望月の章 第六話(月夜の宿探し)
驚いた―望月家の人に会えるとは。
「緋夜さん……ですね。
私の名前は…梅咲珠月です」
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「珠月さんですね、よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。
濃い紫の瞳が珠月を見る。
一重梅色の髪は簪でまとめられている。ぱっと見た感じでは足の関節くらいまで長いのかもしれない、銀鼠色の瞳はどこか寂しく感じる。
服装は馬乗袴を着て漆塗りの下駄を履いた姿で不思議な雰囲気を漂わせる。
珠月さんが動く度に鈴の音がどこかで―。
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「かしこまらなくても良いんですよ?
それに、緋夜さんの方が年上だと思うので…」
そう告げると―彼女は驚いた顔をし慌てふためいてる。
どうやら年上に見えたようだ―。
「すみません! てっきり、私よりも年上の方だと思いまして…」
「いえいえ…お気になさらず」
ふと辺りを見回す。
茜色の空はもう漆黒色へ変わっていた。
空を見上げると、黄金色に輝く月が私たちを見ている。
「緋夜さん…まずはお宿を探しに行きませんか?
いつまでもここにいる訳には…」
「は、はい! お宿…ですね」
彼女の手を取り―歩幅はゆっくり合わせて歩き出す。
月明かりのおかげで道がよく見える。
この地には灯篭がやけに多いが、辺りを見回しても外出している者はいない。
夜は誰も出歩かないのだろうか?
そう、疑問に思いながら歩を進める。
「なかなか...お宿が見つかりませんね。夜も深くなってきて肌寒くなってきましたし早めに見つけたいですね。
緋夜さんは大丈夫ですか?」
「寒さで手が冷たいですが……大丈夫ですよ!」
「緋夜さん……無理はしないでくださいね。
あ、緋夜さんはここに詳しくないんですか?」
「無理をしないように無理をしますね!
はい……私、外の世界とか知らなくて」
無理はする気なのか――。
黒い風の噂と言うのはいよいよ―真実味を帯びてきた。
「あ、あの緋夜さん...下駄大きくないですか?
その私の足の大きさに合うように作って貰ってるので……」
今、彼女が履いてる。漆塗りの鈴付き下駄はある意味、敵に居場所を教えてしまう欠点だらけなのだが―これはこれで使えるものだ。
「いえ、大丈夫ですよ!
小さくて私の足にピッタリです!」
「それは..…….その……良かったです」
なんだろう―ちょっと悲しいような。
「あ、珠月さん! あそこ...提灯が灯ってますよ!
もしかしたらお宿かもしれませんよ!」
嬉しそうにこちらを見て伝えてくる。
「あの灯りは……近くまで行きましょう!緋夜さん」
彼女の手を引き提灯の灯る建物まで近づき―――。
「緋夜さん……お手柄です! この建物、立派なお宿ですよ!」
瓦屋根の立派なお宿
看板には―――――『三日月亭』