番外編1-1
もう少しで花恵を手に入れられると思っていたのに、結局圭司と元のさやに納まってしまった。
泰斗は苦々しい顔で温くなったビールを呷った。
「せっかく金持ちの奥様になるとこだったのに……」
場末のスナック『カナコ』のママがカウンターの中で苦笑を浮かべる。
「は?」
「美土里のことよ」
深夜も過ぎ、ママは入り口の隅に行くと電飾看板のプラグをコンセントから引き抜いた。
「ふん。ちゃらちゃら浮かれてるから失敗するんだ」
今夜も客は少なく、二時間前から泰斗一人の貸し切り状態になっていた。
「それにしても圭ちゃんの奥さんってできた人ね。あんだけ蔑ろにされても全部許したんでしょ? 妻の鑑だわ」
その『鑑』を妻にできると思ったのに、あの優しい微笑みと淑やかな仕草に癒される毎日を送れると思っていたのに。
「やっちゃん、実は狙ってたでしょ」
「は?」
「ほっほっほっ。あたしの目は誤魔化せないよ。あんたその奥さん狙ってたでしょ、って言ってんの」
高笑いするママを泰斗は鼻で嗤った。
「ふっ、せっかくいい暮らしができるようにお膳立てしてやったのに、美土里はドジだ」
「あらやだ、恩着せがましい。利用しただけでしょ」
ママが煙草に火を点け、ふーと長い紫煙を吐く。「あーあ美土里もやめちゃったし、新しい娘入れなきゃと思ってんだけどね……こんな小汚い店じゃ、若くてかわいい娘なんて来てくれないわ……」
自分も煙草に火を点けてから泰斗はママを横目で見た。
「なんだ、それ? 店を何とかしろって、僕に言ってるように聞こえるんだけど?」
「え? 何とかしてくれんのぉ。嬉し~い。そしたらとびっきりかわいい尻軽娘入れちゃうわ」
ママの芝居がかった言葉に、泰斗は鼻から紫煙を吹き出しながら笑った。
「あれだろ? ママはまた圭司にハニートラップ仕掛けろって言ってんだろ? でももう無理だよ。伯母さんが目を光らせてんだ。美土里の件も僕が唆したってバレてるんだろうな」
煙草の火を灰皿でぎゅっと潰して、泰斗は遠い目をした。
ママが二本目の煙草に火を点けてから、泰斗の耳に自分の口を近づける。
「店の改装は諦めるわ。けど、少しでもお金を用立ててくれるなら――いい情報あるんだけどな」
怪訝な表情を浮かべた泰斗にママがにっと笑った。




