番外編2-1
※ホラーな内容ではないです。
「こーちぱぱ、ちゅき」
圭花が、浩一に抱きついて頬にキスをする。花恵はそれを微笑ましく眺めていたが、隣に座る圭司は苦々しい表情で二人を見ていた。
「きよちゃん。おとしゃんには?」
幼児語で右頬を指さしながらテーブルに乗り出すも圭花は浩一にぎゅっと抱きついて、実父をじと目で見返す。
「もうっ、圭司さんったら――きよちゃんは浩一さんが大好きなんだから邪魔しちゃだめよ」
花恵は苦笑しながら圭司を諫めた。
花恵が出産して二年が経つ。
多永子に名付けを頼むと泣くほど喜んで、圭司と花恵から一字を取って圭花と命名された。多永子はそれはそれはかわいがり、将来が心配になるほど甘やかしていたが、幼い時分はそれでもいいと花恵は黙認している。それに聡い圭花にはそんな心配は無用だ。
昨日が二歳の誕生日。家族でパーティーを催したが、きょうは浩一がプレゼントを渡したいと、多永子を除く花恵たち家族は浩一の住むアパートそばのファミレスに来ていた。
浩一は曜子とお腹の子供を失くしてから、片倉家から離れた。多永子の意思で、曜子たちの遺骨は片倉家の墓に入れられたからだ。法事も多永子が主催するのとは別に浩一個人で営んでいる。
その際、花恵は圭花を連れて参加する。もちろん圭司も一緒だ。
初めて圭花が浩一と出会った時、我が子は叔父を甚く気に入り、実父よりも懐いてしまった。
花恵はその事情を弁えていたが、何も知らない圭司は面白くない。
きょうも付き添いは花恵だけでも十分なのに、自分もついていくと言って聞かず、一緒に来たのだ。
浩一の前では出さないが、たまに不平不満を零す圭司に、
「浩一さんの纏う孤独や寂しさを幼い子供なりに感じ取って放っておけないのよ。あの子お利口だから。だからそっと見守ってあげて」
花恵はそう諭した。それでも納得できない表情を浮かべてはいるが。
圭花は浩一から貰った包みを開け、嬉しそうな声を上げた。ピンクのクマのぬいぐるみ。
多永子が与える高級感漂う品物よりも圭花は喜び、ぎゅっと抱きしめて離さなかった。
「よかったわね。きよちゃん。大事にするのよ」
そう言うと、「うんっ」と返事してから、もう一度浩一の頬にキスをする。
圭司が「うぅ」と唸った。
なるべく圭花の思うように浩一と触れさせ、花恵は圭司を抑えつつ、微笑ましく見守った。
圭司が運転する帰りの車中、後部座席のチャイルドシートで眠る圭花の腕の中にしっかりとぬいぐるみが抱き締められていた。それを見てから花恵は未だぶつぶつと不満を吐き出している圭司に顔を向け、思わず吹き出してしまった。
「な、なんだよ」
「もう、圭司さんってば、心狭すぎ――彼の身の上を思えば構わないじゃないの。圭花が心優しく育っているって証拠なのよ。
それにあの子の父親はあなたなんだから、何を心配することがあるの?」
そう言っても、「でもな……なんだか寂しい…」と唇を尖らす夫に花恵はまた吹き出した。
「あなたにはわたしもこの子もいるんだから我慢して」
花恵はそっと腹に手を当てた。
「えっ、えっ、ええっ? 二人目? うそっ、え? ほんと?」
「ちょっ、圭司さん、運転に集中してよ、もうっ――嘘なんか吐かないわ。きのうお医者に行ってきたもの」
「そ、それで?」
「四ヶ月めに入るのですって。
ここ最近少し体調が悪いなって思ってたんだけど、まさか妊娠だなんて――ふふふ、今度は男の子かもですって。お義母さんにはまだ報告していないんだけど……」
「お、男の子ぉ? やったぁぁぁぁ」
圭司がハンドルを放して両手を挙げる。
「きゃっ、やだ、気を付けてってば。
『かも』よ。『かも』なのよ。あんまり期待しちゃだめよ。もし違ったらお義母さんも悲しむから……」
あ、だめ、この人聞いてないわ……
花恵は苦笑しながら、喜びに満ちた圭司の幸せそうな横顔を見つめた。




