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※愛人、不倫、妊娠、不妊、死産等などの描写・表現があります。不快に思われる方はご遠慮ください。

※残酷な描写があります。ご注意ください。

        


 夕食後、リビングテーブルに置かれた多永子のスマホが鳴った。

「はいはい、ちょっと待って。あら、浩一さんだわ……わたくしに電話なんて珍しいわね、何かしら?

 はい、もしも――」

 平静さを失くした浩一から話を聞いた多永子は悲鳴を上げ、持っていたスマホを滑り落とし、自らも足元に(くずお)れた。

「お、お義母さん、どうしたんですか?」

 食後のお茶の用意をしていた花恵が、夕子とともに多永子のそばに駆け寄る。

「よ、よ、よ、曜子ちゃんが曜子ちゃんが――」

 真っ白い顔で座り込んだまま、焦点の定まらない視線を空中に漂わせている多永子は、頭の片隅では冷静にならなければと思う一方、身体はがたがたと震えるばかりで、まったくいうことが利かない。

 花恵が床に落ちていたスマホを拾い、「もしもし?」と訊きながら耳に当てている。

 まだ切れていなかったのか、話を聞いて顔色を変え、「わかりました。すぐ行きます」と返事して電話を切る。

「お義母さん、早く病院へ行きましょう」

 多永子の腕を取って花恵が急かしてくるが、

「う、嘘よ。あの男、きっと揶揄(からか)っているんだわ。わたくし行かない……絶対いやよ」

 きっと悪い冗談だ、そう思っているのに、涙が溢れてくる。

「お義母さん――曜子ちゃんが待っているわ。早く行ってあげないと」

 静かに諭す花恵の頬にも、とめどなく涙が流れていた。

 多永子は俯いていやいやを繰り返す。

 行けない。行ったら浩一の冗談が真実になってしまう。

「若奥様……お嬢様がどうかされたんですか……」

 戸惑った表情を浮かべた夕子の問いに花恵が声を詰まらせ、「曜子ちゃんが亡くなったらしいの」と小声で説明している。夕子の息を呑む音が聞こえた。

「夕子さん、もうすぐ終業時間なのに申し訳ないんだけど、お留守番頼めるかしら? わたし、圭司さんに連絡して――彼が来たら、家に戻ってくるからそれまでお願い――」

 通いの夕子の家は歩いて十分ほどの住宅地にあり、片倉家の運転士木内吾郎とは夫婦だった。

「ずっとついてらっしゃらなくていいんですか?」

「……ええ。圭司さんが片倉家の跡取りで、責任者ですもの。後は任せてくるわ……わたしは……きっとお邪魔だもの。だから今だけお義母さんの付き添いで、とりあえず行ってくるわ」

「はい……」

「あ、それから時間外で申し訳ないんだけど、吾郎さんに車を出せるか電話で訊いてもらえるかしら。もし、もうお晩酌済んでいたら、タクシーを呼んでもらえる?」

「……かしこまりました」

 夕子がリビングから急いで出ていく。

 多永子は二人の会話を聞いていたが、全く頭に入ってこない。

 曜子ちゃんが死んだなんて……お腹の赤ちゃんも死んだなんて……信じられない。何が、何が起こったの? あの男(浩一)は何をしていたの?

「お義母さん、立てますか? お辛いと思いますが、早く行ってあげましょう」

 花恵に再度促され、多永子はようやく、ふらつく身体を支えてもらいながら立ち上がった。


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