望月の章 第七話(三日月亭)
「三日月亭......
立派な瓦屋根ですね...緋夜さん」
隣に立つ彼女に声をかける。
「はわわわわわわ...」
感極まってる―
「緋夜さん.....緋夜さーん?」
何度か声をかける。
「ふぇ...あ!すみません!!!
凄く立派なので...驚いちゃいました」
頬を少し染めながら微笑む
「あはは.....とりあえず、泊まれる部屋があるか聞きましょうか」
「はい!」
三日月亭の扉を開き―室内へ入る。
受付所にいる女性に声をかける。
「あの...空いている部屋とかありますか?」
「は、はい!!
あ、空いているお部屋でしゅね!
も、も……申し訳ありません……ひ、一部屋しかあいてなく…」
「一部屋...ですか」
どうしたものか―。
「珠月さん?
泊まらないんですか?」
不思議そうな顔でこちらを覗き込む。
「一部屋 泊まります」
「ふぁい!それではご、ご案内致しますね……!」
「ありがとうございます...」
この先が少し不安だ―。
「こ、こちらが……スミレの間でございましゅ!」
入口から離れた角部屋に通された。
畳の香りがふわりと香り――落ち着く。
「お、御夕食の準備が出来次第、お持ちしましゅね……
ご、ごゆっくり!!」
慌てて一礼をして受付に戻る―
受付係の女性―あがり症の方だったんだなぁ――。
「緋夜さん...良いお宿を見つけまし...た.....ね?
緋夜さん...?」
先程から一度も言葉を発しない彼女が気になり声をかけると。
「なさい……ごめんなさい...ごめんなさい...
わ、わたし...ちゃんとしますから...御祖父様」
身を縮ませて震えながら呟き続ける。
視線の先にある物は―小さな庵
火柱が小さく立っており―木が燃える音がする。
「緋夜さん! しっかりしてください!
ここに貴女のご家族はいません!」
彼女の肩を掴み揺らす。
「ひっ...み、珠月さん?
すみません.....わたし...」
酷く青ざめ目には涙を浮べる。
「大丈夫...大丈夫ですよ。
落ち着いて深呼吸して...」
「はぁー...ふぅー...はぁー...ふぅー。
ありがとうございます.....二回も助けて貰って」
「落ち着いたみたいですね。
あはは...何度でも助けますよ。縁が私たちを巡り合わせたのですからね」
「縁……ですか?」
「はい……って気味悪いですよね?すみませんでした。
少しでも落ち着けたらと思いまして……」
「ふふっ、ありがとうございます。珠月さんのおかげで落ち着けました!」
ほんのり薄紅色の目元を残しながらも笑う彼女。