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下天の夢  作者: 青木 航
6/31

6

 擦り傷を作って衣服も汚して戻った時、家老達は、

如何いかがなさったのですか?」

と聞いて来た。蛇に驚いた馬が前立ちになり落馬したと説明すると、小姓達に向かって、

「そのほう達が着いていて何たることだ!」

と叱責し始めた。

「待て! 悪いのは出て来た蛇と、それに驚いた馬だ。小姓達になんのとがが有る。責めるなら、蛇を探して殺して来い。蛇ごときに驚いた馬を罰せよ」

 そう言うと、秀貞は何を言っているのかと信長に怪訝な顔を見せた。

「林殿、殿は小姓達に罪は無いと仰せなだけじゃ」

 年上の平手政秀が、秀貞をいさめた。黙って礼をして下がって行こうとする秀貞に、

「待て秀貞。わしは童の吉法師きっぽうしではないぞ。とうに元服を済ませた那古野なごや城主・織田三郎信長じゃ。以後、童に対するような態度は慎め」

 あるじは信秀であり、城も信長も信秀からの預かりものであるかのように思い込んでいる家老達の考えを、まず改めさせなければならないと言う真人まひとの気持ちから出た言葉である。

「申し訳御座いませんでした」

 信長の強い物言いに、四人の家老達は揃って頭を下げた。

 例え年若くともあるじあるじである。逆らう分けにはいかない。もしどうしても承服できなければ、信秀に訴えるしかないのだが、それでは結局、信用して任されたのに役目を果たせないと言うことになってしまう。家老達は信長に対する態度を改めるしかなくなってしまった。


 数日後、信長はまた、小姓達を従えて野駆けに出た。

 城下を見渡せる崖の上に出る。

「下馬して馬を繋げ」

 そう命じた。

 皆下馬し、それぞれ馬を木に繋ぎ、信長の前に並んで控えた。信長も下馬したが、くらに括り付けて持って来た頭陀袋ずだぶくろを外して、目の前に放り投げた。

「一郎太、世之介、此れへ」

 二人は信長の前に進み出てひざまずく。真人まひと案山子かかしのように両腕を広げ、

「二人でそれぞれ両の袖を持て」

と命じる。二人は信長が何をさせるつもりかいぶかりながらも、聞くことは出来ない。

「思い切り引け!」

と命じられ、思わず、

「敗れてしまいますが」

と言ってしまった。

「破れと命じている」

との信長のめいに、重ねて聞くことは出来ないので、思い切り引いた。両の袖が千切れる。

「袋を開けて、逆さにして振れ」

 そう言われて、慌てて袋の口紐を解き逆さにして振ると、火打ち石やら、大きさ長さ色の違う紐やら、その他ガラクタと思えるようなものが散らばった。縄も有る。

 真人まひとは自ら帯を解きその場に捨てると、縄を腰に巻き付けた。そして、ガラクタを、次々に帯に挟んで行く。

 小姓達は、半ば唖然として信長を見上げていた。

「袖など邪魔なだけだ。要らぬものは切り捨てる。要るものは常に身に着け、身の回りに置く、そのほうらも同じじゃ。尋ねる。年寄り達とわしに逆のことを命じられたら、どちらに従う?」

「殿のめいが先なら、”殿にこう命じられております“ と御家老衆に申し上げます。御家老衆のめいが先ならその旨殿に申し上げ、殿が”構わぬ”と仰せなら、殿のめいに従います」

「ダルいことを申すな。まずわしめいに従え。それで、年寄り達に叱責されたら、わしめいだと申せば良いのだ。他の者達の顔色など見る必要は無い。分かったか?」

 そう言われ、一同揃って

「はっ」

と、声を合わせて返事した。

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