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番外編2-2

※ホラーではないです。

        

  

 玄関を開け、誰もいない暗い部屋に向かって「ただいま」と挨拶する。前妻が、由姫が、曜子が、そして見ることのできなかった子が、闇の中から「お帰り」と駆け出て、浩一を迎えてくれる。

 だが、それは浩一の脳内だけの映像だ。

 手探りで玄関脇にあるスイッチを入れると、すぐ横にある流し台だけのキッチンに明かりが灯った。

 コンビニ弁当が入ったレジ袋を流し台のカウンターに置き、小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してマグカップに注ぐ。

 壁際に立てた折り畳み椅子を流し台の前に広げ、浩一はそこに座って、もそもそと弁当を食べ始めた。

 キッチンの明かりに浮かぶ奥の六畳一間の壁には小ぶりの座卓が立てかけてあるが、一人の食事で広げたことはない。あれは圭花がお泊りに来た時に使用するものだった。

 月に一、二回花恵が娘と浩一の好物をお重に詰めて、このアパートまで圭花を送ってくる。

 不思議と圭花の好物は由姫と同じで、浩一はそれだけで何とも言えない安らぎと癒しを彼女(圭花)から与えられた。

 最初「こーちぱぱの部屋にお泊りしたい」と、圭花が言い出した時、由姫が帰ってくるようで嬉しかった。

 だが、いくら自分に懐いてくれているとはいえ、よそ様の子供を男やもめの部屋に一人で泊めることなど、いくら圭花に甘い親とは言え、許可などしないだろう。そう浩一は残念に思ったが、花恵は快く許してくれた。圭司は怒っていたが普通これが親の反応だ。

 彼女がなぜ自分にここまでしてくれるのかはよく理解できなかったが、寛容さには感謝しかない。すべてを失った自分に、いや、己のミスで最愛の娘を死なせてしまった自分に、もう一度あの甘やかな時間を送らせてくれているのだから。

 今では多永子も黙認してくれるようになった。初めの頃は圭司とともに憤懣やるかたない表情で、花恵に意見しているようだったが、第二子が産まれ、それが男児だったことにより、多永子はそちらに気を取られるようになった。

 それにより圭花が蔑ろにされるのではないかと不安になったりもしたが、そういうことになるわけでもなく、我が子のことでもないのにと苦笑しつつも一安心した。

 しくしくと痛みだす胃に、食べかけの弁当を流しに置く。

 弁当コーナーに唯一残っていたのが唐揚げ弁当だったのでそれを買ってきたが、ここ最近揚げ物の総菜が胃にもたれる年齢になったことを実感する。

 それを思うと圭花が持参する花恵の作った総菜は優しい味付けのものばかりだ。

 覚束ない手つきで、小皿におかずを取り分けてくれる圭花を思い出し、自然と笑みが浮かんだ。

 彼女を見ていると由姫の面影が重なる。たまに本当に由姫がいると勘違いしてしまい、戸惑うこともあった。

 そんな時、聡い圭花はどうしたのかと訊いてくる。家族のいない事情を母親から聞いて知っていても、まさか自分を慕ってくれる少女に今は亡き娘に見えるなどと言えるわけがない。身代わりにされていると、きっと傷つくだろう。

 圭花は圭花、由姫ではないのだから。

 だが、お泊りに来たある日、あの子(圭花)は言った。

「お泊りの時はわたしのこと由姫って呼んでいいよ。わたしもパパって呼ぶから」と――


 それを思い出し、浩一の目に涙が溢れて頬を濡らす。

 もちろん、嬉し涙だ。

 食べかけのコンビニ弁当を見つめ、こんな侘しい人生になってしまったが、自分はなんて幸せものなんだと、浩一は微笑みながら嗚咽した。


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