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蒼いパレット  作者: 黒薔薇姫
15/18

15話

葵は秘密の恋人、早坂先生と春休みにお出かけをする。

ボートの上で先生と二人きりになった葵は先生の胸に秘められた熱い想いに触れるのだが…。

桜の蕾がふくらみはじめ、その香りが春の空気に混ざってトロンとするような陽気が幾日も続いてた。

湖と言っても公園の中の一部にある大きな池で近くにベンチやキオスクがあり人は結構出ていた。

わたし達はソフトクリームを食べながら池の周りをお散歩した。

先生は水辺にたむろしているアヒルにエサをあげながら「津田さんもやってみる?」とエサの入った紙袋を差し出した。

「うん」

私がエサをやり始めると水の上を泳いでいたアヒルや鴨までやって来て

“ガァガァガ―ッ!!!”

がっついてエサを取り合い始めた。

 五、六羽だったのがいつの間にか十羽を超えた数になってアヒルの騒ぎは大きくなってる。中には私の足をつつかんばかりの奴までいる。

「ヒェ~ッ! やめてぇ…あっちいって!」

アヒルを追い払えずに 逃げ回る私を先生は笑ってみてるだけだ。

私が先生にエサの袋を押し付けて、やっとアヒルは私から離れていった

強いアヒルにエサをとられてるアヒルに食べさせようと、先生は遠巻きにウロウロしているアヒルにエサを投げている。

「トロイ奴にはエサあげたくなっちゃうんだよな~」と言ってニコニコした。

ふっと胸の中が温かくなるような優しさ。

 この日だって、いいえ、私とプライベートで逢う時は絶対先生のほうが負ってるリスクは大きいのにそんなことは一度も口に出さない。

私に重荷を感じさせないように私が先生のマンションへ遊びに行くのも帰るのも拘束しなかった。

滅多に乙女心を擽るようなコトも言わないし、しないけど先生の優しさは今まで私が出会ったどの人にもないものだった。

 アヒルにエサをあげた後で私たちは船着場へ行きボートに乗った。

「アヒル型のボートに乗ろうか?」先生は言ったけど、アヒル攻撃に遇ったばかりの私は「イヤだ」と言い、普通の形のボートを借りることにした。

先生が漕ぐとボートはちゃあんと行きたい所へ進むのに、私の番になるとボートは他のボートにぶつかりそうになったりしてしまう。

それでも先生は漕ぎ方を教えながら私にオールをとらせた。


「先生、私のどこが一番好き?」

ボートを漕ぎながら思い切って訊いてみた。 

「えぇっ? そうだなぁ」 先生が少し考えるような顔になってから

「オレのまだ知らないところかな」含みのある眼差しで私を見た。

ドキッ!

先生が意味した『オレの知らないところ』…いつも先生に対してよからぬ、私がかなりオマセな想像をしていることを見抜かれてるように思い、恥ずかしさに頬が熱くなった。

「あはは……何を言ってるんですか、先生」

恥ずかしさを誤魔化した。


「夕べね、君のこと考えてたら眠れなくなっちゃった…って明け方にちゃんと寝たけどさ」

先生はオールを持つ手を止めて私を見つめた。

「えっ?」

あの雪の日に私を抱きしめた熱情はそれだったの? 

 今、先生の眼はそう言っている。幾度もその機会はあった筈なのに“禁じられた関係”の中では届きそうで届かない。

そんなもどかしさを胸にためているのは私だけだと思っていた。

「先生でもそんなコトあるの?」

「そんな風にみえない?」

「っていうか、先生は、私のコトどのくらい好きかなって時々心配になるの」

時々じゃなくてしょっちゅうなんだけど。

でも一応プライドあるし。

「大好きだよ、そんなことが心配なの?」先生が優しい目をむけた。

先生の手が私の手にふれた。

私の手をギュッと握り締めて先生が言った。

「愛してる…」

水面をやさしい風がふわりと通り先生の髪を少し乱した。

仄かなパフュームの匂いが私の心をかき乱す。

この人はこんなにも私を甘美な想いに浸らせる。

先生の胸に頭をもたせ掛け 水面を見つめながら私は先生のすべてに溺れそうだった。

 いえ、溺れてました。

先生は私の両肩に腕を回して抱いた。

ボートの上で私を抱いたまま先生は言った。

「このままずっと君を抱いていたい」

私は先生の顔を見上げた。 先生の熱を含んだ眼差し。

「先生」

その後は言葉が続かなかった。 ただこうしていつまでも先生といたいと思った。

ゆっくりと私の体を離して先生が言った。

「オレ 君がどうしようもなく欲しくなるときがある。今こうして一緒にいるだけだって」

私も同じ気持ちだった。でもそれを口にするのははしたないような気がして黙っていた。

でも先生にはもっと言って欲しかった…先生がどんなに私を求めているか、どんな気持ちで私を抱いていたのか…いっそのこと何もかも忘れて激しく愛し合いたいと思った。

「でもさ、そんな時 自分が弱い奴だなって思うんだ」

先生は苦笑した。

「そんなこと……」

ないよと私は言いたかった。みんなやってることじゃんよと言いたかった。教師と生徒だっていうこと意外に何の妨げがあるのと私は言いたかった。 

 愛し合っていれば、お互いが求めていればそれでいいじゃん、最高じゃんと私は声を大にして言いたかった。

なのに私は言えなかった。

先生はどうしたってどう転んだって教師で私は生徒なんだ。

 こうして一緒にいるコトだって一応はいけないことなのに、その上抱き合ったり、その先までいっちゃったら先生は自責の念に捉われて身動きが取れなくなる。

挙句に先生の気持ちが私から離れていっちゃうかもしれない。

「オレは津田さんに対してそんな気持ちを持つのがイヤなんだ」

イヤったって、それがふつーじゃん。

先生と私はどうしたって男と女なのだから。

「私が生徒だから?」

私は先生の眼を真っ直ぐに見た。

「いいや、君が生徒でなくてもオレはやっぱり同じように思う」

きっぱりとした口調だった。

先生があまりにも生真面目にものを考えてるので私はちょっとハスッパな風に言った。

「私、先生ならいいけど先生はイヤなの?」

ちょっと媚びるような上目づかいで先生を見た。

「そういう意味じゃなくて、だけど君のイノセントを今のオレが奪うってどうなんだろう。それが正しいことだとは思えないんだ。神様がそんなコトをOKって言うと思う?」

神様かぁ。

 神様がOKしてない事なんか私、山ほどしてるよ。


「津田さんはオレのように神様を振りかざして善を唱えるのをバカバカしいと思う?」

先生は意外にも平然として言った。

「バカバカしいとは思いませんけど、それじゃあ自分の感情とか意志とかはどうなっちゃうんですか? なんでも神様の云うとおりにしてたらリモコンで動くロボットと同じじゃないですか」

私は両手を後ろについて少し反り返り、つまらなそうに呟いた。

「リモコンのロボットかぁ……ふ~ん、そんな風にも取れるか」

先生はニコニコしながらオールを手に取りボートを漕ぎ出した。

「ロボットはさ、そういう風にプログラムされてるだろ、リモコンの指令通りに。…壊れちゃえば別だけど。でもオレ達人間はそんな風にはできてない。もともと自由意志があって君の云うように感情だってある。 理想や哲学、信仰だってある。 人間には選択する自由があるから、たまたまある人は結婚していなくても“愛してれば”寝てもいいとか、“金で女を買う”ってことも合法ならいいじゃないか、と言う」

 私の周りの友達や大人達は大抵そうだよ。

「だけどいつも神様からのOKがもらえる選択しかしないのだったら、それはやっぱりリモコンのロボットと大差ないんじゃないかな…」

「するどい疑問だね。学校の勉強もそのくらい熱心だと成績上がるぞ」

「茶化さないでくださいよ~、 私、真面目に考えてるんですからね」

「ゴメンゴメン…津田さんがあんまりマジな顔してるから授業中もこんな風なのかなぁ、なんてさ…」

「そんなこと今関係ないでしょ、はぐらかさないでちゃんと答えてくださいよ」

先生は腕を組んで少し考えるような顔になった。

「セックスって神様からのギフトだって思う。 それも結婚した男女の間にだけ許される特別な…それを踏み越えれば多かれ少なかれ人は傷つくようにできてるんじゃないかな。 欲望が抑え切れずにプレゼントだけ先取りしてしまうケースもあるけど、そういうのって逆にせっかくのプレゼントをスポイルしちゃってるように思う。 クリスマスのプレゼントをずっと前もって花見時にもらうような…」先生のアナロジーが可笑しかったので私は微笑んだ。

「じゃあお花見にプレゼントを開けちゃった人はクリスマスには何ももらえないの?」

「う~ん、多分きれいに包装紙もリボンもかけてあって…でも箱を開けたら空っぽだった、みたいな」

「な~んだぁ、つまんない」

「オレもそう思う。 イヤだろ、そんなの」

私はついとリサ子とKさんのコトを思い出した。

リサ子はKさんとの子供を堕した時、泣いていた。

しばらくは、そして口には出さないまでも あの時のことは今でも辛い思い出として尾を引いているかもしれない。

 また、タエコおばさんのお店でも時折お客さんや板前さんが異性関係の縺れから揉め事が起るときは大抵“深い仲”になってからの事だ。

「何となく先生の言うコトわかる」と私が言うと先生はにっこりして

「なんか食べに行こうか? 性欲は充たされないとしても食欲は満たさなきゃね」   


 二人を乗せたボートは春の日差しにキラキラと揺れる水の上をゆっくりと岸にむけて進んだ。

 船着場にボートを返してから私たちは木洩れ日の差す公園の木立の中を並んで歩いた。

昼下がりのやわらかな空気につつまれて私は幸せな気持ちで先生の横顔を見た。

端正な目鼻立ちを意識するでもなく量の多いその髪をただボサボサと刈ってあるのを見て、私は先生ってかわいいな、と思った。


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