望月の章 第二話(西条かんざし屋)
甘味処から出て少し歩きながら辺りを見回す。
西条かんざし屋と言う看板が目に付いたので入ってみる事に。
色とりどりの簪が並べられており一目見て分かるほど繊細で見るものを惹きつける装飾が施されている。
「いらっしゃい」
奥から造り手の方が出てきた。
無愛想だがとても力強い印象を与える目をしている。
「すみません…とても素敵な簪があったのでつい」
「そうか……ゆっくり見て行ってくれ、その方が彼女達も喜ぶ」
「えーっと簪の事ですか?」
「そうだが?」
造り手は当たり前かのように答える。
どうやら、彼はお店に並ぶ簪達を我が子のように見ている。それだけ愛情を込めて作り出したのだ。
ここは褒めて交流する方がいいな。
「あぁ……だから繊細で目を惹き付けられる簪が生まれるんですね」
造り手に伝えると、無愛想な顔から少し嬉しそうな顔を見せる。
「ありがとう…そんなふうに言ってくれる人がいなくてね。
いや、唯一一人だけいたかな?」
嬉しそうな声―だがどこか寂しげに聞こえる。
「昔……誰かに褒められたのですか?」
唯一一人だけ――そこが少し気になり聞いてみた。
「昔……ちょっとした用事というか、仕事で望月邸に招かれてね」
造り手の方は少し考えてから口を開く
「望月邸に……ですか?」
「嗚呼…そこで会った子が俺の作った簪を褒めてくれたんだ。
とても恥ずかしそうにしながら」
懐かしそうに少し笑いながら話す。
「その子とは今も……」
「いや、あの日以来会っていない」
「それじゃ...」
「あの日は依頼で望月邸に招かれただけ…。
依頼のこと以外に話すことは無いだろ?」
「それもそうですよね……」
なんとか気になる所を聞き出せないだろうか――。
この造り手の方、気難しそうに見えるだけで実際は作品に対する熱量が凄いんだ。
作品を通して聞き出す?答えてくれるだろうか?いや、答えてもらわないと。
そうだ、地主であるから依頼を受けたのかを聞こうか。
甘味処でも聞いたが―望月家が地主である事しか今は知らない。
他の事を聞きたい―お屋敷内はどんな感じだったか?そこに住む人達に対する第一印象は?
いや、最初に確認すべき事は地主である事かな。
甘味処の女給が嘘をつくような人には見えなかったが――。一応、かんざし屋の造り手の人にも確認として聞いておこう。