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蒼いパレット  作者: 黒薔薇姫
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第一話

私は偏差値のあんまり高くない高校の2年生。

友達が彼氏に夢中になっているのを尻目にバイト、ソーシャルライフ

それに部活の美術部で大活躍。

そんなある日、わが美術部に若い男の先生が顧問として赴任して来た。

見た目はどうってことないこの美術教師に私はいつの間にか惹かれていく。

恋愛にはひたすら頭でっかちな私がひょんなことからこの先生に接近、そしてそれが思わぬ展開を見せる。

ぶっちゃけた文体とあからさまな心理描写はきっと読者をにんまりさせるでしょう。


めずらしく雨の日が続いている

こんな日はふっと高校生だった頃を思い出しちゃう

日本の気候は雨が多かったから(今も?)そんな風におもうのかな。

二年生に進級して私は心から高校生活エンジョイしてた。 一年生の時ほど緊張してないし受験もまだチョイ先、校則では一応バイト禁止なのに二年生でバイトしてないっていう子は赤ちゃんか体育会系女子かってくらいのまったりした校風だったから部活とバイトを掛け持ちなんて子はザラだった。

もちろん私もそのうちのお一人

オシャレしてクラブ行くのも社会勉強するのにもバイトは必要不可欠、本屋さん、喫茶店、ケーキ屋さん、時給がよければなんでもござれ。

部活は一年の時から美術部と一貫してたけどね。

美術部に入ったのは絵の才能があったから。

 じゃなくて……。

ただ絵を描くのが好きだったから。バイトする前、一年生の時はもっと熱心だった。

ついでに芸術の選択も美術、他の授業の間でも退屈すると描いてた。

 常任顧問の本條先生は厳しくて部員の作品を褒めた事なんかないような先生。

まあ芸大出てるから私たちの落書きに毛の生えたような「芸術」観て感動するわけないんだけど。

戌井先生は年配の先生でたまに顔を覘かせて部員をおちょくる。 

ほとんど準備室に籠もって自分の作品を作るのに忙しそうだった。

 その日も私たち部員は部室に入るなりアイスクリームを食べながらアイドルとか試験の話しなんかしてたんだろか、どの部員もイーゼルを出しただけでお喋りに興じていた。

 油絵の具の匂い漂う部室に本條先生の後について見知らぬ若い男の人ふらっと入ってきた。

女子ばかりの部だったから男の人といえば教職員か学校に出入りの業者さんくらいしか顔を出さない。

おおかたフィキサチフを乾かす機械の修理屋さんくらいに思い「こんにちはぁ~」と間延した挨拶をすると「この子達が美術部員ですよ、お喋り倶楽部みたいでしょ」本條先生がその男の人にヤレヤレという表情を向けた。

「こちらは今年から非常勤講師として美術を担当してくださる早坂先生だよ。先生は西洋画を専門にしてるからよく見てもらいなさい」私達が顔を見合わせてクスクス笑うと本條先生は四角い黒縁のメガネを人差し指でツイと上げ、男の人の肩に手を置いて言った。

「初めまして、早坂隆です。皆さんよろしく」早坂先生はその場にいた十二、三人の女子部員を見てちょっと照れくさそうに挨拶した。

早坂先生はヤマアラシみたいなボサボサした髪にアイロンも当ててない様なシャツ、それに色褪せた黒いジーンズという初出勤日にしては到ってラフな服装だったけど涼しげな眼が印象的だった。

「みんなのスケッチブック見せてくれる?」一通り部員達の自己紹介が終わると早坂先生は広い机の周りに私達と座って言った。

「え~、下手だからやだぁ」山下先輩が言い、

「恥ずかしい~!見せらんない」さくらがスケッチブックをピシャリと閉じると先生は言った。

「まだ高校生なんだから下手でもいいんだよ。自分で上手いと思ったらそれ以上に上達しないだろう?」

まぁそうなんだけど 自分が一番に見せるのはイヤなの。美術部員はそういう面ではシャイである。

「ゴチャゴチャ言ってないで見てもらいなさい!」私達がゴネてると部長の今白先輩がピシャリと言った。

今白先輩って美人で気が強い。

 先輩はさっさとスケッチブックを早坂先生に差し出した。

早坂先生が先輩のスケッチブックを開いてひとつひとつのデッサンを見ている間、何人かの部員も先生の傍で「うま~ぁい!」「さすがぁ~」なんて感嘆しながら見てた。

「さすが部長さんだね、今白さん上手いなぁ」早坂先生も感心した。

他の先輩が「キヨちゃん(今白先輩)の後だとみんな引いちゃうもんね~」なんて言いながら先生にスケッチブックを手渡した。

 ページを捲りながら「このメヂィチ像なんか…なかなかいいよ、やっぱり三年生だよね」と先輩の顔を見て言った。

先輩はちょっと嬉しそうに「はい」と頷き「次は葵ちゃんの番よ。この子上手なんですよ、先生」

と隣りに座っていた私を指名した。

 先生は私の画集を取り上げ 表紙を開くと「あれ、これ誰のサイン?」

私はカッと顔に血が上った…。

「葵の王子さまだもんね、ジョン様。 先生、ボン・ジョビのコンサート行った時葵のキャーっていう声すごかったんですよお」さくらが私の顔を盗み見て言うと他の部員達もニヤニヤしながら

「ジョーン!」と囃し立てた。 ああ、恥ずかしい…。

「ファンなんだ。俺もロック好きだよ ACDCとかヴァンヘイレンなんかさ」ニコニコしながら先生は私の習作、スケッチブックのページを捲っていった。

「葵ちゃん、うまいね」何人かの部員が褒めてくれたけど先生はただ黙ったままデッサンを見ている。

「なんか言ってくんないかなぁ…」顔の火照りが引くと私は先生の批評が気になった。

「津田さんの……こういう線さ、ちょっとゴチャゴチャしてるね、鉛筆貸してくれる?」

今白先輩が脇からサッと4Bの鉛筆を差し出すと先生は私のスケッチブックの余白に鉛筆を走らせ始めた。

 ついと先生の手元を見て私はドキッとした。

大人の男の人の手……。

芸術家の手ってこんなに男っぽい手かな。

今までどの先生にも、っていうか男の人の手なんか関心なかったのに早坂先生の白いけど意外に骨っぽい手を見て胸が騒いだ。

それに先生のシャツの袖から伸びた腕にも大人の男を感じちゃったりして。

「ほらね、君が描いた影よりこうやって同じ方向に描いた線で影をつける方がすっきりするでしょ」先生は私の目をのぞきながら修正をしたデッサンを差し出した。

不意を衝かれた私は「はぁ」と先生の鉛筆描きを見た。

ちょっとの違いなのに鉛筆のストロークが変わるだけで段違いに見えた。

早坂先生って上手だな。それに…私は先生の描いた鉛筆の線をいつまでも見ていた。

石膏のデッサンが終わった後、描きかけの油絵にとりかかったけど早坂先生のことが気になって思うように筆が運ばなかった。


 家に帰り、二階の自室へ行こうとする私に後ろからお母さんが声をかけてきた。

「うちの婦人会のタエコさんが今夜、葵ちゃんにお店手伝ってほしいのですって、できる? 葵ちゃん」

タエコおばさんは駅前で“小料理屋”をやっていて店が普段より忙しいときや雇いの女の子が休んだりすると私に手伝いを頼んだ。

小料理屋というより飲み屋と言った方がピッタリなおばさんの店は中年のおじさん連中がお客さんのほとんどで、自分の娘みたいな年頃の私はお客さんから結構可愛がられた。

「タエコさんは水商売でも堅い人だから」と母は言って別に断りもしなかった。

おばさんは気前がよくてそこらのバイトをするよりお金はよかったから私は喜んで引き受けた。


 一学期の期末テストが終わると後は楽しい夏休みを待つだけ。

ほとんど授業に身が入らな~い。

芸術の授業は本條先生が担当だから一応きちっと出ていたけど内心、早坂先生だったらなぁ~なんて思ってた。夏休みの間も部活は一応あるものの 朝から晩までやるわけではなし運動部のように試合があるわけでもない。 部活の友達とみんなで泊りで海に行こうとか、ディズニーランド行こうとかそんな話で盛り上がった。

 そんなある日 私は親友のリサ子から大変な話を聞いた。リサ子はバイト先のファミレスで知り合ったKという大学生ともう一年も付き合ってた。

「葵ちゃん あたしね、妊娠しちゃったみたいなんだ」

リサ子は膀胱炎にでも罹った、みたいなレベルで話をはじめた。

「ウッソー、リサ子 それなんかの間違いだよ。そんな簡単に妊娠するわけないじゃん」

リサ子が彼氏とお泊りしてる事もそーゆー仲なのも知っていたけどまずありえないと思う。

“十代の妊娠”なんてティーン雑誌のスペシャリティみたいだけど フツーは滅多にないんじゃないの? 

「葵ちゃん、あたしマジでやばいんだ。生理もう2週間遅れてるし。Kさんにも言ったらね、一緒に病院行こうって言ってくれた」真面目で責任感強そうだもんね、Kさん。

「あたしも一緒に行くよ」

親友の重大事件に関わらないわけにはいかない。

「ありがと、葵ちゃん。 でも大丈夫、Kさんが付いてるから」

リサ子が弱々しく微笑んだ。

そっか、親友の私より今一番居て欲しいのはKさんなんだ、リサ子が頼ってるのは。

まぁ、状況が状況なだけにそうかもしれないけど。

 中学の時から親友だったリサ子がちょっと遠くに行ってしまったように感じた。

そういや麻里だってスーパーのバイトで知り合った十五歳も年上のおっさんと付き合いだしてから私達とは付き合い悪くなったしなあ、女の友情ってこんなものなの?

彼氏のいない私には友達より彼氏っていう彼女達がわからない。

それって私がガキっていう事だろうか?

飲み屋さんでバイトしてこれでも結構大人の世界は見てるつもりなんだけど。

大人通り越しておやじの世界かなぁ。

 その夏リサ子は妊娠した子を堕した。

電話の向こうでリサ子は泣いてた。 赤ちゃんが欲しかったからではない。

大好きな人との子を堕さなきゃなんなかったからだ。

心も体も痛かったに違いない。

麻里と私はリサ子を見舞った。

リサ子は顔が蒼ざめて少し痩せたみたいだった。

「Kさんがガキだからリサ子がこんな目に遇うんだよ、避妊くらいちゃんとするのが大人ってもんじゃないの」リサ子を見舞った後の帰りの電車の中で麻里が憤慨した。

「そうかなぁ、でもさ失敗する事もあるんじゃん」

実体験のない私にはKさんを責めてもしょうがないように思えた。

リサ子みたいな目に遭うんだったら私は男の人と寝たくなんかないとつくづく思った。


 夏休み中の部活は毎朝8時半から始まってお昼過ぎには解散ということになった。片付ける時間がお昼過ぎだという事で特にはっきりした時間もなく、まあきりのいいところでというのんびりしたものだった。

『文化祭に出展する作品もそろそろ手掛けなさい』と本條先生からお達しがあったのでポスタのデザインを考えたり“展示するにふさわしい”ものをこれまで制作していなかった部員は急に忙しくなった。そんな中、早坂先生は非常勤なのに戌井先生よりはずっとまめに学校に来てくれて私たちの作品を見てくれたり指導してくれた。

 ある朝 私はめずらしく時間より早く学校に着いた

「おはよう。今日は早いんだね」振り向くと早坂先生だった。

私は夕べの出来事を咄嗟に思い出した。

夕べはバイトの最中にタエコおばさんのお使いでスーパーマーケットに行ったのだ。

しかも夜遅くなってからだった。

お店は繁華街の中にあるからスーパーまで歩いて十分とかからない。

そこでバッタリ早坂先生に会ったのだ。

先に声を掛けてきたのは先生だった。

「やあ、こんな晩くにお家の手伝い?」そう言いかけてから 私が着けていたエプロンに気づいて

「ああ、バイトしてるの?」

マズっ!タエコおばさんのお店の名入りエプロンを見られちゃった。

「いいえ、母の友達のお店の手伝いで……」

飲み屋でちょいちょい働いてるって事は知られたくなかった。

「そいじゃ、失礼します」

あたふたとスーパーの袋を摑むと店を出た。

なんだか如何にも悪い事をしてるのを見つかっちゃった!みたいな態度とってしまって。

なんでこうなの、私。

自己嫌悪に陥った。

早坂先生が相手だとなんか調子狂っちゃう。

 何日か前もそうだった。

部活のとき、石膏デッサンのバランスを取ってたら先生が隣りに来て私の目線の高さに屈んで鉛筆で離れたところにあるモチーフの長短を計りはじめた。

私は先生の横顔、よく通った鼻筋から男の人にしては少し赤い唇、爽やかな剃り後のあるあごの線、のど仏の辺り……つい見つめてしまった。

先生のつけてる微かなパフュームが体温と混ざった匂いに私は眩暈がしそうだった。

「もうちょっと…こうかなぁ…? どう思う?」先生と私の目が合った。

私はゴクリと唾を飲み込みたいほど息苦しかったけど飲んだら大きな音が聞こえちゃうんじゃないかと思ってただ頷いた。

『どう思う?』って訊かれたんだから何とか言えばよかったじゃん…。

「先生のパフューム、萌えます、何使ってるんですか?」

まさかね。 

 もしかして私、先生に恋しちゃったとか?

キャー! つーか最初に見たときから私先生に“♂”を感じてなかった?

エエッ? やめようよ、そーゆー事言うの恥ずかしいじゃん……。

「夕べ 晩かったんだろう?家に帰るの。バイト何時に終わるの?」

先生がちょっと心配そうに言う。

「そんなに晩くないですよ、帰りは送ってもらってるし」

うそばっかり、大抵は深夜なのに。

「先生、学校に言いつける?」

ケーキ屋さんとか本屋さんのバイトなら平気だけど場所が場所なだけに気になった。

「オレそんな野暮なことしないよ。バイトしてる子、言い咎めたらきりないだろ。悪い事してるわけじゃないし」

非常勤講師の気軽さなのかな? 先生話しわかるじゃん。


 「Great White」の“This is Love”のサビの部分を思い出しながら私は心の中の早坂先生の存在を持て余していた。

部活に出れば先生と会えるとは言え“先生と生徒”として話す以外には何もできない。

それに先生と話そうとするとドキドキしちゃって気の利いたことが言えない。

そんな自分が不甲斐ない。

「ねぇ 早坂せんせってどうよ……」部活の帰り麻里にぼそっと言ってみた。

「別にィ、でも本條先生よりいいよね のんびりしてるしさうるさくないじゃん。でもあの髪の毛さぁ、どうにかしたほうがいいよね」

麻里は全然気づいてないんだ(ホッ)

おっさんと交際(つきあ)ってるわりには鈍いじゃん。

「なんでそんなこと聞くの? もしかしてさぁ、好きなんじゃないの? 葵ちゃん早坂先生のこと」

わわわ、やっぱ知ってたぁ。

「わかる?」わざとシラッとして言った。

「だって葵ちゃんこの頃部活まじめに出てんじゃん」

あ、そーゆーことね。

「なんで早坂先生? 他にもイイ男いっぱいいるじゃん」

麻里はクラブで私に声かけてきたオシャレな男の子達のことなんか言ってるのだ。

それはわかる。学校のような日常生活のシーンで恋を見つけるってなんかレイジーなふるまいだよね、あんまりオシャレじゃない。

でも麻里やリサ子みたいに職場恋愛、バイト先の中でだって日常生活とちがうか…?

「葵ちゃんマジ?ホントに早坂せんせー好きなの?意外だな、あの先生って全然オシャレじゃないじゃん」

私ってそんなにデザイナーブランド男が好きに見える?

「そこが逆にそそられるっていうか……」

「なんかあのシワシワのシャツにアイロンかけてあげたい、みたいな?」

「う~ん、わかんないけど」

大人なのに母性愛をくすぐるっていうか、そんな感じなんだろか。とにかく胸がキュンとなるのだ。

「そうなんだあ、じゃ協力したげるからね」麻里が任せなさいっ!てな調子で言う。

「みんなには言わないでよ、公認みたいなのヤダからさ」

さくらなんかはきっと騒ぎ立てるだろう。

「じゃさ、今度先生の誕生日聞いてプレゼントあげなよ」

月並みなアドバイスだけど それくらいから始めるか。


続く

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