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下天の夢  作者: 青木 航
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 世間からはまむしと呼ばれる斉藤道三さいとうどうさん。うつけと評判の織田信長に娘を嫁がせたのも、隙を見て弾正忠家だんじょうのちゅうけを乗っ取ろうと図っているのだろうというのが、世間の噂であった。

 ところが道三は、娘婿・信長を宜しく頼むと各方面に働き掛けていた。それは、娘・帰蝶が、“信長は決してうつけなどではない” と再三知らせて来ていたからである。道三も人の子の親であったと言うことか。

 ところが、長年争って来た相手ではあるが、その力を認めていた信秀が急死した。急に後ろ盾を失った信長が、果たして弾正忠家を纏めて行けるのかと言う不安が生じた。

 帰蝶は、信長は先を見通す目を持っていると言って来ていたが、うつけであると言う評判は広まっている。ひょっとして、帰蝶の見る目が狂って来ているのではないかと言う疑いを持った。しっかりした娘ではあるが、男としての信長に惚れてしまい、見る目が曇ってしまったということも考えられる。


 道三どうさんは、信長と言う男の実態を、己の目で確かめてみようと思い、早速、会見したい旨の書状を信長に送った。場所は、美濃、尾張の国境くにざかいではあるが、双方から税を免じられている謂わば中立地帯と言える富田に在る正徳寺を指定した。


 会見当日、道三は正徳寺近くの藪に人数を隠し、例え舅に会う為と言えど、無防備にのこのこ出掛けて来るようなうつけなら、帰蝶がどう思っていようと討ってしまおうと思った。そして、帰蝶を強引にでも連れ戻そうと考えた。

 もし、世間の言う通りのうつけなら、自分が討たずともいずれ誰かに討たれてしまう。そうなれば、帰蝶も巻き込まれて死ぬことになる。その前に信長を討って帰蝶を取り戻すことが最善の策であると思った。


 早めに富田に着いた道三は、兵達を藪に隠した後、街道の見える場所に有る物置小屋のような場所に潜んで様子を見ることにした。様子を見るだけなら物見の者を配せば良いのだが、自分の目で信長と言う男を見極めた上で、討ってしまうかどうかを判断したかったのだ。その上で、討つと決心が着いたら、藪に潜んでいる兵達に伝令を出し、会見している間に寺を包囲するよう段取りするつもりだった。


 約束の刻限が近付いた頃、尾張の方角から来る一団を見て、道三は驚愕した。

 先頭の馬に乗る男は、確かに世間の噂通りの格好をしたうつけ信長に違いないのだが、その後に長々と続いているのは、朱の長槍を立てた数百の足軽隊。その後には、弓・鉄砲を持たせた足軽隊が、また長々と続いている。美濃と一戦をも交えられる数の軍団である。とても、道三が率いて来た手勢で討てる数ではない。逆に、信長がその気であれば、その率いて来た手勢共々、道三を討ち取れる数ではないか。うつけは世間を謀る為の姿。先を見通せる男と言う帰蝶の報告に間違いはなかった。


 道三が手勢を潜ませているだろうこと。信長を値踏みしようとしていることは、素破すつぱからの報告により信長は把握していた。

 彼の知る歴史とは違い、弾正忠家を掌握する前に信秀が急死してしまい窮地に陥っていた真人まひとであるが、信秀の代わりに道三を後ろ盾とすることを考えた。その為には道三を驚愕させ、世間の噂に逆らっても信長を認め、そればかりではなく、美濃の安泰の為にも信長と組む必要が有るとまで思わせなければと考えた。

 そして、真人が居た元の世界の史書に書かれていた、那古野城下での軍の行進を道三に見せ付けることを思い付いたのだ。

 信長自身がうつけの姿のままだったのは、その姿が世間を欺く為のものであったと知らしめる為だ。


 一瞬道三は、信長の方こそ、この機会に自分を討ってしまおうとして軍勢を率いて来たのかと思った。もしそうであるならば、手勢を纏めて、一刻も早く美濃に逃げ帰る必要が有る。

 だが考えてみれば、今の信長は四面楚歌の状態にあるのだ。味方に取り込める可能性の有る相手は自分を置いて他に無いだろう。とすれば、信長が力を見せ付けようとするのは、組むに足る相手であることを道三に認めさせる為に違いないと思うに至った。

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