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下天の夢  作者: 青木 航
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 信長が上座に座り、その前に四人の家老達が左右二人づつに分かれて座って、信長の面前で領地支配の様々な問題に付いて話し合う。分からないこと気になる事が有れば、信長が質問し家老達の誰かが答える。そして、最後に筆頭家老の林秀貞が意見を纏め、信長に報告し承認を得る。従来政務は、そんな形で進められていた。

 しかし、最近は様相が変わって来ている。特に重要でも無いことに付いては、信長は扇で首のあたりを叩いたり欠伸あくびをしながら、家老達の話を聞いているだけなのだが、家老達の意見が分かれて容易に結論が出ない様相を帯びて来ると、突然、甲高かんい声で結論を指示する。信長の支配欲が近頃強くなって来ていると家老達も感じているので、意見を押さえられた者は一瞬ムッとするのだが、反論が出来ない雰囲気になってしまっている。しかし、冷静になって考えてみると、信長の指示は的確である事が多いし、後になって正しかったと分かる事も度々有る。家老達の心の内にも、奇行に対する懸念は別として、信長の力量を認める気持ちも出て来ていた。


 信長は精力的に動いている。退屈そうに家老達の話を聞いているように見える時も、実は、様々な事に思索を働かせている。だから、堂々巡りの議論になると、ずばりと釘を刺す事が出来る。

 政務の他に弓、鉄砲の稽古の時は休まず動くし、兵法の講義を受ける時に居眠りすることなど無い。そして、小姓達を連れての野駆け、鷹狩と精力的に動き回るのだが、広間や居室に居る時は、眠そうに欠伸あくびをしたり、ボーッとしているように見えることが多い。

 そんな時、例えば道三からの使いの者が目通りしたとすれば、その服装と態度を見て、

『信長と言う男、手前の見たところ、間違いなくうつけの上に腑抜けに御座います』

と報告するに違いない。意識して ”うつけ“ との評判を立て、それを楽しんでいるかのようである。

 これは真人まひとの賭けである。何処かで子供扱いして来る家老達を黙らせ、ある意味独裁を確立しなければ歴史を変えることなど出来ないとの考えから必死で努力しているのだ。

 しかし、これは、ある意味賭けである。建前上、例え不満でも、あるじめいには従わなければならないのだが、時は戦国、下克上の時代なのだ。頼りにならないあるじとみれば、倒して取って代わるなど、世に溢れている。現に、帰蝶のちちや祖父はそうしてし上がって来ているのだ。


のう、膝をかせ」

 帰蝶が嫁いで来て後は、そう言って信長は、帰蝶の膝枕をすることが多くなった。

 “のう“ と言う呼び掛けは、美濃みのから嫁いで来た姫と言う意味である。

「こうしているときの殿は、まるで赤子のようで御座いますね」

 帰蝶はそう言って笑う。

「難なくひねり潰せると蝮に報告するか?」

 目を閉じたまま、信長がそう言う。

「まだ父を死なせたくは御座いませんので、世の噂に惑わされませぬようにとしらせます」

「もしそれがまことであれば、まだ、一部を領有しているに過ぎぬ尾張の平定に、安心して臨めるということじゃな」

 帰蝶は少し微笑んで、

「信じるか信じないかは、殿次第。わらわが蝮の娘であることを、お忘れなさいますな」

「ふっ、ふあっふあっはっは。そうであったな。蝮の子は、母の腹を食い破って生まれると申すから、油断はならぬのう」 

 そう言って起き上がると、信長は帰蝶に抱き付き押し倒した。

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