!!絶対ダンジョン早く終わらせて二人でイチャイチャしてやる!!


「早く行こうぜ!」


握った手を離さぬまま、カイルとラシアは一足先にギルドの扉を押し開けた。それを見送ったエリーゼとゼリアが、同時に小さくため息をつく。


「....本当に大丈夫でしょうか?なにか、裏があるようにしか見えないんですが..」


ゼリアの呟きに、エリーゼも神妙に頷く。


さっき私が断ったとき、一瞬だけど、とても冷たい目をしていましたもんね......


「なにより、カイルさんを狙ってる時点で怪しいですからね。」


「確かに。あのクズを好きになるなんて、あり得ない話です。」


ギルドの外へと足を踏み出す二人。その背中にはまだどこか、疑いの影がちらついていた。






早く金稼ぎてぇ。


ぼーっと掲示板を眺めながら、ラシアはそう思っていた。


せっかくこんな格好してんのに、寄ってくるのは変な男ばっか。


前、寄生してた杉本とかいうやつ、魅了かけて使ったのに、盗作で飛ばされて終わりとかマジで使えない。この服もらった時点で縁切っときゃよかったわ。。”色”に釣られたくせに、”色”に見合う価値も無いとか、終わってんだろ。


まあ、目立つからいいけど。使い捨てなんて最初からわかってたし。


突っ立ったまま眺めてると、視界の端に、妙に品のある女の後ろ姿が映った。


あれが、エリーゼ。あの噂の騎士様ってやつか。そっちの器に乗っかるのも、悪くないかもね。


けど、近づく理由が無い。無理に絡めば戒されるだけ。その程度のこと、私だってわかる。.....なのに。よりによって、あの間抜け面の男が、私をパーティーに誘ってきた。


笑っちゃうわね。


どうせなら、このままエリーゼにすり寄って、人気に便乗してやる。馬鹿な男でも、うまく転がせば、意外と使い道あるもんよ。



は?いらないって何よ。こっちは静かに踏み台にしてやってんのに、調子乗ってんじゃないわよクソアマ。まぁ、あの馬鹿が粘ってくれたおかげで拾ってもらえたけど。丸眼鏡で泣きそうなキャラ作っとけば、誰にでも効果あることは知ってるし。


周りの男も悲しそうな目で見てくる。ブサイクばっかだな。....にしても、手ずっと握ってくんのマジで無理。


胸当ててアピったのミスったわ、まさか、こんなの早く釣れるとは思ってなかったし。ほんと、杉本と何が違うんだか。




あーあ、こういう男に限って「運命かも」とか思ってんだろうな。


笑える。

読んでいただきありがとうございます!!いいねと感想待ってます。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ