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下天の夢  作者: 青木 航
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 既に述べた通り、戦国時代の権力の構造は重層的であり複雑であり、且つ、刻々と変わる。

 守護・斯波しば氏の代理である守護代の織田氏も伊勢織田家と清洲織田家に分かれて争っている。弾正忠家だんじょうのちゅうけの主筋となる清洲織田家も当主は織田信友なのだが、代理の更に代理と言う立場の坂井大膳らに実権を握られてしまっていた。

 この坂井大膳らは、信秀の生前、信秀が美濃攻めをしている留守を突いて古渡城を攻撃して来たりしていたのだが、平手政秀が交渉を繰り返し、和睦にこぎ着けていた。


 平手政秀が自刃し信秀も死に信長が跡を継ぐと、この坂井大膳も和睦を破棄し、信長の配下となっている松葉城の織田伊賀守と深田城主である信長の叔父・織田信次を人質に取って反旗を翻した。

 この報せを聞いた信長は、8月16日早朝に那古野城なごやじょうを出陣すると、庄内川付近で、守山城から駆けつけて来た信次の兄・織田信光と合流。兵を分け信長自らは、叔父・信光と共に庄内川を越し萱津へと移動した。

 信長のそばには、小姓になったばかりの14歳の前田犬千代が着いていた。派手な格好をして街をほっつき歩き、喧嘩ばかりしている傾奇者かぶきもので、親も手を焼いていたのだが、その噂を聞いた信長が面白がって、陪臣の子ながら召し出して直臣とし、小姓に取り立てていた。

「初陣だな。怖くはないか?」

と信長が聞く。

「喧嘩だって、一つ間違えば死ぬことは有ります。死ぬのが怖くては、喧嘩も出来ませんよ」

 恐気おそれげも無く犬千代はそう答えた。

「口の減らぬ奴め。ならば、先陣に混じって行って来い。運が悪くとも、一度死ねば二度とは死なぬ。安心せよ」

「なんですか? それ。死にはしませんよ。敵の首取って帰って来ます。褒美でも考えといて下さい」

 信長にこんな口を効く者は他にいない。辰の刻(午前8時ごろ)に戦端が切られた。

「行けー!」

と言う信長の号令と共に、先鋒が押し出し、その中に混じって、犬千代も駆け出して行った。

 数刻交戦の末に信長方は、坂井甚介を討ち取った他、清洲方の50の首を取って勝利した。前田犬千代は、まげを掴んで敵将の一人の首をぶら下げて戻って来た。

 手を分けた他の隊も圧勝し、信長は余勢を駆って清洲の田畑を薙ぎ払った。

 しかし、敗北し坂井甚介亡き後も、清洲方は信長への敵対関係を解くことはなかった。


  信長の苦境はまだまだ続いた。織田方だった寺本城が今川方に寝返り、その軍勢が信長の居城・那古野城と緒川城の間の道を塞いだのだ。

 信長は寺本城を避け船で渡海して、今川方が築いた村木砦を背後から攻撃しようと考えた。

 ただ、清洲方との争いも終わってはいない今、信長の留守中に那古野城が攻撃されることが予想された。

「今、城を留守にするのは危のう御座います。寺本城を攻めるのは、今少し様子を見られてからにした方が宜しゅう御座います」

 林秀貞らは、信長にそう進言した。

「いや、すぐに対応する必要が有る。まだまだ様子見をしている者は他にもおるに違いない。わしがすぐに手を打てぬと見れば、寄らば大樹の陰とばかりに、今川方に寝返る者が続出することになる。わしを裏切れば報いを受ける事を骨の髄まで分からせねばならん」

 信長は不退転の決意を示した。しかし家老達は、

「清須に隙を見せては、逆に我等が滅ぶことにもなりかねませんぞ。ここは、どうぞお止まり下さい」

と反対した。

「留守に城を守る者はおる」

 信長は平然とそう言う。

「えっ、何処に?」

 林秀貞が聞く。

「美濃のおやじ殿に兵を貸してもらう」

と信長が答えると、家老達は一樣に驚き、

「そんな無茶な……。お方様の父上とは言え、相手は、美濃一国を乗っ取った蝮の道三ですぞ。美濃の兵をこの城に入れたりすれば、これ幸いとばかり乗っ取られるに違いありません。それは、余りに危ういお考えです」

と必死で止めに掛かった。

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