番外編2-3
※ホラーではないです。
火葬施設の高い煙突から出る白い煙が青い空に広がり、薄くなって消えていく。
それを見上げながら花恵は隣に立ち、同じように空を見上げている圭花の手を繋いだ。
「こんなに早く逝くなんてね……浩一さんはどこまでも薄幸な人……
きよちゃん? 大丈夫?」
空を見上げたままの圭花が無表情なのが気にかかる。彼女の二度目の生の支えが浩一だったから。
「大丈夫よ、お母さん。パパよく頑張ったなって思いに耽ってただけ。胃癌見つかってから三年持ったんだよ。せっかく手術したのに、また再発して……でも痛いとか辛いとか一言も言わなかった。わたしのパパすごいよね」
無表情のまま淡々と語る。
「きっときよちゃんがいたから浩一さん頑張れたんだと思うわ。あの時まだ四年生になったばかりだったじゃない。それからずっと献身的に看病して素晴らしかった。だから、まだまだ足りないなんて悔やまないでね」
「うん。これで気持ちは済んだ。すごく幸せだった」
花恵は「よかったわ」と、深くうなずいた。
「パパ、命の消える寸前、わたしのこと『由姫』って呼んでくれたの。ずっと由姫って呼んでいいよって言ってたのに、圭花に気を遣って絶対呼ばなかった……
握ってた手を握り返してね、『ありがとう』って……」
今まで無に保っていた圭花の表情がくしゃっと歪む。「ママも由姫もいなかったけど、パパの人生幸せだったよね?」
「ええ、あなたのおかげでね」
花恵の言葉に泣き笑いを浮かべる圭花に、「これからは自分のために生きなきゃね」と続けたが、返事がない。
「圭花?」
「ねえお母さん、わたし幸せになる資格あるかな?」
「なに言ってんの。あるに決まってるじゃない」
「でもわたしは人ごろ――」
「それは違うわ。あなたはやられたことをやり返しただけ。後はわたしがやらせた。悪いのはあなたを利用したわたしよ」
「でも……わたしを産んでくれた」
「そうよ。それを条件に悪いことをさせたの――でもね、後悔はしていない。わたしは自分の幸せを守っただけだもの。
だからね、きよちゃんは何も心配いらないの。これからは圭花として幸せになっていくのよ。
わたしはあなたを全力で守る」
花恵は圭花をじっと見つめて微笑んだ。
「お父さんもお祖母ちゃんも、知ってる人みんなお母さんのこと寛大ですごく優しくて良い人だっていうけど――わたしは一番怖い人だと思う」
「確かに」
二人は同じ表情で「ふふふ」と笑った。
「お姉ちゃ~ん」
圭司に連れられ、施設に併設された喫茶店に行っていた圭永が、花恵たちに向かって走って来た。その後ろで圭司が、「そろそろ骨上げの時間だよ」と、手を振りながら呼んでいる。
「わかったわ」花恵も手を振り返した後、
「これからはお父さんを一番に愛してあげてね。ずっと寂しいの我慢してたんだから」
「わかってるよ。圭花の大事なお父さんだもーん」
そう言って走り出し、弟と並ぶと圭司の許へ戻っていく。
花恵はもう一度青空を仰いで微笑み、自分も夫に向かって歩を進めた。
圭司の隣に立った圭花が、自分から父親と腕を組んでにこっと笑う。
初めての娘の行動に驚き、口を開けたままの圭司が妻を見遣る。
戸惑うような、でも嬉しそうな、そんな複雑な表情がおかしくて、花恵は声を上げて笑った。
これで終わりです。




