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下天の夢  作者: 青木 航
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 真人まひとは信長の意識を感じた。

 元服直前の12歳の自分に、突然この那古野なごや城を任せ、父は、熱田あつたの近くの古渡城ふるわたりじょうに移ってしまった。

 父・信秀は林秀貞はやしひでさだ平手政秀ひらてまさひで青山信昌あおやまのぶまさ内藤勝介ないとうしょうすけと言う4人の家老を付けてくれていた。

 何れも父の重臣であり、実績の有る者達なので信秀は、幼い吉法師きっぽつしをこの城に残すことに不安は無かったのだろう。中でも、林秀貞と平手政秀の二人は、信秀の両の腕と言っても良い者達である。

 だが、吉法師きっぽうしは自尊心の強い子であった。十二歳で元服した後もこの四人の者達が実質的に全てを取りしきるのではないかと思い、単なる飾り物となることを拒否する気持ちが有った。

 真人まひとは、一体誰が信用出来るのか。そう考えるのだが、だんだん集中して考えることが難しくなっていくのを感じた。


 反対に真人まひととしての意識が次第に鮮明になって来た。この時代に付いてはかなり学んで来たつもりである。しかし、記録に残っていない事や記述の誤り、解釈の誤り等は山ほど有ることだろう。意識が鮮明になって来て、真人として考えれば考えるほど、十五歳の信長になり切れるのか、次第に不安が増して行くのを感じた。


 初老の男が入って来て座り、信長に丁寧に挨拶した。

『四家老のうちの誰かなのだろうが、誰か分からない』

「殿」と、初老の男は15歳の少年である信長に語り掛ける。殿などと呼ばれていても、信長の家は、尾張国の下四郡しもよんぐんの守護代であった織田大和守家(清洲織田家)の家臣にして分家であり、清洲三奉行の一つ弾正忠家だんじょうのちゅうけと言う家に過ぎない。

 だが、父・信秀はその地位に甘んじているような男ではなく、野心に燃えのし上がる事を常に考えていた。

 天文7年(1538年)頃、信秀は、今川氏豊の居城の那古野城なごやじょうを謀略で奪い取り、ここに居城を移して愛知郡に勢力を拡大した。そして翌年には、古渡城ふるわたりじょうを築いて居城とし、良港・熱田を津島に続く2つ目の経済的基盤として更なる勢力拡大を図っていたのだ。

「斎藤道三様の御息女ごそくじょとの婚儀がめでたく整いましたので、ご報告申し上げます」

 初老の男はそう報告した。

『美濃に出向き道三の娘との婚約を纏めたのは、確か平手政秀だ』

 真人まひとはそう記憶を確認した。

「政秀、大儀であった。まむしの娘、どのような女子おなごであった?」

と聞いてみる。真人としてみれば、見たことも無い女と今後夫婦として暮らし、営みもしなければならないことになるのだから、少しでも情報を得たいと思ったのだ。

 「申し訳御座いません。姫とはお目に掛かっておりません」

「そうか。それは残念。わしの胃の腑を食い破るような女子おなごかどうか、その方の見立てを聞きたかったのだがな……」

 結局、どんな女か全く分からない状態で婚儀の日を迎えなければならないということだ。政略結婚なのだから、もし嫌な女だったら、形だけの夫婦めおとを演じれば良いだけのこと。この時代、そんな夫婦めおとはいくらも有ったろうと思う。

「殿、姫のお輿入こしいれ後は、お言葉に気を付けられるようお願い申します。姫付きの腰元達は、即ち、道三殿の目であり耳である訳ですから……」

 なるほど、政略結婚とはそう言うものなのかと、真人は思う。

「そうであったな。親父殿は2年前にまむしに負けておったのであったな。こちらの腹の内を、常にまむしに見せなければならなくなると言うことか」

 間者かんじゃと言うのか、スパイを常に身の回りに置く生活、本音を見せられない生活と言うことかと思い、“夜もおちおち眠れないじゃないか”と考えると不安である。

「殿、そのような戯言ざれごとは、今後、お控え頂かなければなりません」

と平手政秀は信長に迫った。”口も慎めと言うことか“ と思うが、そんな窮屈な生活は御免被りたいものだと思う。

『やはり、家老達は俺を操り人形にしようというのか』

真人まひとは思った。そして、何か打開策を考えねばならないと思った。

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