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下天の夢  作者: 青木 航
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 那古野城なごやじょうに戻った信長。自室に籠もった信長、即ち真人まひとは考えていた。

 平手政秀の奮戦も虚しく安祥城は落ち、兄・信広は敵に囚われ、大き




な被害を受けた那古野勢と共に平手が戻って来る。どう迎えるべきか。これを期に軍事権を掌握しなければならないと思った。


 何度か急使が入り戦況のきびしさを伝えて来たが、信長直々の出馬を乞うものではなかった。

 やがて、ぼろぼろに打ち負かされた軍を率いて平手政秀が帰城した。

まことに申し訳ありません。安祥城あんじょうじょうは敵の手に落ち、信広様は人質になってしまわれました。手前が至らぬばかりに、申し訳御座いません」

 平手政秀は床に頭を付けたまま、そう詫びた。

「父のめいとは言え、城主たるわしを無視して兵を動かした結果がこれか?」

 真人まひとは敢えて強い言葉を平手に掛けた。平手は答えなかった。と言うより答えるべき言葉がなかったのだ。

「良い。傷付いた者の手当、死んだ者の遺族への対応、抜かり無く致せ。下がって良い」

 厳しいことは言ったが、くどくど責めることも無く、信長は平手を下がらせた。


 その後、信長はもう一度父・信秀を尋ね、自分の頭越しに那古野城の兵を動かさないよう依頼し、信秀も承服した。この会見の時、信長は信秀の老いの影を強く感じていた。

「信広は妾腹しょうふく正嫡せいちゃくであるお前に家を継がそうと思っていたが、お前の評判は余りに悪い。そこでな、正直に言えば、信広、信長、信行の鼎立ていりつによって弾正忠家を守らせようと言う考えに変わって来ていた。だが、この前の話でお前の本心が分かった。やはり、お前に全てを継がせよう。今川とは講和し、人質としている松平広忠の子・竹千代と交換ということで、信広は取り返す。その上で、お前の本心を家臣一同に明かし、弾正忠家の意思を統一する。それらの目処めどが付けば、わしは隠居するつもりじゃ」

 信秀はそう考えを明かした。家中かちゅう殆どの者が信長をうつけ扱いする中で、父だけは実態を見る目を持っていてくれたと信長は感謝した。

 信長は今川との和睦に反対であったが、織田の人質となっていた松平信忠の子・竹千代(後の家康)と兄・信広との交換と言う条件での和睦を渋々認めた。

 信長の弾正忠家の家督継承は、信秀が主導して進めて行くことになったのだが、その矢先、天文21年(1552年)3月に父・信秀が急死してしまったのだ。


 正室の子であり嫡男ちゃくなんである信長が家を継ぐことに表向き反対する者は居なかったが、信秀による家臣の意思統一は全く進んでいなかったので、家臣達の信長に対する見方は冷ややかであった。


 信秀の急死を受けて、早速、今川が動き出す気配を見せているばかりでなく、尾張内部でも、弾正忠家だんじょうのちゅうけの外部には清洲きよす城の尾張守護代・織田大和守家も弾正忠家を潰そうと動き出し、弾正忠家の内部にも弟・信行の方が後継者として相応ふさわしいと考える者も多く居た。信秀の急死に寄って、信長は苦境に立たされたのだ。

 信長は知らないことであったが、その頃、美濃の斉藤道三は周囲の領主に宛てて『信長と言う男、若造で至らない点も有るがご容赦を』との書状を出していた。


 葬儀の段取りは、末森城の重臣達に寄って進められ、段取りが整った後、信長に知らされた。信長は、正装もせずいつもの格好のまま、末森城に単身馬で駆け付けた。見渡すと、喪主の席に母が座り、隣に勘十郎・信行が席を占めている。

 祭壇の正面、離れたところで下馬し、信長は近付いて行った。折り目正しく着座している信行とうつけ丸出しの信長を見比べるように、家臣達の目が注がれている。


 信長は祭壇に近付き、抹香まっこうを鷲掴みにし、それを祭壇に向かって投げ付けると、きびすを返して馬に乗り駆け去ってしまった。

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