望月の章 第五話(黒髪の乙女)
すぐそばで、何かが倒れる音がし目が覚めた。
もう夕暮れ―長い間眠ってたらしい。
流石に疲れ過ぎていると思いつつ――音がした方に視線を移す。
黒髪の女性が口から血を吐き倒れていた。
驚きすぐさま駆け寄り声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
だが、反応が無い――気を失ってる?
それとも――いやいや微かに呼吸はしている。
少々呼吸が乱れて苦しそうだが生きてはいる。
こういう時は医師の元に―と言いたいがどこにあるのやら。
とりあえず、彼女を地べたに居させる訳にはいかない。
慎重に抱きかかえて柳の木の下まで運び寝かせる。
抱きかかえて驚いた事がある。
非力な私でも軽々と運べる―体重が軽い。
服はボロボロ―それに手首と足首には枷が付けられている。
何度も擦れたんだろうか皮膚が裂けている。
枷の錆び具合からして彼女は――幽閉されていたと見える。
とにかく、今出来ることをしよう。
傷口を水で洗い流し、常に持ち歩いていた傷薬を塗り包帯を丁寧に巻く。
枷は流石に外れなかった―鍵がないと開かないのだろう
せめて、隠せるようにと自身が羽織っていた羽織を彼女に着せた。
袖が長いから腕は見えないはず――問題は足首の枷。
こればかりはどうも隠しようがない。
そうこう考えてると――。
「うっ…………ここは?」
目を覚ましたようだ。
辺りを見渡し不安げな顔をする。
「あ、あの……私……ここから離れたくて……それで。
あ、あの子……あの子を助けてくれる方を……探して」
言葉が詰まって胸を苦しそうにしている。
「落ち着いてください……まずは深呼吸をしましょう?」
今は彼女を落ち着かせないと話が進まない。
彼女は、言われた通りに胸に手を当てて落ち着かせるように深く息を吸って吐くを二、三回繰り返す。
「すみません……でした。」
「いえ、偶然見かけたので...介抱したまでですよ。
失礼ながら貴女のお名前をお聞きしても...?」
「あ、ありがとうございます!
わ、私の名前は――望月緋夜と申します。
その...望月邸から逃げて来たんです。」
初めて彼女と視線が合う。
濡羽色の長髪で髪の手入れをしたらさぞ艶やかで美しい髪になるだろう。そして濃い紫色の瞳―顔立ちは幼さを残したままで愛らしさもある。右顔は包帯で隠されている。
首元には―うっすらと斬られたような痕と火傷の痕が見える。