望月の章 第三話(造り手による昔話)
「そう言えば……望月家は地主様なんでしたよね?
だから、依頼を……」
「あの家系が地主様…ふっ、元は余所者だ」
「余所者……?」
甘味処では地主様って聞いたのに――どういう事だ?
「おい……なにを呆けてる。誰から地主様と聞いたんだ?」
「え、あぁ……甘味処の女給さんから聞きました」
「嗚呼……アイツか」
「えーっと……知り合いなんですか?」
「腐れ縁なだけだ……。もう一度言うがな……あの家系は元余所者だ」
理由を聞いて良いのだろうか――。
「あの…なぜ元余所者って知ってるんですか?」
「それは…」
言いにくそうに口を閉ざした後、話を変える。
「この地で信仰されてた子を穢したって」
この地で信仰されてた子?
「それは……人なんですか?」
「いや、人じゃない……真神と言う奴らしい」
「真神……」
初めて聞く名前だ――人じゃないのなら、動物なのか?
「その真神はなんなのかご存知ですか?」
「あの子が言うには、白銀色の毛並みをした狼らしい」
「白銀色の毛並みをした狼……ですか」
白銀の狼―自然界だと悪目立ちするなぁ。
「そういえば……あの子は白髪だったな」
「望月邸で会った子ですか?」
「あぁ……白髪で薄紫色の眼をしていたよ」
「儚げな子ですね」
色素が薄い子なのだろうか。
「儚げ……確かにそうだな。
あ、儚げで思い出した話があるんだが……」
「どんな話ですか?」
「爺様の小さい頃の話だ……うろ覚えですまないが」
「構いませんよ」
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「俺の爺様がまだ少年でやんちゃ坊主だった頃の話だ。
酒蔵の友人に誘われて荒れ果てた土地に行ったんだ」
「それはなぜ……?」
「そこである『儀式』をするからだ」
「『儀式』?」
「あぁ……望月邸の子が願いを叶える場面をね」
願いを叶える? どういう事だ―急な話で頭が追いつかない。
そんなのを他所に彼は話し続ける。
「誰かが願ったんだよ。
この土地を良くしてくれ、水質を良くしてくれって
それを叶える為にわざわざ来てくれたらしい。
その子供の容姿が……白髪で儚げだったらしい。
印象に残ったんだろうな……」
思わず口を挟んだ。
「白髪の子が……人の願いを叶えたと?
人の身でそんな事って可能なんですか?」
彼は気難しそうな顔をして答える。
「なにか裏でもありそうだが……現にこの土地は豊かになり、水質も良くなった……願いが叶った証拠だ」
嘘だと思いたいが―彼が嘘をつく必要も無い。
――――という事はこの話は真実なんだろう。
「爺様が言っていた。
願いを叶える瞬間……白髪の子供が地に伏し祈り捧げる瞬間…苦しそうに胸を抑えていた」
その瞬間が見間違えじゃなければ――それは生命を捧げてる事になるじゃないか。
「生命を贄に……願いを叶えたんですかね?」
「そこまでは分からないな……」
これ以上は聞き出せそうにないな……。
簪を買って――ここを後にしよう。
「そうですか……長々とありがとうございます。
あ、簪一本買いますね」
「あぁ……まいどあり」
会計を済ませかんざし屋を後にする。
購入した簪を見てみる。
黄金色の花が象られており、花の中心には紅い宝石が嵌め込まれている。満月の下だとさらに美しく輝きそうで胸が踊る。
簪を自身の懐へ仕舞う。